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『白夜のように』

『白夜のように』 No.007

“…白夜のように君を照らし続けたい”
そんな台詞を言ったことも忘れていた
妻は僕が確かに言ったと微笑む
向かいのソファーに座る娘は半ば飽きれ顔だが話には興味があるみたいだ

妻になる前の彼女は高2の時のクラスメイト
彼女はいつも何かの本を読んでいた
その本を持つ左手とページをめくるときの右手がとても綺麗で、僕は彼女のその姿に惹かれていくのを止めることが出来なかった
ある日から毎日一言だけ声をかけ続け、ふと彼女が読んでいる本は何かを聞いてみた
それは詩集だった…
僕はその日から小さなメモ用紙に短い詩を書き、彼女に送り続けた
無反応な表情も、眉間に寄せる皺も、二度うなずく仕草も全部好きになっていった
数か月後のある日、友達から彼女が交通事故に遭ったと聞き、戦慄が走った
幸いにも重傷にはならず、数週間で退院した彼女は出会った普段より元気になっている様にも感じた
僕は彼女の入院中に書き溜めたメモの中に告白文を紛れ込ませ、そっと手渡した
彼女は真剣なまなざしで一枚一枚目を通してくれた
頬を緩ませながら「はい」とうなずく君を今でも覚えている…

妻と僕が並んで座るソファーに娘が移動し、妻の肩に首を添わせる
妻も僕の肩に首を添わせる
僕は大きく手を伸ばして二人を包んだ
妻と出会ったのは十七歳、娘は明日で十七歳
そしてふと思い出す

“君が悪魔に連れ去られないように守りたい
沈まない太陽が僕には見える
白夜のように君を照らし続けたい”

確かにこう書いたかもしれない…


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