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ブックレビュー「村上海賊の娘」和田竜(著)

「村上海賊の娘」和田竜(著)新潮文庫 ★★★★☆

2014年本屋大賞を受賞した、大ベストセラーの歴史巨編。2016年には、早くも四分冊で文庫化されているのだ。

織田信長が天下統一を目指す戦国時代、瀬戸内海でその名を知らぬ者はいない海賊衆がいた。乱世でその名を轟かせていたのは村上武吉。その娘の景は、胆力と豪勇さを引き継ぎ、荒っぽい海賊働きに明け暮れていた。織田信長と対立していた毛利家は、村上海賊を頼って籠城している一向宗に海路から応援しようと、海戦を仕掛けたが・・・

まさに巨編である。普通の長編小説なら四冊分はある1400頁の、時代小説の大作であった。「のぼうの城」、「忍びの国」、「小太郎の左腕」と和田竜の時代小説を読んできたが、どれも意外性に富んだ一級のエンターテイメント小説だった。その和田竜が本屋大賞を受賞した巨編を出したのだ。「電車で読書派」であった我輩は、首を長くして文庫化を待っていたのだが、期待に違わずとにかく痛快無比の作品だった。
我輩は時代小説をあまり読んでいないが、この和田竜の小説は全部読んでいる。デビューして十数年程度なので、長編はまだそれほど出版していないようだが、藤沢周平などの時代小説とは異なり、登場人物がみな現代的感覚で造形されているのが新鮮だ。山田風太郎のような荒唐無稽の超人忍者が登場するわけではないが、読者を楽しませてくれる術は上手い。

この「村上海賊の娘」の主人公「景」も、海賊衆とはいえ姫様のはずなのが、色黒長身で彫りの深い顔とされ、剣術が得意。豪放磊落で男勝りの景は、船戦と聞くと先頭切って飛び出していく性分だ。戦国時代の合戦と言えば、軍師たちの繰り出す様々な戦術を描くことが主眼となる。このお話でも、弓矢や鉄砲などの飛び道具の使い方などは、リアルで興味深い。それ以上に、戦国時代での海戦における多種多様な軍略や戦術は、具体的かつ合理的であり、今まで読んだことはなく非常に面白かった。

長大な小説なのだが、やはり合戦シーンが多く、中でも後半は壮絶な海戦シーンが延々と続く。敵の巨漢で怪力の大将は縦横無尽に暴れ回り、秘密兵器まで登場し、ダイ・ハードのような不死身の景は迫りくる刃を潜り抜けていくのだ。手練れの作家の筆はテンポよく進み、敵味方が入り乱れる血生臭い戦場は、その戦況を刻々と変えていく・・・

戦国時代の武将たちの行動原理は、「家の存続」にある、という考えが作品中に何度も出てくる。何度も敵方に寝返る武将が多い戦国時代の物語は、ここを理解していないと武将たちの心情は察することはできないのだろうな、と改めて感じてしまった。それにしても史実に忠実な和田竜は、全て実在の登場人物だけで、この気宇壮大な話を物語るのだから凄いもんだ。ま~とにかく、血沸き肉躍る合戦を描いた歴史巨編なのであった。

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