行動観察による市場調査のメリットとデメリット

新規ビジネスの企画や市場調査において行動観察というキーワードを聞くことも多いのではないでしょうか?この投稿では行動観察を実施してきた自身の経験を踏まえて行動観察による市場調査のメリットとデメリットについて、解説したいと思います。

顧客やエンドユーザなどの調査対象を調べる方法として、行動観察と呼ばれる手法があります。
その定義に関しては狭義、広義、慣例的なものがあり、なかなか分類・定義するのは難しいのですが、ここでは次に示す4つの調査方法のうち行動観察に最も近いものを行動観察として定義することにします。
厳密に分けない理由として、調査を行う際に方法の分類で計画を立てることは実践的でないと考えているからです。調査とは画一的に手法に落とし込んで実施するものではなく、慣れた人なら手法を決めるのは後半であり、顧客を理解する目的のための工夫の結果だと思います。調査とは調査ごとにカスタマイズして行うべきものであり、厳密に分類し方法から入るにことにそれほど大きな意味はないと思うためです。(もっともアンケートやインタビューといった手法には、それらの特徴を有効に発揮するために必要な条件、作法といったものは当然存在します)

調査方法の4分類

それでは市場調査における代表的な4つの調査方法に関する本投稿での定義を見ていきましょう。

【A:アンケート】
大量の対象に対して同一の質問を行い、その解答内容の分布に着目する方法。基本的には文書にて相手に回答を求めるものですが、調査員があらかじめ想定した質問だけをして聞き取る対面式の調査もここではアンケートと考えます。

【B:インタビュー】
一人もしくは複数の対象者と対面して話を聞きながら行う調査のこと。先ほどアンケートの分類に一部の対面式の調査を含めましたが、対象に応じて質問内容や訪ね方や、文言を変えたり追加の質問をするものをここではインタビューとします。

【C:ビッグデータ解析(行動ログ分析) 】
大量の対象者のアプリの使用履歴や位置情報、購買履歴などの自動的に計測された情報を取得して分析する調査方法。ここでは、たとえ行動を記録したデータを扱っていても、相手の顔や実際利用している場面を見ることなくログを収集・分析したものであればビッグデータ解析とします。また対象者自ら行動を記録して報告しているものであれば、ここに含まずそれはアンケートとして考えます。

【D:行動観察】
実際の調査対象者に、調査対象となる実際の環境もしくはそれを模した環境にて、行動を実践してもらい、それを目視もしくは準ずる方法(多角的な映像など)により直接的に観察するものをここでは行動観察とします。エスノグラフィーと呼ばれる手法もここには含め、また調査対象への干渉の有無も関係ないものとします。強引ですが、現場を見たという行為が介在した場合は行動観察とここでは定義します。この投稿では、現場を見るという行為がどのような特徴や影響を調査方法に与えているかという観点で後の解説を読んで頂けると幸いです。

なお上記に紹介した4つの方法の定義に当てはまらない調査も、実際には数多く実在します(複合型など)。そのような場合は一番近い調査(複数も可)について注目して下さい。
※上記の4分類は筆者の経験に基づいた分類、定義になります。厳密な手法や定義をしない前提でのグループ分けで、最小の説明にとどめていますので、目安として考えてください。

行動観察のメリット

調査方法をこの4つに分けた場合、【D:行動観察】に属する調査がどのような利点を持つか紹介します。

■メリット1:意識していない行動の把握
まず一つ目の利点は、対象者の意識していない行動を確認できる点です。アンケートやインタビューは対象者の意識にある回答しか基本的に収集することができませんが、行動観察は対象者の意識の外にある事実もとらえることができます。その結果、本人も意識していない客観的かつ潜在的な情報を取得することができます

■メリット2:情報の信憑性
二つ目の利点は信憑性が高いことです。アンケートやインタビューは対象者の意図的な解答であり、嘘をつくこともできてしまいます。無記名であっても模範的な解答や、見栄がどうしても入ってしまったり、記憶が不明瞭であったりして実際の状況をとらえることは難しくなります。一方、行動観察は行動に注目するため信憑性が高い方法になります。ビッグデータ解析も行動に着目していますが、センサーを介しているため正確性が十分ではありません(これに関しては将来的に技術の進歩で変わる可能性がありますが)

■メリット3:情報の柔軟性
そして三つめは取得する情報の柔軟性です。アンケートや行動ログの解析はあらかじめ想定した事象をとらえることができません。インタビューや行動観察は想定していない情報に遭遇しても対応できます。特に行動観察の場合は、実際の現場に行くため、事前の想定を超えた様々な情報を得ることができます。

これまでの評価を相対的に表で表すと

画像1

このようになります。
これらの特徴から、行動観察は以下のような用途と相性がよい調査手法です。(以下は、市場調査外の用途も含みますが)
・新規事業の軸となる顧客課題の発掘
・新商品開発のアイデア出し
・既存製品の問題点抽出
・プロトタイプの検証
・出荷前の製品の問題点の抽出

これらの点に注目すると、【D:行動観察】は優れた調査方法に見えます。
しかし、それほど市場調査においてメジャーで普及した手法ではありません。実際に行ってみるとわかりますが、行動観察には数多くの課題があり、運用が難しい調査方法になります。

次の章では、実際に実践した経験から、行動観察のデメリットを紹介したいと思います。

行動観察のデメリット

行動観察には成果を出すまでに多くの課題があり、最後までたどり着けないことも多い調査方法です。ここでは行動観察が成功しない課題、デメリットを4点紹介します。

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