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映画『ザ・クレイジーズ 細菌兵器の恐怖』~G.A.ロメロ監督の非ゾンビ映画

急に思い立って、配信でジョージ・A・ロメロ監督の『ザ・クレイジーズ 細菌兵器の恐怖』('73)を見ました。初見です。

ロメロ監督は、『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』('68)や『ゾンビ』('78)をはじめ、ゾンビ映画の第一人者として知られており、特にキャリア後半ではほとんどゾンビ映画を撮り続けていました。

そのロメロ監督が、初期に撮った非ゾンビ映画のひとつがこの映画です。(以下では、ラストまでは明かしませんが、クライマックス近くまで明かしますので、準ネタバレ注意です。)

アメリカの片田舎で、男が突然発狂して家族を殺害する事件が起きます。すると防護服を着た部隊が町に来て、何の説明もなく街を封鎖します。強制的に住民を学校の校舎に収容しようとする部隊と、それに反発する住民の間で衝突が発生。銃の撃ちあいで、双方に多くの犠牲者が出ます。

主人公は、衝突と封鎖を逃れようとする消防士と看護師のカップル。看護師のお腹には子供がいます。

実は墜落した軍の飛行機から細菌兵器が漏れ出し、町の住民に感染が広がったことがわかってきます。感染した人は、死んでしまうか、精神に異常をきたします。また精神に異常をきたした人の中には、突然人を殺したりする人も出てきます。その危険性から、精神に異常をきたした人は射殺してよいとの命令が出ます。

こういう風になってくると、ややゾンビ的な雰囲気がでてきます。ただ、全体を貫くのは、社会の中での意思疎通の不全、誤解、不信といったもの。そういったものが、如何に社会を狂わせていくか。それがテーマであると感じました。

派遣された部隊と住民との意思疎通の欠如は、無用な混乱と衝突を招きます。部隊の中でも、人手の不足を訴えても現場への理解を示さない上層部。到着した人をすぐにこちらに回せという指示に対し、部隊と関係ない研究者を強制的に連行する部下。研究者は感染拡大防止のため、研究所に行くことができなくなり、ワクチン開発に支障をきたします。

その後、研究者は、学校の化学室でワクチン開発に携わることができるようになり、ワクチン製造の可能性を発見します。しかし、学校に派遣されている部隊はこの研究者がワクチン開発に携わっていることを知らされておらず、それが原因で収容されている住民のパニック状態に巻き込まれます。そのため、研究者は階段から転落して死亡。手にしていたウィルスの試験管が割れて、一気に感染が拡大してしまいます。

全体として生じるパニック状態は、根源的には細菌兵器の開発に原因があります。また、その細菌兵器開発をひた隠しにしようとうする上層部の思考様式に原因があります。彼らは、すべてを闇に葬り去るために、核兵器まで用意します。それこそ、『カサンドラ・クロス』('76)的展開になっていきます。

それはそれで怖いのですが、しかし、このパニックは、関係者が意思疎通をしっかりしていれば、もっと穏やかに収めることができたたぐいのものです。社会の歯車がかみ合わず、問題が拡大して不必要な悲劇を招いてしまいます。むしろ、そこにこそ恐怖を感じました。

この防護服の部隊。指揮本部以外は、みな白の防護服に黒いガスマスクという姿。意思疎通を拒否する象徴のように映りました。その外見は、後の『スターウオーズ』に登場するクローン部隊ストームトルーパーに通じるものがありました。

なお、全体としての編集は荒々しいというか、若々しい感じがしました。短いカットが多く、素早い感じがしました。映画の始まりは、本当に何気なく始まるので、間違って途中から再生してしまったのではないかと思うほどでした。こういう映画だと、ときどき経緯を長々と説明する場面があったりするのですが、そういうところは全くなく、登場人物が互いに言い争う中で、「そういうことなのか」と観客も気づいてくる。そんな感じに好感が持てました。


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