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『SHADES of COLOUR IZUMO, KYOTO and KAMAKURA』刊行に寄せて
恩田義則に関する軽い誤解
私は恩田義則に関して、ある時まで軽い誤解をしていた。
恩田が黒部を訪れたときのことである。恩田はその日、黒部の山々の数枚の写真をInstagramに投稿した。
その風景写真は、見事だった。私は彼に電話して、素晴らしいので写真集にしようと持ちかけた。
すると恩田は、「観光写真を撮ったつもりはないが、これは僕が本当に表現するべきものかな」と遠慮がちにほのめかした。
それらの写真は、駅に貼ってあるような観光ポスターやチラシの写真とは、明らかに趣を異にした、高品質な作品にもかかわらず、彼にとっては、風景の写実でしかなかったのだろう。
最近、自然やストリートの写真を集中して撮っている恩田ではあるが、彼の考えが一瞬、私にはわからなくなった。
黒部の写真はどう見ても見事なのに、自分の本分とは違うのだと。
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写真家として本当に作品に残したいもの
撮影対象の魅力を余すことなく伝えることは、写真のひとつの意義であろう。それは間違いない。
だが、表現者・恩田は、撮影対象の持ち味を生かした表現に安住することはなかった。
彼が愛好する表現芸術の1つに「水石」というものがある。
水石は盆栽と並んで、日本の伝統的な自然鑑賞の趣味だ。
河原などで収集した天然の石を持ち帰り、観察し、それを愛で、そこに宇宙のありようを見出す、つまり「見立て」の美学である。
恩田にとってアートとは、決して写実ではなかったのだ。
彼は撮影対象を凝視して、そこに自分なりの「見立て」を下す。
その見立てをカメラに収めることによって、彼のアートが完成するのである。
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私はその彼の考えを知って、セールスばかりを考え、浅はかな映える観光写真集を作ろうとした自分を恥じた。
観光写真には、もちろん観光写真の意義がある。ただ恩田の意識がそこになかったことになかなか気づかなかった。
時空のねじれに迷い込む
前作『Hello/Goodbye Tokyo Concerto, 2019-2020』に続く、本作『SHADES of COLOUR IZUMO, KYOTO and KAMAKURA』は日本の古都を撮りおろしたものだ。
出雲、京都、鎌倉・・・いにしえの街並を、ファッション写真家として活躍してきた恩田が独自の解釈で表現した。
観光ガイドブックでは見られない、ユニークな古都の佇まいを堪能できる。
今回のテーマは「陰影巡礼」。光と影にフォーカスした映像美が、鮮やかな濃淡と微細なグラデーションで描写されている。
どこか不思議な空間に迷い込んだような、時空のねじれが体験できる。
これらは確かに、万人に受けるインスタ写真でもないし、みんなが知っている京都や鎌倉でもない。
だからこそ、恩田義則であるし、私はそんな彼の作品に触れられることによろこびを感じる。
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