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日本の生物多様性ホットスポットはここだ!  保全重要地域を把握するための分析

生物多様性の国家戦略や地域戦略に基づいて、日本の生物多様性を保全するには、どこにどのような生物が分布しているのか、正確に把握する必要があります。

生物の分布情報の整備

各種の分布記録を網羅的に収集して分布データを編集して、種の分布地図を作成します。生物の分布記録は、学術論文・標本・調査報告書・地域の生物誌など様々な媒体に記載されています。さらに、国の行政機関が実施した生物分布に関するセンサス記録もあります。このような情報を、あるだけ全部集めて、分析できるように、クリーニングします(実際、このような記録には様々な、間違い、通称”バグ”があるからです)。一連のデータ整備のプロセスは、以下のようなフローになります。

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以下の動画でも、データ編集プロセスをご覧ください。

このデータ整備のプロセスでは、データをクリーニングして分析できる状態にするために、様々なレファレンス情報を用います。

例えば、和名ー学名対応データ、地名ー緯度経度データなどです。

生物の名前と一口に言っても、同じ種に色々な名前があるので、それを逐次チェックして、標準和名・学名に統合する必要があります。

また、地名も厄介です。地名は時代によって変化することもあるので、地名のデータベースを別途構築する必要があります。

さらに、地名の空間精度・空間スケールも問題になります。種の分布は1kmスケールの精度で解析するので、地点情報がどれくらいの空間スケールに落とし込めるのか判別する必要があるのです。

久保田研では、以上のデータ整備を可能な限り自動的に行うための、プログラム群を開発しています。

そして、種の分布データが完成したら、種毎に分布モデリングを行ないます。機械学習と呼ばれる手法で、各種について分布データを元に、実際に分布している場所と分布していない場所を判定して、各種の分布地図を作成します(注)。そして、各種の分布地図を全種重ね合わせて、種数地図が完成します。このプロセスは、以下の動画をご覧ください。

注)いわゆるポテンシャルマップや生息適地地図ではなく(投影したものではなく)リアルな種分布を可視化したものです

種数(種多様性)地図を見ることで、日本のどの地域が種数が多い地域なのかを把握できます。

また、この地図を分析して、日本の生物多様性の成り立ちを理解することができます。生物の分類群毎に、生物多様性パターンの特徴を見ていきましょう。

日本の植物多様性ホットスポットについて

日本に分布する維管束植物(シダ・草本・木本)は約5600種にも及び、その約30%は日本だけに分布する固有種です。日本の中で植物種の豊かな地域は、本州中央部の太平洋側地域や琉球諸島でした。また山地や島嶼のように孤立した地域は、日本固有の植物種が数多く分布することが判明しました。

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さらに、植物多様性ホットスポットを形作った進化生態学的な3つの理由がわかりました。日本の地理的環境に関連づけて、以下に解説します。

1つ目の理由は、隔離による効果です。下の古地理の図をみてください。地史的に日本列島はユーラシア大陸と結合と分断を繰り返し、造山運動で地形が複雑化してきた歴史があります。なので、日本の生物相の成り立ちには、大陸からの生物の移入と、地形に関係した生物の分散制限が影響しています。

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本研究の解析結果から、日本の中でも大陸から遠く離れた日本本土の中央部や山地や琉球諸島は、地理的隔離の効果で、固有の植物種が進化しやすかったことが明らかになりました。

2つ目の理由は、歴史的な気候変動の効果です。数万年前の氷河期から現在に至るまで、日本は寒冷な気候から温暖な気候へと変化してきました。下の図は、氷河期と現在の気温の格差を示しています。青色の地域ほど、氷河期に気温が低下して、現在の気温と比べて気候変動が大きかった地域です。逆に赤色の地域ほど、氷河期も気温が温暖で、現在に至るまでの気候変動が小さかった地域です。現在の日本海側や西日本の九州北部や中国地方は、氷河期には大陸的な気候で寒冷・乾燥して気候変動が大きかったことがわかります。一方、太平洋岸や琉球諸島は、氷河期でも黒潮の影響のため温暖で、歴史を通じて気候が安定していました。

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この気候変動の地図と植物多様性地図を重ね合わせて分析すると、気候変動の大きかった地域では植物多様性が低く、歴史的に気候が安定していた地域で植物多様性が高いことが、明らかです。これは、数万年スケールの気候変動が、植物の進化や絶滅を通して、現在の植物多様性パターンに影響していることを示しています。

3つめの理由は、火山噴火などによる歴史的な攪乱の効果です。日本には200以上の活火山があり、噴火による火砕流は植生にも影響を与えたことが予想できます。上の地図の赤三角が火山で、火砕流の起きた地域を灰色で示しています(少しわかりにくくて、すみません)。

火山周辺で火砕流の発生した場所の植物多様性が有意に低くなることがわかり、火山噴火による地域的な植生の破壊が、現在の植物多様性パターンに影響を与えていることも示唆されました。

以上の結果から、日本の植物の多様性と固有性は、日本独特の気候・地理・地史が複合的に作用した“歴史的産物”であることが、明らかです。

この記事の内容は、以下の論文で発表しています。

Kubota Y., Shiono T.,  Kusumoto B. (2015) Role of climate and geohistorical factors in driving plant richness patterns and endemicity on the east Asian continental islands. Ecography 38: 639-648
Kubota Y., Kusumoto B., Shiono T., Tanaka T (2017) Phylogenetic properties of Tertiary relict flora in the East Asian continental islands: imprint of climatic niche conservatism and in situ diversification. Ecography 40: 436-447

また、生物多様性を定量する場合、分布データのバイアス(データの不完全性)が問題になります。その点を検証した内容は、以下の論文です。

Ulrich W., Kusumoto B., Fattorini S. & Kubota Y. (2020) Factors influencing the precision of species richness estimation in Japanese vascular plants. Diversity and Distributions 26: 769-778.

日本の動物多様性ホットスポットについて

それでは、日本の動物の多様性パターンはどうでしょうか?

少し長くなってしまったので、以下の動物多様性地図については、別記事で解説したいと思います

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