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マーケットトレンド|IR / 社外取締役 転職マーケット動向

Tiglon Partnersは、創業当初から強みを持つ金融業界(投資銀行・グローバルマーケッツ・資産運用等)はもちろん、コンサルティング業界、製造業界、エネルギー業界、また業界横断的な機能であるIR、社外取締役、法務等それぞれに専任のコンサルタントが所属し、各業界・各領域に精通したコンサルタントが採用支援・転職支援を担当しています。

今回は、IR領域、及び社外取締役領域を担当するシニアコンサルタントである小口に、現在の同ポジション領域の採用動向をインタビューいたしました。

※本記事の内容はTiglon Partnersで取り扱う求人をベースにしたマーケット動向となっています

IR領域について

現在の採用マーケット状況

他国との比較において流動性が低いと言われる日本の人材市場において、IRは非常に流動化が進んでいる領域でのひとつで、常に一定の求人数が存在します。
IR担当者は、業務の性格上、外部との接点が多いポジションです。仕事を通じて社外の関係者とやり取りをする中で、外部のオポチュニティに関する情報をキャッチする機会も多いことが、人材の流動化を加速している一因と考えられます。

現在ご依頼をいただいているIR領域の求人は、30ポジション以上あります。業界・セクター等に大きな偏りはなく、企業規模の大小を問わず全業界でまんべんなく採用ニーズがある状況です。

IR関連のポジションを業務内容でシンプルに大別すると、以下の通りです。

【IR領域の人材】
①機関投資家向けのコミュニケーション含めた対応をする担当者
②社内外関係者との調整(ロジスティクス)に対応する担当者

私たちのような人材エージェントにいただく依頼のほとんどが、①の人材になります。②については、人事異動や他業務との兼務等、社内でソーシングされるケースが多いようです。

IR領域での転職には、機関投資家向けの対応の経験があること、あるいは将来的にその業務を務めるポテンシャルがあることが必須要件になります。具体的にどのような人材が求められているかについては、「求められる人材像」の項目で詳しくお伝えします。

採用環境を取り巻く社会的背景

IR領域を取り巻く採用環境は、日経平均が最高値をつけた1989年から現在までの約35年間で大きく変化しました。
現在IR部門は、各社で幹部候補となるようなエース級の人材がアサインされるポジションになっていますが、かつては経理財務や広報等の部署で片手間に兼務される業務として扱われていた時代もありました。

IRが部署として独立した存在になっていった背景には、日本の株式市場の変化が大きく影響しています。
1989年当時の日本の株式市場において、機関投資家による持株比率は非常に低く10%台前半でした。現在では2割強が国内機関投資家、3割強が海外機関投資家と、国内外の機関投資家保有比率が過半数となっています。
つまり、日本の株式市場の機関投資家化現象が進み、株式市場の担い手が合理的な投資の意思決定をする機関投資家になったことにより、株式の発行体である上場事業会社はIRを強化していかざるを得なくなったと言えるでしょう。

求められる人材像

IRポジションの採用に際して、採用要件として挙げられることが多いのは以下3点です。

【IRポジションで求められる採用条件】
①機関投資家向け対応の経験者であること
②ビジネスレベルの英語力があること
③できる限り若手の人材であること

一方、この3つの条件全て満たす人材は、人材市場にほとんどいないのが現状です。
このよう状況下で採用を行うにあたっては、②を必須の条件としながら、①または③の条件いずれかを緩和していただくことをご提案しています。

【採用条件パターンA】
ビジネスレベルの英語ができる方で、機関投資家向け対応の経験はないものの、将来的にそうした対応ができる経験的・人物的素地(ポテンシャル)をお持ちの若手人材を候補とする

【採用条件パターンB】
ビジネスレベルの英語ができる方で、機関投資家向け対応の経験があるシニア人材を候補とする

また上記条件以外に採用にあたって配慮されるポイントとして、既存IRチームメンバーの定性的スキルが挙げられるかと思います。
IR人材の定性的スキルパターンは、大きく下記の通り2分されます。

定性的スキルパターン①:数字に強い人材(経理財務系)
定性的スキルパターン②:コミュニケーションに強い人材(広報系)


採用を進めるにあたって、既存チームが「数字に強い」人材に偏っている場合には「コミュニケーションに強い」人材を、また逆の場合には「数字に強い」人材を採用する傾向があります。これは、スキルセットのバランスを取ることにより、IRチームとしてのポートフォリオを最適化するという発想が根底にあるものと考えられます。

社外取締役領域について

現在の採用マーケット状況

2021年の会社法改正およびコーポレートガバナンスコードの改定により、社外取締役に関する規定が強化され、プライム市場上場企業では3分の1以上の独立性のある社外取締役選任が求められるようになりました。
2023年上半期現在、プライム市場上場企業の92%がその条件を満たしていると言われており、社外取締役選任における「目先の数合わせ」というマーケット環境はひと段落したと言えると思います。

一方、現状『3分の1以上』が条件とされている独立性のある社外取締役の割合が、近い将来『過半数以上』にハードルが上げられることが予想されていることから、ガバナンスへの意識が高い企業は、それを見越して新たな候補者サーチを既に開始しています。

領域における課題

各社の社外取締役の人員構成や採用においては、大きく2つの課題があると言えると考えています。

課題①:ダイバーシティ
社外取締役を多様性に富んだ人員構成にすることはコーポレートガバナンスコードにも明記されていますが、特に日本企業においてはジェンダー・ダイバーシティの観点から女性の社外取締役を求めるケースが多くなっています。実際に、私が現在取り扱う社外取締役案件のうち約8割が女性社外取締役サーチです。一方、世界経済フォーラムが発表するジェンダーギャップ指数において日本の順位は非常に低く、社外取締役となり得る経験を持った女性候補の数が多くないことから、需給ギャップが生じている状態といえます。
今後も中長期的にこの課題は続くと考えられます。

課題②:スキル・マトリックス
スキル・マトリクッスは、各取締役の持つ能力・知識・経験等を一覧表にしたものです。コーポレートガバナンスコードでも、スキル・マトリックスの作成・開示が推奨されており、企業側の関心も高まっています。
取締役のスキル・マトリクッスを開示することにより、どのような領域に強みをもつ社外取締役が選任されているのかを明示する一方、どのような領域に専門性を持った社外取締役を補完する必要があるのかということも明示することになります。
今後スキル・マトリクッスの開示に取り組む企業数はさらに増えると想定され、それにともない各社から現状のスキル・マトリクッスを補完するための社外取締役候補者サーチも進むと考えられます。

求められる人材像

社外取締役として最も重要なポイントは、企業経営の目線を持ちうる経験と実績です。広告塔的な目的でタレントや有名Youtuberなどが社外取締役に就任することもありますが、通常は他社での役員経験やそれと同等レベルの経験が求められます。
そうした条件を前提とし、財務・会計/リーガル/グローバル経営/マーケティング/デジタル/ESGなど、各社が求める専門領域に強い人物が候補としてノミネートされます。
企業経営の目線があり、特定の領域における専門性や強みとなる分野での有識者であることが、社外取締役の候補の必須要件になると言えます。

インタビュー実施:2023年8月


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