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社会的価値が求められる世界におけるデジタルプロダクトの作り方 〜後編〜

パーパスやSDGsなど、企業の社会的意義が問われる時代になりました。そのような時代において、企業は何を考え、どのようにプロダクト開発をしていけばいいのか。2021年8月に行われた日経BP社主催「金融戦略デジタル会議」に登壇したタイガースパイク日本代表の根岸の講演内容を、noteで再現しました。今回はその「後編」になります(前編はこちら


社会的価値が求められる世界におけるデジタルプロダクトの作り方

前回(前編)は、そもそもなぜ「社会的価値」が求められる世界になってきたのか、そしてそれはどのような世界なのかを見てきました。あわせて、その世界におけるパーパスとSDGsの違いについてもご説明しました。

 ここから(後編)は、では、そのような世界において、デジタルプロダクトはどのように作っていけばいいのかについて、僕たちタイガースパイクのやり方をご紹介していきたいと思います。

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この図は、よいプロダクトをつくるために世界中の様々なフレームワークを組み合わせた上でタイガースパイクのオリジナル要素を加えたものです(詳細は以下記事参照)。

このアプローチの中でお伝えしたいことはとてもたくさんあるのですが、今日はその中でも存在意義(パーパス)を「体験」そして「プロダクトの機能」に落とし込む時に特に重要な要素だけをかいつまんでお話させていただきます。

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まずは、存在意義を考え、そこから体験につなぐ点についてお伝えします。ここで用いる存在意義は、達成すべき目的であるパーパス、達成すべき世界観であるビジョンと考えてもらっても構いません。

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最初のポイントは、ここまでの話から当然の流れではありますが、「提供するサービスの存在意義(パーパス)を考える」点です。「社会的」な意義かどうかに関わらず、どのようなプロダクトでも、本来は、企画開発に携わる全ての人が拠り所とできる存在意義がどっしりと備わっていないといけないと考えています。

 「本来は、」とあえて前置きしたのは、そうではないプロダクト開発が行われているケースが見られるからです。

 ベンチャーやスタートアップ企業等の作るプロダクトは、その存在意義をかなりの熱量を込めて定義することが多いと思いますが、大企業等の場合、その定義が存在しない、もしくは、トップダウンや部門間のしがらみの中で「魂」が抜け落ちたものになっているケースが少なくありません。その場合、そのプロダクトに関わる社内メンバーや、僕たちのような外部パートナーも、拠り所が見当たらず、結局、最初に決めた(与えられた)機能リスト通りにただ作ることになりがちです。

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例えば人気のレストランには必ず、そのお店の存在意義があります。レストランで存在意義という言葉は使わないかもしれませんが、そのオーナーには、流行り廃りに流されない、絶対的なこだわりや世界観があります。それが、料理、店構え、内装、接客、立地、価格の全てを貫く、運営に関わる全ての人にとっての拠り所となります。

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僕たちは、プロダクト開発もそれと同じと考えています。

 プロダクトを作る際には、競合や顧客を理解した上で自社独自の強み(UVP)を見出し、その後に体験をデザインし、それを機能やUIデザインに落とし込みますが、どの工程においても、判断する際の最後の拠り所はこの存在意義になると思っています。

 また、これらの工程にはいろんな専門職種のメンバーが関わりますが、彼らが一体感を持ってやりきるためにも、北極星となる存在意義はとても大きな心の拠り所となります。

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プロダクト開発にタイガースパイクが関わらせてもらう場合には、メンバーを一同に集め、存在意義を元にメンバー全員の考えや思いを擦り合わせていきます。ここでは、「一枚岩になる」ことが目的であって、ただ結論が出ればいいわけではありません。なので、結論をすぐに出せる(かつ出したい)頭の回転の早い一人の偉い人がどんどん決めていくべきだと言ったとしても、それを制してアクティビティや対話を行う必要があります。

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たとえばこれはタイガースパイクが2013年から用いている「Air Plane Model」というフレームワークを用いたアクティビティで、存在意義を元に、メンバー全員で、

・(予めターゲットの期間を定めた上での)理想状態
・現在の状態
・(現実から理想に向かうための)触媒、ないしエネイブラー
・(理想に向かうのを妨げる)障害

を出し合い、それに対する対話をしていきながら、考えと思いの統一を図っていきます。

 繰り返しになりますが、合理性を突き詰めすぎてしまうと、これらのアクティビティや対話は「誰かが責任持って決めればいいもの」として端折られてしまうリスクがありますが、ここでの目的はあくまで「メンバー全員が存在意義を元に一枚岩になること」なので、たとえ結論が同じだとしても、それにかかる時間は確保する必要があります。

 このようにして存在意義やそれを取り巻く状況や状態をメンバー全員で理解し、進むべき方向に対する思いを重ね合わせることで、存在意義からブレない独自の強み(UVP)の創出、そしてその後の体験のデザインにつなぐことができます。

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次に、体験のデザインと、そこから機能につなぐ点について、大事なポイントをお話します。

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ここでは、2つのポイントをお伝えします。最初は、検討してきた価値を確かめる際に「HowではなくWhatやWhyの視点で有効性を見る」点です。

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存在意義に対してブレないチームを作り、強み(UVP)の創出をした後、体験のデザインに入ります。

 具体的なユーザー像であるペルソナ(Who)や、一連の体験(ジャーニー)の中でどんなペイン(嫌なこと)やゲイン(嬉しいこと)があるか(When, Where, What)を探索していきます。それらを網羅的に探索・検討した上で、ソリューションアイデア仮説(How)を導き出します。

 ここで大事なことは、Howを追わず、WhyとWhatを追うこと、です。ソリューションアイデアはあくまで仮説です。しかも、ユーザーは答えを持っていません。このような状況でHowを追う、すなわちユーザーからアイデアを引き出しても、価値のある情報は得られにくいです。

 逆に「なぜ使わないのか?」もしくは「なぜ使うのか?」というWhyの質問からは、ソリューションそのものの答えは出なくても、ユーザーの潜在ニーズや、ユーザーが求める体験の軸、すなわち、「コアバリュー」が見えてきます。

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では「コアバリュー」とは何か?コアバリューは、存在意義から体験を作り込んだ際、その体験の軸となる、ユーザーにとっての価値です。存在意義は作り手側の思いですが、コアバリューによってそれが「ユーザーにとって」の価値に変換されます。

 このコアバリューが、ユーザーフローの優先順位の検討や、機能を検討する際の軸となっていきます。

 スライドに示したのは「フィードバックしあえるサービス」におけるコアバリューの例です。

・手軽であること
・タイミング大事
・フィードバックを受ける人ファースト

 この3つを満たすことが、このプロダクトの軸となる価値となります。

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「コアバリュー」が出来上がると、ソリューションアイデアを具体的な体験のストーリー(スライド上は「ユーザーストーリー」と記載していますが、今はタイガースパイク内では「ユーザーフロー」という表現で統一されているため、以下「ユーザーフロー」と表現します)に落とし込んでいきます。この時に大事なことは、手段は書かず、あくまで「体験」に注力して書くことです。例えば以下のような表現になります。

”クライアントプロジェクトで関わりは薄いが、ヘルプに入ったプロジェクトなどで少し関わった人にも聞きたいので宛先として追加できる。”

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体験のデザインと、そこから機能につなぐ点に関する2つ目のポイントは、「ユーザーフローに対して最小の機能をあてはめる」です。これがまさに、体験から機能への変換点になります。

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「MVP」はきっとご存じの方も多いと思いますが、「Minimum Viable Product」すなわち「実用可能な必要最小限のプロダクト」のことです。ついついあれもこれもと盛り込んでしまいがちですが、それをすればするほどコストと期間がかさんでリスクが増すので、まずは小さく作ってリリースしちゃいましょう、という考え方です。

ではそのMVPはどうやって定義するのか。ここでコアバリューが登場します。

 まず、事前に定められたコアバリューに基づき、プロジェクトメンバー内でプロダクト価値の共通理解を築いていきます。改めてコアバリューに対して「たとえばこんな時は?」といった具体的な対話を繰り広げながら、具体的な共通イメージを持っていきます。

 それが出来た後に、ユーザーフローで出した一連の体験から、コアバリューを実現する最小限の体験は何かを突き詰め、削っていきます。ここでも誰か一人が機械的に行うのではなく、メンバー間の対話を通じて範囲を決めていきます。こうしてできたものが、MVPとなります。

その後、MVPの範囲に基づき、具体的な機能要件に落とし込んでいきます。

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具体的に機能要件をどう作るかは今日の講演では扱いませんが、1点、機能要件を作る際のよくありがちな失敗例をお伝えします。

 それは、アイデアから機能に飛びついてしまうことです。たとえば、「こんな機能があったらいいよね」「あんな機能があるべきだ」という話から、一足飛びに機能要件の作成に飛んでしまうことが、よくあると思います。

 これの何がいけないかというと、目線が「作り手」のままになってしまっていることです。僕も含め、目新しく面白いアイデアにはどうしても夢中になってしまいがちですが、「それがユーザーにとってどんな体験価値となるのか」を一連の流れ(ユーザーフロー)の中で見いだせなければ、採用してはいけません。この点は、ご注意頂ければと思います。

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ここまで、「存在意義(パーパス)− 体験 - 機能」をつなぐポイントとなるプロセスについてフォーカスをあててお話させて頂きました。まとめると、以下になります。

Tips1 仮説をつくる − 「提供するサービスの存在意義(パーパス)を考える」
Tips2 価値をためす − 「HowではなくWhatやWhyの視点で有効性を見る」
Tips3 価値をきめる − 「ユーザーフローに対して最小の機能をあてはめる」

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最後に全体をまとめます。

 前半は、なぜ「社会的価値が求められる世界」になってきたのかをお伝えしました。理由は様々ありますが、潮流としては、競争の領域が徐々に「機能 > 性能 > 体験 > 意義」にシフトしてきていることが挙げられます。

 後半は、ではそのような世界でどうやってデジタルプロダクトを作っていくのか、についてお伝えしました。ここでは「存在意義(パーパス) > コアバリュー > ユーザーフロー > MVP」という首尾一貫した流れを作ることが大事になってきます。

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最後に、タイガースパイクはオーストラリア発祥の会社で、英語圏を中心に、世界12拠点で活動をしています。どの拠点においても日本よりも社会課題への意識は昔から高く、今で言うSDGsの領域に該当するようなプロジェクトを多数経験しています。例えばスライドのように、国連の世界食糧計画の支援なども行っています。

 もし「社会的価値が求められる世界におけるデジタルプロダクト」についてご興味があれば、お気軽にご連絡いただければ幸いです。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました!


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