アベノミクスの罪

安倍晋三首相が退陣してから、3年以上が経過した。また、安倍氏が亡くなってから、もう少しで2年になる。安倍氏は奈良県で、選挙の応援中にテロリストによって射殺された。

安倍氏には同情する面もあるが、彼の経済政策については私は評価していない。株価が上がったことだけは評価できる。だが、株式というのは購入できるだけの「元手」がある人にとっては良いが、ほとんどの人は購入できない。単元未満で取引できないことが多いからだ(最近は、単元未満での購入が可能な証券会社もあるし、持株会であれば単元未満での積み立てが可能)。むしろ、株式で儲けた人と、庶民との間で格差が広がったと考えている。

上記、読んでいただくと、住宅価格が高騰していることがわかると思う。都心のマンションは、いまや1億円以上は普通のことだ。エリート・パワーカップル(2人とも年収1000万円以上)でないと購入は不可能だろう。

住宅価格高騰の理由は複数あり、単純に言い切ることはできない。だが、日銀による大規模金融緩和の影響が最も大きいと考える。日銀はイールドカーブコントロールなどによって、長期金利を抑制してきた。日本は、株価も不動産価格もバブル崩壊後は低く抑えられてきた。そこに、突然の異次元の金融緩和があったために、投機筋がマンションを買いあさった。日銀の金融緩和開始からかなり時間は経過している事例だが、東京の晴海フラッグは、かなりの割合が投資(投機)目的での購入であったことがNHKの調査によって判明している。

※参考記事

中国のバブルもそうだが、私は不動産主導による経済成長は害悪が大きいと考える。人工知能の研究やバイオテクノロジーの研究は、10年取り組まないと結果が出ないことも多い。だが、不動産投資(投機)は、手っ取り早く儲かるし、GDPも増えやすい。低金利・不動産価格上昇の局面であれば、かなりの高確率で儲かるとわかる。その状況であれば、不動産会社は新しいマンションを企画するし、建設会社はマンションを建設する。現場で働く大工(施工会社)も儲かる。そして、買ったマンションが値上がりしたら、転売する。すると、すぐに利益が出る。日本のバブルも、中国のバブルも、似たようなものだ。だが、これには非常に大きいデメリットがある。それは、金融機関が不動産セクターに融資するのに一生懸命になり、地道に努力している中小企業などに融資するのが馬鹿らしくなることだ。努力よりもあぶく銭のほうが重要という価値観・風潮が生まれてしまうのだ。

だが、日本の1990年頃のバブル崩壊と、最近の中国のバブル崩壊、結末はご存知だろう。日本の場合、大蔵省の不動産融資総量規制と日銀の金融引き締めでバブルは崩壊し、株価も地価も暴落し、自己破産する人も大量に出た。中国も、恒大集団の経営破綻や、鬼城(誰も住まないマンション)、完成しないマンションなどの問題が起きている。

今、日本は過去最悪の人手不足だ。特に、土木・建設の職人不足は深刻だ。それにも関わらず、あぶく銭のために職人が働かされて、必要な社会インフラの修理や保全に人がまわらなくなっているのは、本末転倒である。

最後に、インフレについても触れておこう。安倍首相は金融緩和でデフレ脱却できると主張した。確かに、今は3%近いインフレ局面だ。だが、インフレというのは二種類ある。一つは需要が引っ張るディマンドプルインフレだ。この場合、物価上昇と同時に賃金も上がりやすい。もう一つは、コストプッシュインフレだ。輸入物価の上昇などで、庶民の賃金は上がらず、物価だけが上がってしまうのだ。今の日本はコストプッシュインフレ(輸入インフレ)である。実際、実質賃金はずっとマイナス傾向が続いている。

※参考記事

私は保守であるため、立憲民主党やれいわ新選組、共産党を支持するのは抵抗感がある。しかし、自民党による経済政策が失敗しているのも事実なのだ。株価以外で評価できるのは、TSMCの誘致だけだ。もちろん、民主党政権の3年間も酷かった。だが、自民党政権は2回も消費税を増税した。悪の所業である。狂っているとしか言いようがない。私も、激しいインフレ局面であれば、消費税増税はやむを得ないと考える。しかし、まだデフレを脱却していないのに消費税を5%から10%に引き上げたのは、万死に値する政策であったと考えている。

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