発表された電通の国内サービスの新体制に思う日本の広告ビジネスの潮目。新しい扉が開いたかもしれない。チャンスを逃さないためにこの変化を理解しよう!というメモ書きです。
電通の日本国内オペレーションの新社長さんの記事が出ています。
果たして「談合ビジネスの責任」だけが社長交代の理由でしょうか?
業界出身者として日本型広告代理店を支えるメディアビジネスから分析を試みます。
オリンピック談合問題で不信感をさらに強く持たれている広告業界。
働き方についての課題が常に指摘されていますが、最大の問題はエージェンシーとして得意先の期待に応えるビジネスモデルへの変革です。
では、電通Gは日本の広告ビジネスの何を変えたいのか、考えてみます。
背景を探る
まず、今回の新体制で日本の広告業界全体のデジタルシフトと若返りを進めることを意図したことはリリースで十分伝わってきます。 電通Gのサービス体制について説明しておきます。
電通は現在ホールディングス会社・グループ経営体制です。
新しく社長になられる佐野さんは日本ビジネスの責任者ということになります。
得意先トップと向き合い、何よりもトラディショナルな媒体各社と向き合う際に「格」を重んじるという従来の日本の広告代理店の社長の役割を考えた時に社長の年齢は高くなりがちです。
その観点では非常に「若い」社長さんということになります。 電通グループの社長は媒体部門の出身者が多いです。
特に新聞やテレビなど媒体を担当していた方が経営者になれれることから、メディア各社に対して広告費を盾に過度な影響力があると誤解されてしまうことが多いです。
一方博報堂は制作系出身や営業系出身です。
2社はこの点でも比較されています。
媒体バックグラウンドが表立って見えない
佐野さんの経歴を拝見すると媒体ではなくデジタルというキーワードが出てきます。 「若さ」と「デジタル」という上記の2点から電通の日本国内オペレーションがどこを目指すかが見えてきます。
新聞→テレビと世論形成に大きな影響力があったメディア媒体の活用が戦後の日本の広告代理店のビジネスモデルの出発点です。 新聞やテレビへの出稿に関わる費用は膨大です。
この大きな媒体費用を用意できるクライアントさんへのサービスが重要視されることになり、マーケティング活動よりも媒体の売り買いに営業現場の興味が優先されていました。
広告とPRが同一代理店の組織として分離されていないなどもこうした背景が影響しています。 国家のPRコンテンツとも言える、オリンピックや万博などに関与することも上記の媒体との関係が背後にあります。
デジタルに焦点
日本型広告代理店のビジネスモデルについては情報接点として影響力があったテレビメディアの弱体化にともない従来型広告が終焉すると言われて久しいです。新しい広告の姿はまだ完全に描かれていません。
肝心のデジタルシフトがどこまでうまくいっているか、疑問視されることが多く、得意先の期待に十分応えていません。
デジタルメディアは単なる「放送枠/広告媒体枠」ではなく、インタラクションを伴うユーザーエクスペリエンスの場所でもあります。
CXやDXに対する危機感は日本の広告代理店だけではなく世界的にあります。 CX設計においては広告代理店が強みと認識している「クリエイティブ」の方法論を変える必要があります。
この領域を出発点にアクセンチュアに代表されるコンサルティング会社との競争につながります。 新しい競合環境では得意先に提供していた価値ではビジネスが太刀打ちできなくなるリスクがあります。
従来の媒体枠を売り買いすることから、知恵にお金をもらうことができるか、得意先が納得するだけの効果のあるデジタル技術を活用した新しいクリエティブサービスが求められています。
得意先の意識変化
デジタルメディアはすでにテレビメディア以上の役割マーケティング上を持っていますが、広告代理店ビジネスではサイバーエージェントを代表とするデジタルエージェンシーと従来型エージェンシーグループが領域を棲み分けてしまっています。
得意先からは統合型マーケティングができないストレスが強くなっています。
メディア媒体の売買は手数料になります。
得意先から見ると手数料率の開示など不透明な部分が多いです。 手数料をはじめとした費用にまつわる透明性の低さ・説明責任の曖昧さが広告代理店につきまとう「怪しさ」の原因でもあります。
グローバル化と報酬体系
メディアビジネスは外資系の参入障壁が高く国内市場を「守る」効果がありますが、同時に日本市場の「ガラパゴス化」が進んでおり、日本のクライアントのマーケティングの進化にとってよくない状況です。 電通Gを除くと海外比率が低いことも問題です。日本市場が縮小する中で、電通Gの寡占化が進むことは日本の広告産業の健全な成長が期待できません。
メディア取引ビジネスに象徴されるコミッション型収益構造の変革を自ら起こす必要があります。 コミッションから人件費モデルへの変革の実行が進みます。 電通Gは国内でも「コンサルティングモデル」への変革を近年謳っていますが、いよいよ実行の段階に入ってきた。
コミッションモデルの限界、人件費モデルによるテクニカルな対応では広告代理店の本当の意味のビジネスモデル改革に繋がらないことは博報堂の課題請求問題が象徴しています。
広告代理店ビジネスが踏まえ流現状から電通の国内オペレーションの新体制を見ると生き残りと進化ために変化を起こそうとしていると捉えられます。
つまり電通Gの新体制は、業界のリーダーとして日本市場を自ら変えていこう!というメッセージ出ているということです。
説明責任と透明性
企業として提供するサービスの説明責任と透明性を上げるということに集約されますが、背後では生き残りをかけた大きなビジネスモデル変革、また、外資系との競合、コンサルとの競争という差し迫った問題への対処があります。 本当は「グッドバイ従来のメディアビジネス!」と言いたかったかもしれないと推察しますが、現状の収益の多くはメディアビジネスからきているので…そこまではできなかったのかもしれません。
ですので、業界関係者は今回の新体制が単にオリンピック談合問題に対するケジメだけではないということを受け止める必要があります。
リーダーだけで市場を変えることは難しいでしょう。 電通Gの変革に続く企業があるのかは非常に重要です。 日本の広告業界がこのメッセージを受け止めることができるかは、注目です。
潮目が来た、チャンスにしよう!
日本の広告代理店ビジネスの将来について私のように課題意識がある人たちが行動を起こせるのかはさらに重要です。 広告代理店ビジネスはサービス業ですので、極論すると人しかいない産業です。
そこに関わる一人ひとりの意識と行動の変化が未来を作れるかです。
業界を挙げての変革の時代が来ます。準備をしていきましょう。
サービス業であることを認識して、得意先の期待に応えるべく、得意先を中心としたサービスにリソースを再構築することが最初のアクションです。
(参考)広告代理店の将来の一つのあり方についてまとめてみました。
何よりも得意先の理解をもらう必要があります。
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