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『トップガン マーヴェリック』~爽快な映画

実に爽快な映画です。

誤解、すれ違い、挫折、不安、過去、現実など、人間関係のモヤモヤとか、やりたくてもできないこととかが、グルグル回っていき、最後には戦闘機の爆音とともに解消します。

多くの人が映画に求めているのはこれなんだと思わせる大ヒット。

前作『トップガン』('86)でなし得たことを、新たな時代、新たな人間ドラマとともに、今回もなし得た傑作でしょう。

『トップガン』の思い出

前作が公開された時、私は大学生でした。振り返ってみれば、80年代アメリカ映画には「音楽 X 青春・夢」というのが流行りのモチーフとしてあったような気がします。

『トップガン』にもかかわった作曲家ジョルジオ・モロダーが一人の立役者で、『アメリカン・ジゴロ』('80)や『フラッシュダンス』('83)がヒットしました。それ以外にも、『フットルース』('84)『愛と青春の旅立ち』('82)『エンドレス・ラブ』('81)のように、印象的な主題歌とともに描かれた青春ドラマが多くありました。あのロッキーでさえ、『ロッキー3』('82)の『アイ・オブ・ザ・タイガー』のヒットに味をしめたのか、『ロッキー4』('85)は数多くのアップテンポな曲に彩られていました。

高校から大学という青春真っ只中にいた私にとって、心躍る音楽をバックに、少し年上のお兄さんやお姉さんが、迷いながら恋をしたり、頑張って夢を実現していく物語は、最高にキラキラしていました。そこに、ビュンと飛ぶ戦闘機が加わった『トップガン』は、興奮以外の何物でもありませんでした。

後になってから思ったのですが、企画の良さもさることながら、監督トニー・スコットの手腕もあったのでしょう。彼の映画は『ハンガー』('83)を見ていましたが、あまり印象に残っておらず、先に有名になっていたリドリー・スコット監督(『エイリアン』('79)、『ブレードランナー』('82))の弟としか認識していませんでした。しかし、その後にトニー・スコットが撮った映画(『ビバリー・ヒルズ・コップ2』('87)、『クリムゾン・タイド』('95)など)を見ると、彼の切れのある演出がいかに刺激的であるかがわかります。

そして『マーヴェリック』

コロナの影響もあり、くしくもトニー・スコット監督が亡くなってからちょうど10年の今夏、彼に捧げられたこの映画が大きな成功を収めたわけです。

戦闘機の映画でパイロットが格好いいのは当然なのですが、それだけでなく、空母甲板上のグラウンド・スタッフ(と言うのでしょうか)の格好良さにも光をあてたトニー・スコットの着眼点。それが『マーヴェリック』冒頭でもオマージュのように光り、イコニックな画面と『デンジャー・ゾーン』の高鳴りに心躍らされました。

エンディング。前作では、夕陽に向かって戦闘機が飛んでいきました。今度は、プロペラ機が夕陽に向かって飛びます。逆に時代を遡っているのが面白いですね。ひとつだけ、私の希望としては、エンディング・クレジットで、もう一度『デンジャー・ゾーン』を流してほしかったです。

ストーリーは、前作の訓練生を主人公とする青春ドラマから、ベテランのカムバック・ドラマへと重心が変化しました。マーヴェリックをもう少し脇に置いて、新たな訓練生のドラマを中心にすることもできたでしょうが、スターの輝きを保ち続けているトム・クルーズのおかげで、マーヴェリックをしっかり主人公に据えることができ、それによって二番煎じの印象を払拭できたのではないかと思います。

『ハスラー』と『トップガン』

30年の時を経て同じ主人公で続編をつくるというのは、並大抵のことではありません。思い出される成功例は、ポール・ニューマン主演の『ハスラー』('61)と『ハスラー2』('86)です。『トップガン』の36年インターバルには及びませんが、こちらも25年です。それに前作は白黒映画です。

『ハスラー』は、エディというひとりのハスラー(賭けビリヤードのプロ)の活躍と苦悩を描いたものですが、それに対し、『ハスラー2』は、第一線を退き、ハスラーたちの胴元のようなことをやっている主人公を描きます。エディが、自分が目をかけた若いハスラーを育てようとするうちに、彼から刺激を受け、カムバックを決意する物語です。

この『ハスラー2』で若いハスラーを演じたのが、トム・クルーズです。『トップガン』も『ハスラー2』も86年の映画で、おそらく並行して撮影されたはずです(ハリウッドでそれが可能なのか、ちょっとわかりませんが)。アメリカ公開は『トップガン』が5月、『ハスラー2』が10月だったようです(なので、『ハスラー2』のポスターにはすでにトム・クルーズの名前が大きく出されています)が、日本ではどちらも12月に公開されました。私は、確か2週間くらいのうちに、続けて両方を観た記憶があります。

長い年月を経て『トップガン』の続編をつくるにあたり、トム・クルーズの中には、この『ハスラー2』で描かれたカムバック・ドラマの記憶があったはずです。特に、若くてまだブレイクする前に、両方の撮影現場を行きつ戻りつしていた彼にとって、『トップガン』と『ハスラー2』は切っても切り離せない映画になっていたのだと思います。それが、『マーヴェリック』のコンセプトの源になったのでしょう。

ただ、マーヴェリックは第一線を退いていたといっても、パイロットとして第一級の腕を維持していました。なので、『ハスラー』のエディのように「落ちぶれたところからカムバックする」というドラマチックな感動はあまり強く感じられませんでした。そこは、どちらがいいのか、好みが分かれるところですね。

長かった36年

しかし、それにしても36年は長すぎました。その間、第一線で活躍し続けてきたトム・クルーズの努力には敬服の限りです。

映画では、ドローンの活躍の幅が広がって伝統的なパイロットの居場所が狭くなっていたり、スマホでやりとりしたりしていました。それが、時代の変化を感じさせました。「時代の遺物」となりかけているパイロットたちの、「まだまだやれるぞ」という雄たけびが、戦闘機のジェット音と重なるようでした。

ですが、トム・クルーズ以外に、前作の登場人物で再登場できたのはアイスマン(ヴァル・キルマー)だけというのが、正直残念でした。できれば、チャーリー(ケリー・マクギリス)やキャロル(メグ・ライアン)には出てきてほしかった。前作の2年前、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』('84)でバレエを踊っていた少女(ジェニファー・コネリー)が、すでに円熟の美しさを見せていました。でも、彼女が演じるペニーって誰だっけ?と思ってしまいました。

そして何より、トニー・スコットの演出で観たかったです。ジョセフ・コシンスキー監督の手腕にケチをつけるわけではありませんし、『マーヴェリック』を傑作に仕上げたのは、彼の貢献によるものだと思います。ただ、トニー・スコットのスタイリッシュなキレがあったら、どうなっただろうと思うとやや残念です。

そういう意味で、36年は長すぎました。

最近の日本のテレビドラマに見る『トップガン』

なんとなく卑近な話になりますが、キムタク主演でこの前までテレビドラマ『未来への10カウント』(テレ朝'22.4月-6月)というのをやってました。

病気で夢を絶たれたボクサーのキムタクが、妻との死別により生きる気力を失います。元ボクサー仲間(安田顕)の根回しで、母校のボクシング部のコーチとして復帰した彼が、若い部員の輝きを前に、生きる気力を取り戻していく話です。

もちろん偶然ですが、似てますよね。安田顕がヴァル・キルマーです。

それからもう一つ。現在フジテレビ系で放送中のテレビドラマ『テッパチ』です。

陸上自衛隊の自衛官候補生たちの訓練と成長の物語です。放送中なので、どうなるかわかりませんが、町田啓太演じる主人公と白石麻衣演じる教官が、『トップガン』しそうな感じです。これも面白い偶然ですね。

どうでもいいこと①~「ならず者国家」はどこか

さて、ここからは「そこは映画だからいいじゃん」ということを少し書きます。

映画では、攻撃対象となる「ならず者国家」がどこかは言っていません。しかし、現在の国際情勢から考えると、イラン以外には考えられないわけです。イランが「核合意」の範囲を越えてウラン濃縮を行っていることが明らかになっています。でもそれは、そもそもアメリカ(トランプ政権)が核合意を離脱したことに原因があります。アメリカが核合意に縛られないならば、自分も縛られるいわれはないという主張は、しごくもっともです。

にもかかわらず、原因をつくったアメリカが、それに反射的に対応したイランを攻撃するとは何事ですか? 

映画の前半で、私は実はそういう思いを募らせながら見ていました。しかし、実際に攻撃する場面になると、敵地はかなり雪深い場所でした。イランでも高地では雪が降るかもしれませんが、敵国は海に近いところから雪でしたし、かなりの針葉樹林でした。

う~ん。するとどこだ? 北欧にはならず者国家はない。もちろんカナダも違う。ロシアは、そもそもNPT(核不拡散条約)で認められた核兵器国です。では、北朝鮮か。でも、北朝鮮のウラン濃縮施設をいまさら叩いてどうする。

そもそも、マーヴェリックがノースアイランド海軍基地に呼ばれた時点から3週間で攻撃を完了しなければならないとされていました(その後、この期間はさらに短縮されます)。しかし、そもそも中東にせよ北朝鮮にせよ、空母でそこまで行くだけで3週間以上かかるのでは・・・(空母は、先に敵地近くに行っているのでしょうか?)

じゃあ、いっそのこと、地球ではない、どこか別の星の話だと思えばいいではないか。・・・いやいや、冒頭で極超音速機の事故から脱出したマーヴェリックに、カフェの少年が言っていました。「地球だよ」と。

どうでもいいこと②~溝ってそんなに無防備なの?

もう一つ。谷の溝を通っていって、地上の標的を攻撃するという作戦。『スターウォーズ』1作目(エピソード4『新たなる希望』)('77)のデススター攻撃作戦と同じですが、あれはひとつの定石なんでしょうか。

地対空砲を避けて標的に近づくということですよね。でも、『スターウォーズ』を観た時も思ったのですが、溝の中がそこまで無防備ってありなのでしょうか? 

それに、最初にデススターの溝に入る場所に近づくところではバレないのでしょうか。『マーヴェリック』で言えば、敵国はトマホークで基地攻撃を受けるまで、巨大な空母が自国に近づいて来ることに、気づかないのでしょうか?


すみません。これは本当にどうでもいいことでした。

そんなことに関係なく、『トップガン マーヴェリック』は素晴らしい映画です。やっぱりMX4Dでも観たいかな。





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