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黄金町を歩く

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横浜の黄金町は、「アートによるまちづくり」の一環として「黄金町バザール」を開催中ということで、先日ちょいと散策してきた。

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黄金町はほんの二十年程前まで、置屋が密集して軒を並べる関東屈指の私娼街だった。黒澤監督の映画「天国と地獄」では、覚醒剤を使った犯人が殺人を犯す麻薬街としても描かれている。そんな魔窟状態の街を再生させようと、地域住民が県警や区役所と協力して取り組み、風俗街を一掃したのだ。しかし風俗業で成り立っていた街は浄化されたが、今度はゴーストタウンとなってしまう。そこで、アートを生かした新しいまちづくりを目指そうと、「黄金町バザール」が2008年から始まったのだ。

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私はかつての魔窟の黄金町は知らない。知らないからこそ、いまだに昭和の顔を残している黄金町の散策は面白かった。モダンアートの展示そのものは、時々オッ!とするような面白い作品もあるのだが、大半は退屈な作品ばかりだ。しかし街自体に沁みついている「魔窟の地場」のおかげで、最新モダンアートではなく1970年ごろにヒッピーが流行らせた「サイケ調作品」に見えてしまったのだ。

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ま~アート作品というものは、作者がどのような思いで創っていたとしても、鑑賞者が持つ価値観で評価してしまう。私のような昭和の人間だと、これらの若いアーティスト達の作品からは、モダンさではなくどれもかつて見たことのある「懐かしさ」しか感じられないのだ。若者が見ると、斬新だと感じるのかもしれないが。

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しかしこの魔力を有する黄金町に、アートプロジェクトを持ち込んだプロデューサーは慧眼だ。古典的なアート作品である油絵や浮世絵だと、その作品自体が歴史を背負っている場合が多い。描かれている人物や風景が単に美しいだけではなく、その描かれている時代背景や文化の知識が、無意識かもしれないが、みんなに共通認識としてあるからこそアートとして高い人気があるのだろう。
しかしピカソなどの近代美術になると、アーティストの思想や時代背景がより濃くなってくる。それこそピカソの「ゲルニカ」だと、第二次世界大戦という時代背景があると知らなければ、意味不明の絵でしかない。ましてや現代美術・モダンアートとなると、作家はその作品に社会的メッセージや政治的メッセージまで盛り込んでくる。もっともバンクシーのように、分かりやすい文明批評の絵画になると、世界的人気ものになってしまうようだが。
しかし印象派の絵画や浮世絵が好きなフツーの人々は、アートとは「美しいもの」としか考えていない。だから決して美しくはないモダンアートは、理解不能とどうしても避けてしまうようだ。

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ところが、この「黄金町バザール」は、モダンアートの展示会場自体を「強い地場」のある場所に設定することで、作品に共通する意味を付加しているようだ。このFacebookの写真は多少加工して強調しているのだが、ゴーストタウンのような狭い路地裏の街に、強烈な極彩色のアートや逆にモノクロのアートを置くことで、見る人に強い印象を与えていることが分かると思う。もっとも8枚の写真のうち、アート作品は4枚でしかない。残りはアートギャラリーや飲み屋の入り口を撮っただけなので、黄金町そのものがかつての風俗街から変貌を遂げつつあることが分かる。
ということで、超個性的な街である黄金町を散策してきたのであった。

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