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45歳、中流家庭。それでも家を買う(2)ゴールは?

”控えめ”な希望しか出てこない

前回までのお話。母の引っ越し手伝い、家探しをきっかけに自分の家のことを考えるようになり、そして家を買う決意をしました。

自宅で待ち受けていた奥さんは妙にニヤニヤしていた。
「家を買おうっていうなんて思ってなかったよ」
どうも、私が賃貸派で家を買うつもりがないと諦めていたらしい。それがいきなり私が家を買おうと言ったものだから驚いたようだ。そして、奥さんは家を買えたらいいなという憧れみたいなものを抱いていたようで、ニヤつきに現れている。

しかし、コーヒーを淹れてテーブルについても具体的な話が出てこない。二人とも家について、あまり夢や希望といった類を持ち合わせていないからである。
「何か、家に関して希望ってある??」痺れを切らして聞いてしまう私。
「う〜ん」と唸ったまま目を閉じて天井を仰ぐ奥さん。これから夢いっぱいのマイホームを建てるぞ、買うぞという勢いはない。
なんとか希望を捻り出して、メモを取ってみた。

  • 子供が小学校に通っているので学区が変わる引越しは避ける

  • 子供のために2部屋欲しい(娘と息子それぞれの部屋)、夫婦の寝室

  • 気持ちの良いリビングルーム

  • 機能的なキッチン(対面が望ましい)

  • 仕事ができる部屋を1つ(狭くても良い)※できれば

  • 夫婦とも洋服や靴をたくさん持っているため、収納は多め

  • 車庫はなくてもOK(車を持っていないので)

ごく一般的な4DKだ。これが東京都内であれば高望みだが、我が家があるのは大阪府下の郊外である。後に触れることになるが、そこまで地価は高くはなく、決して高望みというわけではなさそうではある。書き出したメモを見て、実に控えめなゴール設定だなと感じた(この時点では)。

今住んでいる家を超える環境を

家を買うに当たって、控えめな希望しか出てこない理由は明確だった。我が家は住んでいる家に満足しているのだ。今後、子どもが成長したとしてもそれぞれに部屋を持たせ、夫婦で寝室を構えれば3LDKで十分である。収納の少なさは工夫が必要だが、断捨離でもすれば解決する。不便になりそうなところがない。ここで、少し我が家のスペックを見ておこう。

  • 平米数:96㎡

  • 間取り:3LDK(1階部分に玄関。階段を登って2階が居住空間)

  • ハイツ形式のマンション

  • LDKは18畳程度

  • 3部屋はすべて6畳以上。うち1部屋は7.5畳程度

  • バスルームは1616サイズ

  • トイレは1箇所

  • キッチンは3口ガスコンロ。やや小ぶりなワークトップ

  • 日当たり良好

  • 駐車場あり(使用料は家賃に含まれている)

  • 大阪府下の郊外。駅徒歩10分程度。都心部まで急行で15分

  • 家賃10万円と少し

リビングルーム。親子4人で生活するには十分なスペース

家を建てよう、買おうと考えるとき、不便の裏返しが叶えたい希望になるケースが少なくない。今、手狭だと考えているからもう少し広い家。子供部屋が足りないから部屋数を追加したい。物理的な難しさを解決するためには、家を変えるしかない、という図式だ。
ひるがえって、我が家は現状に満足している。不便という動機が薄いのが、難点といえば難点なのである。行き着いた先が、「現状よりもよい家だったら良いよね」というなんとも曖昧なゴール設定である。

恵まれた賃貸であるということに気づいていなかった

もっとも、家を買った今、この当時の「現状よりもよい家」という条件を振り返るとリスキーな指標だったかもしれないと反省している。理由は、我が住まいはあまりにも恵まれた賃貸物件だったからだ。

賃貸情報サイトの「スーモ」を開いてみよう。なんと東京都23区内では114万件もの物件が登録されている(2024年2月13日時点)。この中から、現実的なファミリー層の家賃を考えて、築年数20年以内、管理費込みの家賃で10〜15万円と条件をつけて検索すると、わずか44件の物件しか検出されなかった。全体の0.03%という比率だ。しかも、亀有駅徒歩26分など、お世辞にもアクセスがよいとは言えない立地ばかりである。ちなみに占有面積を90平米以上とすると物件数はゼロだ。
大阪府下に目を転じてみても状況はほぼ同じ。総物件数が60万件弱に対して、同一の条件で119件。東京と比べて地価や賃料相場が安いからファミリー向けの物件数は若干増えるものの、どんぐりの背比べだ。都心部ではファミリー向けの広くて居心地の良い物件は少ない。「賃貸ではニーズを満たす物件がないから購入に流れるという層が一定数いる」(大手不動産販売会社社員)ほどである。

我が家は、大阪の郊外とはいえ90平米超の占有面積で月々の負担も少ない。ありえない出物だったといえる。実は家を買おうと考えた時に、そもそも賃貸市場についてなど思いを巡らせていなかったため、住んでいた賃貸が好物件とは認識していなかった。しかし、この物件を基準にしてしまったことで、特に広さ(戸建においてはこれが土地選びにつながるのだが)が、ボトルネックになったよなと思う面があるのだが、それはまた別稿にて触れることにしたい。


一般的なファミリー向けの賃貸物件が少ないという歪みは、賃貸物件市場の特徴を如実に反映した結果である。賃貸市場は家主側の投資効率こそが市場ルールだ。投資効率を上げようとすれば、単身世帯向け物件が主になる。面積や物件金額が上がるのに賃料が比例して上がらないファミリー向け物件は効率で劣るため、物件数は減る。「転勤に伴って貸し出される物件はありえるが、転勤先から戻ってきた時の住居確保のためになかなか賃貸に回す層もいない。むしろ、地価上昇が続く都心では思い切って売りに出す人の方が多いくらいだ」(大手不動産販売会社社員)。いきおい、賃貸情報サイトでは、元からハイスペ層の賃貸ニーズに応えるために作られた、ひと月何十万円の高級タワマン賃貸しか検出されなくなるのだ。日本国内では、住まいの賃貸市場と購買市場は地続きというわけではなく、2つの異なる市場なのだと理解して臨んだ方がベターというのが率直な感想である(しかし、冷静に賃貸時代の我が家を振り返ると、非常によいところだったなあと思うのである)。
さて、次回は「先立つもの」として資金計画の話に触れたいと思う。

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