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「生き物と人類の未来に向けて」②

■アントロポセンからポストアントロポセンの時代へ
アントロポセンという「病」に侵された地球は、リブートをして人類を滅亡させようとしているのかもしれません。では、リブート後の地球で、愚かな人類の先に在るものとは、どんなものなのでしょうか。ユヴァル・ノア・ハラリの世界的ベストセラー「サピエンス全史」で紹介されるバイオニック生命体・サイボーグでしょうか。それとも「ホモ・デウス」で描いているような非有機生命体「スーパーインテリジェンス」(人間の能力を超えるAI)なのでしょうか。

デザイン理論家ベンジャミン・ブラットンは、「人間中心の時代であるアントロポセンは永遠に続くわけではない。ポストアントロポセンとは、どのような状態であれ、人類がもはや地球上で支配的な地質学上のアクター(行為者)ではない、という時代だ」と語っています。

宮崎駿は漫画「風の谷のナウシカ」で、人類が造り出した巨神兵が世界を焼き払い、有毒な瘴気を吐き出す腐海に覆われた混沌の世界の中で、ナウシカは最後に数百年前の人類再興計画を拒絶します。早稲田大学准教授のドミニク・チェンは、これを「未来の世代の進むべき道を決めてしまうことの根源的な暴力性と愚かしさを指摘するメッセージだ。大事なのは未来に対する自律性であり、香港で若者たちが戦っているのは、そのような未来の自立性を取り戻すためなのだ」と指摘しています。

では人類は、「人類を継ぐもの・超人類」が登場したら、地球のために素直にその座を明け渡せるのでしょうか。それとも超人類が出現したら、ホモ・サピエンスが屈強なネアンデルタール人を絶滅させたことを思い出し、超人類が多数派になる前に人類が絶滅させてしまうのでしょうか。

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■地球の歴史と生命の誕生
ノーベル賞受賞科学者であるイリヤ・プリゴジンが提唱した「散逸構造論」では、外界に対して開放され、エネルギーと物質の出入りがあり、かつフィードバックのある系では、自然に起きるプロセスで動的な秩序、すなわち散逸構造が作られます。エネルギーと物質を外部に散逸させ、エントロピーを外部に捨てることにより開放系内部のエントロピーを減少させて、秩序(散逸構造)を作り出すことができます。これにより数十億年前の太古の海の中で、有機物が「自然に」発生したと考えられます。さらに数億年の時を経て、この有機物を利用した嫌気性単細胞生物が誕生し、今度は二酸化炭素と水から光合成によって自らがブドウ糖などの有機物を合成して酸素を大量に作り出します。これが前述した35億年前の藍藻(シアノバクテリア)による、地球環境の大変動「大酸化イベント」(Great Oxidation Event,)です。これにより、従来ほとんど待機中に存在していなかった酸素が、大気の21%にまで急上昇し、地球史上最大の環境変動となります。これにより、それまで酸素のない「嫌気性」環境で誕生し進化してきた生物が、大絶滅します。

ところでこの「大酸化イベント」が生じる頃の地球は、二酸化炭素濃度が高く大気の平均気温が60度を超えるような高温環境にあったと考えられています。ところがおよそ22億年前に地球全体が凍りつく「全球凍結(Snowball Earth)イベント」が生じています。このマクガニン氷河時代の存在は、地質学的証拠(カラハリマンガン鉱床)があります。この「全球凍結イベント」によって、大陸表面が激しく風化浸食され,生物の必須元素(リン)が大量に海洋へ供給されて,海洋は異常な富栄養化を起こします。これが光合成を行うシアノバクテリアの爆発的な繁殖をもたらしたというスノーボールアース仮説が、近年数値シミュレーションによって実証されています。つまり、全球凍結イベントの結果、光合成による酸素の生産率が通常の十倍にも増幅され、通常の自然変動では起こりえないほど酸素濃度が上昇しやがて安定していきます。嫌気性生物は死滅し、今度は酸素を利用する好気性生物が発生して大進化を遂げていくのです。

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この全球凍結イベントは、6億年程前にも発生しました。この時にも大酸化イベントによって酸素濃度が急上昇し、今度は多細胞生物が進化を始めたという研究があります。そもそも地球では、地表と大気の温度が長期にわたって低下し、極地の大陸氷床や高山域の氷河群が拡大していく氷河時代(ice age)が周期的にあります。最後の氷河時代(第四紀氷河時代)は更新世が開始した約260万年前に始まっています。その氷河時代の中でも、中緯度地域まで氷河や氷床に覆われるような、特に氷河の発達した寒冷な時期を氷期といいます。氷期と氷期の間の温暖期は、相対的に氷河が縮小した時期で間氷期といいますが、約10万年周期で地球では氷期と間氷期が交互に訪れてきました。先ほどの「全球凍結」は、氷河時代のレベルではなく、赤道直下の陸地まで完全に凍結してしまい、地球全体が氷に覆われてしまうほどの大イベントです。

この氷河時代や氷期・間氷期のサイクルの原因は、まだ明確には解明されていません。有力な説としては、「ミランコビッチ・サイクル」があります。これは、地球の公転軌道の離心率の周期的変化、自転軸の傾きの周期的変化、自転軸の歳差運動という3つの要因により、日射量が大きく変動して生じるというものです。最近の40万年間については特に詳しく研究されており、ミランコビッチの軌道強制力の期間と氷期・間氷期の振動数の一致が非常に近いので、一般的に受け入れられています。しかし直近の過去100年間から1000年間に及ぶ、人間活動の急激な活発化、特に化石燃料の燃焼によって、太陽熱を閉じ込める温室効果ガスが大気中に排出されたため、世界的気温の急激な上昇を招いていることは明らかになっています。

「生き物と人類の未来に向けて」①

「生き物と人類の未来に向けて」③


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