見出し画像

写真家・恩田義則作品集発売に寄せて

変遷する東京と心象風景

人は一生のうちにさまざまな光景を見る。
生まれた時からずっと見てきた東京。同じ場所に立っていても目の前の景色は月日とともに違った表情で見えるものだ。もちろん、街は時代とともに、その様相を変える。建物は改築されるし、人々のファッションも変化する。それは外的な要因だが、人の内部で見る東京もまた時の経過とともに大きく移ろう。

写真家・恩田義則とは

写真家・恩田義則(敬称略)は、東京で生まれ、東京で育ち、そして今も東京で活動している。20代よりずっと、ファッション写真を柱に、膨大な商業写真を取り続け、成功を得た。
学生時代、写真仲間はみんなこぞって猥雑な雰囲気に満ちた新宿を撮りに行った。恩田は新宿に興味が持てなかった。彼は母校の周辺の青山界隈を撮り続けた。気が向けば湘南や軽井沢などにも足を運んだ。彼の青山なり東京の表現は、やがて雑誌「anan」や「POPEYE」から「Olive」などでの活動へと至り花開く。

コロナ禍の暗さの中の希望

そんな恩田も、70歳を超え、コマーシャリズムとは半歩離れた写真を撮り出した。とても個人的な写真である。ミニマルで内省的な印象が強い。しかし、一方でそれは見事にコロナ禍の2年間の東京を映し出している。
恩田義則の作品集”Hello/Goodbye”をオンデマンド形式の書籍として発売した理由は、このコロナ禍の東京を秀逸に描き出した作品群を目にしたからである。
彼の自宅で、彼のコンピューターのスクリーンでそれらを見たとき、深い暗闇に浮かぶほのかな光を見たような気がした。そのぼんやりとした光に私は魅了された。しかし、その作品群のどこに魅了されたのか言語化することができなかった。にもかかわらず家路につく車の中で、書籍化を心に決めた。

作品を彩る組写真の技巧

最近の彼の作品の表現スタイルは、2枚、もしくは3枚の組写真形式である。それぞれが独立しつつ、かかわりあっている。数枚の写真が組み合わさってひとつのメッセージを奏でる。本作も、見開きページ単位でそれを表現した。それぞれの画像はイメージの対比である場合と、融合である場合がある。それを恩田は「ハーモニー」と呼んでいた。

暗さの中に滲むかすかな希望

誰もが、心がふさいだコロナの数年間。ベテラン写真家も当然、何らかの憂鬱を持っていたはずだ。しかし、彼は持ち前の行動力から、シャッターを切り続けた。もちろん、作品を撮り下ろしているときに、作品集の計画はなかった。そんなものがあろうとなかろうと、彼は彼なりにコロナと向き合った。ほの暗い世界の中に、かすかな希望の光が滲む。そんな作品群を楽しんでいただきたい。

恩田義則作品集
"Hello/Goodbye Tokyo Concerto, 2019-2020"

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?