エチオピアのコーヒー協同組合訪問をしながら現地のコーヒー流通を学ぶ
前回の投稿では、中米のグアテマラ訪問時の情報をシェアさせていただきました。
今回は、アフリカのエチオピアのコーヒー協同組合を訪問したときの日記を、ポストします(約6000文字)。
また今回の記事ではエチオピアのコーヒー産業の概略や、現地への訪問方法、そして農業に関わる組織がコーヒー産業でどんな役割を担っているのかについても、触れていきたいと思います。
「エチオピア概略」
エチオピアの首都はアディスアベバです。
アディスアベバは首都にも関わらず標高が2350ⅿもあり、赤道近くの国であるにも関わらず、からっとした涼しい気候です。
夜はかなり冷え込み、ダウンジャケットが必要になるほどでした。
アディスアベバのボレ空港はアフリカ各国への中継地点となっており規模の大きな空港です。私は乗り継ぎの際にこの空港の治療室のお世話になりました、いやー、大変でした(汗)。
空港は一般人の侵入は禁止されています。そのため、到着後のロビーは閑散としていました。
スラムのような区画や、比較的発展した区画とが入り組んでおり、ちょっと歩く道を間違えてしまうと強盗に合うこともあります。
かくいう私も二人組に、襲撃されそうになりました。
アディスアベバには民族博物館があったり、観光スポットもあるので、観光に来ている方もいました。でも基本的には皆さん、エチオピアの国内にある観光スポットを回る際の基点として活用していて、アディスアベバ目当ての方はあまりいません。
エチオピア国内には、古くからの生活を守っている少数民族が住んでいたり、豊かな自然を元にした観光地もあるため、それを目当てにした渡航者も多いようです。
バスで移動するにしても、飛行機で移動するにしてもアディスアベバは経由するので、マーケットを見て歩いたり、博物館に行ってみるのは勉強になると思います。
でもくれぐれも安全を第一にした行動を心がける必要がある街です。
「エチオピアのコーヒー産業」
コーヒーにとってエチオピアは、いろんな意味で特別な国です。コーヒー発祥の地であり、様々な品種の遺伝的宝庫にもなっています。
そして、エチオピアにとってもコーヒーは特別な農産物です。エチオピアの輸出収入の内、コーヒーは半分以上を占めています。
エチオピアのコーヒーはすべてがアラビカ種で年間の生産量は660万バッグ(40万t程)になっています。
エチオピアはスターバックスでも定番豆として提供されています。
グアテマラと同様ミディアムローストで仕上げられており、CITRUS&DARK COCOAと表現されるようにダークチョコレート、ペッパーのようなスパイス、そしてスイートシトラスの風味が特徴のコーヒーです。
普段提供されている豆は水洗式で加工されているので、シトラス系の香りがより強く感じられるのかもしれません。
中米の産地訪問では大きな資本の入った農園や精選所を見てきました。しかしエチオピアの大半のコーヒー農家は小規模農家で栽培を行っています。
農家は自身の収穫したコーヒーを、自身の庭にあるアフリカンベッドで乾燥させ協同組合に販売したり、チェリーのまま協同組合に持ち込みます。
写真は小規模農家が、自宅のアフリカンベッドで乾燥させたチェリーです。
水が貴重なエチオピアでは現在でも大半のコーヒーを乾燥式で精選しています。
コーヒーの生産地として有名なのが、国の南西部のカファ地方、東部のハラ―地方、南部のシダモ地方です。私が訪問したイルガチェフは、シダモ地方に含まれます。
エチオピアのコーヒーの等級は欠点豆の数によって1~8までのグレードに分けられます。
300gの生豆の中にG1:0~3個、G2:4~12、G3:13~25 と規定数が増えていきます。輸出用のお豆はG5以上の豆に限定されていますが普段、生豆で仕入れるときに目にするものは、G1~G4くらいまでのものが多いように思います。
欠点豆:豆が虫食い、生育異常、カビ、割れ等があるものをいい、現地では以下のような豆が選別で除外されます。
「イエルガチェフェ訪問に向けて」
エチオピアではイエルガチェフェとジマを訪問しました。
エチオピアはコーヒーの味わいのバラエティーの豊かさも有名で、私自身コーヒーに取り組むきっかけとなったは、イエルガチェフェの花のような香りに衝撃を受けたことでした。
コーヒーへの興味を与えてくれたイエルガチェフェには、機会を見つけて必ず訪問をしたいと考えていました。
とはいえ、エチオピアは全土でほぼ英語が通じず (アムハラ語という独自の言語が使われています)、イエルガチェフェはコーヒー業界界隈では有名なものの、インフラは発展していません。
アクセスを調べようとしても、観光客が行くような場所ではないため、情報がなかなか出てきません。
ガイドを雇わなければ、自力で到達するのは難しい地域かと思います。
私は、先々でよき出会いにも恵まれ、イルガチェフェを訪問することができました。
一度現地に入ってしまえば、ITインフラが整っていない分、ヒトとヒトのつながりがしっかりしているので、知り合いの知り合いを紹介してもらえたりして何とかなったりもする、不思議な魅力のある国です。
「イルガチェフェへの移動」
イルガチェフェはエチオピアの南部に位置しています。
エチオピア国内の移動は、バスか、飛行機になります。首都であるアディスアベバを中心に、ローカルバス路線が放射状に張り巡らされています。
私はローカルバスに乗ってイルガチェフェに向かうことにしました。アディスアベバからイルガチェフまでは直行のバスがあり、乗り換えの必要もないので、バスにさえ乗ってしまえば迷うことはありません。
バスは所々の町で止まり、果物を買ったり飲み物を購入することができます。
現地では気軽にブンナ(コーヒー)を楽しむことができます。
アディスアベバからイルガチェフェまでは10時間程度の道のり、未整備の道路を現地の方とおしくらまんじゅうしながらの移動です。
途中休憩はあるものの、体力的にはかなりハード。でもローカルバスの移動は、現地の方の感覚を肌で味わえます。
大統領が変わって国は良い方向へ向かっているんだ!と嬉しそうに語るおじいさんや、
農家は今でも政府に搾取されているんだ!と怒りをあらわにする人、
ターミナルで買ったおやつをシェアしてくれるおばあさん、
私が降りるタイミングに困っていると片言の英語で助けてくれようとする人たち、
やさしさや、現地の方の感情に触れることができたのは、よい経験でした。
*エチオピアのアビー・アハメド首相はアフリカ北東部のエリトリアとエチオピアの国境紛争を終結に導いた功績を評価され2019年にノーベル平和賞を受賞しました。
「イルガチェフェの様子」
イルガチェフはネットで検索しても宿の情報が出てこないような田舎町、到着後に町を散策しながら宿を探します。
早朝に出発したにも関わらず、到着は薄暮のころに。
宿は町の中心部にあるホテルにしました。
広い部屋にぽつんとベッドが置いてあります。電気が通っていないのでローソクの火で明かりをともします。
湯が使えないので水浴びは最小限に。悲しいかな標高が高いので朝晩は冷え込みます。
宿を決めた後は、翌日のコーヒー農園訪問に向けて周囲をうろうろしながらコーヒー農園につてがある人を探し、近くの農協とコーヒー農園を訪問させてもらえることになりました。
朝になればあたたかな日差しとともに活動開始です。
エチオピアでは主食として食べられるインジェラというクレープのようなものが食べられています(写真に写っているクレープ上のもの)。どこのお店に行ってもこのインジェラが必ずあり、酸味のある独特の味わいです。
この生地に肉や野菜など煮込んだものを巻いて食べます。インジェラは、テフと呼ばれるイネ科の穀物の粉を水で溶き、数日発酵させてからクレープ状に広げて片面だけ焼きます。
写真はティブスという肉のソテー、こちらをインジェラで巻いて食べます。インジェラは好みがわかれるようですが酸味のきいたクレープのようです。
ワットと呼ばれる煮込み料理やティブスは、日本人の味覚にも相性が良いように思います。日本でも中目黒にあるクイーンシーバ というエチオピア料理レストランで楽しむことができるので、興味が出たら試してみてください。
https://tabelog.com/tokyo/A1317/A131701/13003457/
「農協(精選所)訪問」
イルガチェフェには、地域ごとに協同組合が管理する精選所があり、私はその中で最もイルガチェフに近い精選所を訪問しました。
中心地から協同組合の持つ精選所まではバイクで20分ほど、四人で一台のバイクに乗り、振り落とされそうになりながら移動します。
私が訪問した時にはコーヒーの収穫期は終わり、乾燥したコーヒーを選別する作業を行っていました。訪問時にはゼネラルマネージャーの方がいらっしゃり、敷地の中を一緒に歩きながら説明してくれました。
「共同組合(COOPERATIVE)とECXの役割
今回イルガチェフェでは一次協同組合を訪問しましたが、コーヒーなどの輸出産物の生産国の多くでは国が農作物を把握、管理するために国の組織を通して流通させます。
国によって流通のどの段階で介入するのか、どれだけ介入するのか、は変わってきます。今回は農協を訪問したこともありエチオピアでのコーヒー流通の仕組みを見ていきたいと思います。
エチオピアでもコーヒーを外貨獲得の手段と考え、積極的に制度や組織を作り管理をしています。
エチオピアでは一次協同組合と共同組合連合そしてECXが流通の中で活躍しています。
一次協同組合は小規模農園のそばで集荷、加工の伴走者として機能しています。ここで集められた豆は共同連合組合に集められます。
写真はボンガにある協同組合連合の写真
写真の左奥に見える建物の中では、一次協同組合から送られてきたパーチメントコーヒーをさらに分別しています。
こちらの建物の中でコーヒーをピッキングする作業の賃金は1.5USDほどです。
そもそも都会から離れた地域で、農作業に従事する農園主は搾取されることも多く、国は安定的な収入を農園主に約束し、需給を安定させるためにECXという公的な組織を2008年に設立しました。
この組織が現在でもエチオピアのコーヒーの輸出の際のイニシアティブをとっています。
ECXは買い手と売り手の双方を保護できる効率的な取引システムを構築することを目的にして設立されました。
彼らは国内で生産されているコーヒーを産地、精選方式、品質格付けを行いナンバリングします。こうすることでコーヒーの価格に一定の基準を設け、不明瞭な取引をなくし、生産者の生活を安定させるとの理念からスタートしました。
素晴らしい理念のもとに設立された一方で、私が訪問時に聞く限り、このシステムはすこぶる評判が悪かったです。
ECXを運営する上では様々な施設が必要となり、その維持費や不透明な金の動きが生まれる原因にもなっており、コーヒー農家はしきりにCollapse(腐敗している)と言っていました。
また地域を絞って特別な豆を仕入れたいというこだわりのあるコーヒー輸入業者にとっても、一度集められ、ざっくりとナンバリングされてしまったコーヒーは、品質の担保が難しく、扱いにくい商材となってしまったそうです。
ただ、ECXを通さずに海外への輸出を行える共同組合連合もあり、こだわりの豆を仕入れる業者は、そちらを通してスペシャルティコーヒーを購入しているそうです。
そんな背景がありますのでエチオピアの豆を選ぶ時は単に地域が書いてあるだけでなく農園や農協、そしてできれば流通経路を追いかけられる豆を選ぶことで、品質も良く、現地の方に適切な対価を払った消費ができるようになると思います。
「一次協同組合の風景」
イエルガチェフェで訪問した協同組合の風景を写真を中心に紹介したいと思います。
こちらの農園では、自然の斜面を活用したアフリカンベッドが並んでいます。収穫最盛期の10月~12月はアフリカンベッドの上で乾燥されるコーヒーが見れるそうです。
私が訪問した1月はすでに収穫・乾燥が終わっていました。
乾燥の終わったコーヒー豆は、アフリカンベッドの下で、女性たちの手によって丁寧に欠点豆が取り除かれていきます。
女性陣は世間話をしながら楽しそうに作業をし、男性陣は重たいコーヒーの麻袋を運びながらちょっと手持無沙汰で暇そうにしている、そんな日常の風景がありました。
こちらの農協では水洗式、乾燥式両方の精選方式が可能だということ、中米と比べてしまうとインフラの整備は進んでいないのが実情です。
マネージャーの方にパナマを中心とする精選所の写真や動画を見せると、テンションも上がります。
「これはすごい機械だ」とか「これは我々もやっている」、などと言いながら、インフラの整っていない中でも、自分たちのコーヒーが人の手をしっかりとかけて選別を行い、品質を向上させようとしている姿勢や自分たちのコーヒーに対する自信を感じます。
現地の方の努力はあるものの、イルガチェフェのコーヒーをイルガチェフェたらしめているものは、精選工程でのテクニックというよりは品種やテロワール(気象条件、土壌、地形)によるものが大きいのではと感じます。
だからこそエチオピア各地でとれるコーヒーはバラエティーに富んでいるのだと感じます。
エチオピアではジンマやイルガチェフしか訪問できませんでしたが日本に帰国したらできるだけエチオピアのいろいろな産地のコーヒーを試してみたいと思います。
今回はエチオピアの中でも特に香り高いコーヒーを生産する、イルガチェフェへの訪問を文章にするとともに、コーヒーがどのように取引され我々のもとに届くのかを文章にしてみました。
現地の風景を眺めながらコーヒーとともに豊かなひと時を