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君が恋をしたなら vol.23「カウントダウン」

今度の正月は、今度こそ一緒にカウントダウンをしたい。

去年の屈辱を晴らしたい。

去年の正月は、ユウタの気まぐれで一緒に過ごせなかったから、今年は気合いが入る。

去年はふみと二人で侘しい新年を迎えた。

ふみと二人でため息をついた日を思い出す。

思えばあのときは携帯の番号すら知らなかった。

大きな一歩を踏み出している。

今年は絶対に二人で迎えたい。

『今年こそお正月を一緒に過ごそうね』

私はメールする。

『カウントダウンも一緒にする?』

好感触な返事だ。

『もちろん!』

クリスマス以来、仕事もはかどっている。

前のように仕事に身が入らないこともない。

机が書類の海になることもない。

電話も素早く的確だ。

と、私が思っているだけかもしれないが、先輩からも頑張ってるね、と声をかけられる。

ユウタと付き合いだしてから、ずっと頑張れている。

愛の力かな?なんて思って照れてみたりする。

年末年始は仕事が休みだし、たまには泊まり掛けでどこか行ってもいいなぁ、と思うが、今更とれる宿なんて限られているし、帰省ラッシュに巻き込まれるかも…と思うとなかなかどこかへ行くなんて思い付かない。

そしてはっと気づいた。

ユウタの実家ってどこだろう?

高校生の弟が家に入り浸るくらいだから、そう遠くはないはずだが、ユウタは正月休みの間に帰省したりするんだろうか?

帰省するなら、ご両親に紹介してもらう大チャンス!!

ってまだ気が早いかな…。

そうだ、うちに遊びにきてもらおう。それがいい。

私は想像だけでルンルンだった。

年の瀬はなにかと忙しかった。

大掃除をしたり、親の買い物に駆り出されたり。

ユウタとの電話もあまりせず、おとなしく過ごしていた。

『お正月は実家に帰ったりするの?』

とメールする。

『一応帰る予定』

『うちにも遊びに来ない?』

しばし時間がたって返事がくる。

『遊ぶって、なにして?』

そう言われると言葉に詰まる。

『うちの両親に会ったりとか』

『めんどくさいから、いい。』

やっぱり、お決まりのセリフだ。

『だよねー!』

と返す。

『お前がどうしてもって言うなら行ってやってもいいけど』

やったぁ!!ついに両親に挨拶、きたー!!

脳内で協会の鐘が鳴り響く。

バージンロードを歩く私。

一歩一歩踏みしめて歩く。

『うちの実家にも来るか?』

もう、めちゃ、ハッピー!!

最高の波に乗ります。

行く行く、行きますとも!

『ぜひ、お邪魔させて!』

『まあ、うち何もねーけどさ、たまには、いいんじゃない?』

その言葉にわくわくした。

カウントダウンはふみとマルオも一緒に見ることにした。

ユウタのアパートから近いお寺で、除夜の鐘を聞きつつ、遊園地の花火を見るという壮大な年始だ。

11時を回り、ユウタたちと合流する。

お寺は山の上にあるので、私の可愛いライフちゃんで坂を登っていくが、大人四人乗っていると、これが坂を登らない。

重たいのだ。

それでもアクセルを踏み込み、なんとかお寺に着く。

すごく混雑していて、警備員がたくさん出て、車を誘導してくれる。

なんとか運よく、中ほどの駐車場に停めることができた。

お寺は別世界のようだった。

ここのお寺には大きな鐘があり、もっと早くくると、鐘をつけるらしい。

大行列ができていた。

もうすぐ時間だから、と急かされて寺の奥へと進む。

灯籠のある小道をずっと行くと、小さな祠のようなものがあって、広場になっていた。

カウントダウンが始まる。

ユウタがしている腕時計は秒針まで表示のデジタル時計だ。

5 ユウタの時計をのぞきこむ。

4 ユウタと目が合う。

3 ユウタが手を差し出す。

2 私がユウタの手を握る。

1 ユウタが私に頷く。

0で花火があがる。

遠目だけどきれいだ。

音だけが、遅れて届く。『きれーい…。』

私とふみが見ていると、ユウタとマルオは満足そうに顔を合わせた。

『明けましておめでとう』

四人で挨拶をする。

『今年もよろしくな』と、頭をくしゃっとされる私。

この、くしゃっとされるのがたまらなく好きだ。

去年から一年経過したけれど、ユウタを好きな気持ちは増すばかりで、一向に落ち着きそうになかった。

帰りは灯籠のない小道を下りていく。

石畳の道を下りていくのでつまずきそうになる私に、ユウタが手を差し出した。

『今だけだからな』

私は喜んで手を握り返した。

お寺まで下りてくると、お参りをする。

すごい人の波の中、私たちはお参りの順番を待った。

除夜の鐘が鳴り響く。

身体に響くその音に身を任せ、目をつぶるとどこか異郷の地にいるような気すらする。

私たちのお参りの番が回ってくる。

お布施を払うと、渡された木の板に名前と住所を書く。

それを燃やしてもらい、願掛けのようなものになるらしい。いまいちそこがわからなかったが、よしとした。

相変わらず鐘をならす人たちで埋まるなか、私はお守りを買った。一つはユウタに。もう一つは自分に。

こうして、無事にカウントダウンを終えたのだった。

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