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バイカー同士で交わす秘密のサイン

道路でバス同士がすれ違う時、運転手が互いに手を挙げて挨拶を交わす。

街中で一度は見かけたことがあるのではないだろうか。

僕は、あのさりげない一瞬のやりとりが好きだ。

一人であの大きなバスのハンドルを握り、地域住民の命を背負って安全に目的地へ走らせる。毎日、運転手は相当なプレッシャーを感じるに違いない。

道路上で交わされるあの一瞬の挨拶には、同じバスの運転手としてお互いの気を引き締め合うと同時に、エールを送り合う儀式のように思っている。

「お前は一人じゃない、ともに頑張ろう!」

そんな声があのシーンから聞こえてくるのだ。

バイクに乗って色んな場所を走っている時も、バイカー同士ですれ違いざまに挨拶を交わすことがある。

それもやはり仲間意識からくるものだろう。

最近はほとんど出会うことがないが、手を挙げる代わりに「Vサイン」を出してくるライダーもいる。僕も今まで何度かすれ違ったことがある。

Vサインといっても、写真で撮る時に出す一般的なピースサインではなく、手の甲を相手に見せた「反転Vサイン」である。

このVサインがバイカーのなかで流行していた時期があったらしい。

いかにこのVサインを相手よりも早く出すか、という一つの闘いであった説もある。そうなると、もはや単なる挨拶というより、まるで西部劇で早打ちの一騎打ちをするかのような真剣勝負である。

いずれにしても、バイカー同士にしか交わされない秘密のサインだ。

じつは、映画「男はつらいよ・ぼくの叔父さん」(第42作・1989年)でも、このVサインがさりげなく登場していて、僕は思わず興奮してしまった。

寅さんの甥っ子の満男は、突然、親の事情で九州に転校することになってしまった恋焦がれる泉ちゃんに会いに行くため、家を飛び出す。

東京・柴又から佐賀県まで、あてもなく走るバイク旅の始まりである。

徳永英明の「夢を信じて」が流れながら、満男がバイクを走らせていく。

途中、山道の反対車線から走ってきた数台のバイク集団に突然Vサインを出された満男は、不意を突かれながらもVサインで応じているのだ。

さすが山田洋二監督、こうした旅を描くシーンの演出に抜け目がない。

僕の憶測では、バイカー同士が手を挙げて挨拶を交わすかどうかは、走っているロケーションによってもだいぶ変わってくる。

その典型的な場所の一つが、北海道である。

学生時代、僕が後輩たちと北海道へキャンプツーリングした時はそれが顕著だった。もはや手をシンプルに挙げるどころか、お互いに北海道を走っているのだ!という喜びをすれ違いざまに爆発させるのだ。

北海道のひたすら続く直線道路を走っている時、向こうから十台近くで走るバイク集団が現れ始めた。

その瞬間、僕はバイクに跨りながら立ち上がり、右手を大きく左右に振って笑顔で挨拶を交わした。もちろん、相手も全員が同じようにして笑顔で手を振り返してくれる。

さすがバイカーの聖地、北海道。

あぁ、もう思い出すだけで北海道に行きたくなってきた。

言葉を交わさないサインのやりとりは、じつはいろんな場所でなされているように思う。

バスの運転手だけでなく、タクシーやトラック運転手、電車でも駅員と車掌同士など、色々なサインを送ることがあるのではないだろうか。

普段、車に乗っている時でもある。

道を譲った時、もしくは譲ってもらった時。

ライトを点滅させたり、クラクションを鳴らしたりしてお礼をしてくれる人も多いが、相手の顔が見えるほど距離が近い場合、手を挙げてくれる人も必ずいる。

僕はそうやって手を挙げてくれた人に対して、同じように手を挙げるようにしている。

それは車を運転していたある日、都内の狭い道で1台のトラックが道を空けてくれて、僕はお礼に手を挙げた。すると、そのトラックを運転していたおっちゃんは、瞬時に手を挙げ返してくれたのだった。

「なんてことないよ!気を付けてな!」

そんな声が聞えてくるようだった。とても気持ちが良かった。会話ができないからこそ、そうした小さな気配りやリアクションが人の心を和ませてくれる。

その日以来、僕は車を運転している時でも相手が手を挙げてくれたら必ず手を挙げ返すようになった。

今度、道を譲ってくれたら車の中で瞬時にVサインでも出してみようかな。

すれ違った直後、きっとその運転手は吹き出すことだろう。

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トップ画像は、北海道・富良野にて撮影。以下、北海道の写真を少しだけ。

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