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日本の生物多様性ホットスポットはここだ!  動物編

前記事の植物の種多様性地図に続いて、今回は動物編です。

日本の脊椎動物の種数

日本の哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類・淡水魚類などの脊椎動物の種数は、以下の通りです。植物と同じように、動物もかなりの割合が日本だけに分布する固有種です。

哺乳類の種数 101種 (日本固有種 46種)                鳥類の種数 337種 (日本固有種 12種)
爬虫類の種数 73種 (日本固有種 45種)
両生類の種数 71種 (日本固有種 59種)
淡水魚類の種数 210種 (日本固有種 84種)

これら脊椎動物について、分布データを機械学習という方法で分析して、それぞれの種が「実際にどこにいるかいないか」を判定して種分布地図を作成し(注)、それを分類群ごとに重ね合わせて種数(種多様性)地図を作成しました。

注)いわゆるポテンシャルマップや生息適地地図ではなく、リアルな種分布を可視化したものです。

哺乳類の種多様性地図

哺乳類の種数が豊かな地域は、本州・北海道・四国・九州の中央付近の山岳地帯です(下地図の赤い地域)。大きな山地の無い琉球諸島は青色で、哺乳類の種数が少ないことがわかります。実際、哺乳類の種数は標高と強い相関がありました

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哺乳類は生態系の食物連鎖(食う食われる関係)の上位に位置しており、種の個体群を維持するには、多くの餌(エネルギー)が必要です。大きな島ほど十分なエネルギーがあり、数多くの哺乳類を養うことができるはずです。たしかに、面積の最も大きな本州は赤い地域が多く、種数のホットスポットがいくつもあります。

鳥類の種多様性地図

鳥類の種数が豊かな場所は、日本列島の各島の外縁部分、つまり、低地の平野部です。さらに、平野部から内陸に通じる河川流域も種数が豊かです。また、琉球諸島も種数が豊かです。

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日本は温帯に位置しており、冬や夏には、北方の大陸や熱帯から渡り鳥が飛来します。沿岸域や平野には、渡り鳥の越冬地や中継地になる場所が多いです。鳥類の種数ホットスポットには、季節的に飛来する渡り鳥の生育場所が影響していそうです。

爬虫類と両生類の種多様性地図

爬虫類と両生類の種数が豊かな地域は、比較的似ています。関東平野から東海地方にかけて、さらに、関西・北陸から山陰・九州北部です。また、琉球諸島も種数が豊かです。両生類は、より北の方まで種数が豊かな地域が散在してます。

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変温動物である爬虫類や両生類の種数が、亜熱帯気候の沖縄や、比較的温暖な本州の太平洋岸で豊かなのは納得できます。

しかし、冬がけっこう寒い北陸から山陰でも、種数が豊かです。爬虫類や両生類の種数ホットスポットは、地熱(温泉)の分布とも重なっていました(これは論文には述べなかったのですが)。爬虫類や両生類は冬眠する際、地熱が高く(温泉密度が高い)地域は、厳しい寒さをしのぎやすい場所を得やすいのかもしれません。実は、爬虫類の研究者では、温泉とヘビの豊富さは、よく知られている現象らしく”geothermal hibernation refugia”(地熱冬眠によるレフュージア)という概念が提唱されてます。日本の生物多様性の分布が、”温泉の豊かさ”と関係していそうなのは、何だか面白いです。

淡水魚類の種多様性地図

淡水魚の種数が豊かな地域は、大きな平野部です。特に、琵琶湖を中心に関西や中部の平野部が、ホットスポットです。実際、魚類の種数は、氷河期以降の沖積平野の形成、低地の海水面変動と強い相関がありました。また、琵琶湖は古くからある古代湖なので、淡水魚にとって安定した生育場所で、淡水魚が進化的に多様化することも促進したのでしょう。

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また(これも論文には書かなかったのですが)淡水魚や爬虫類や両生類の種数は、九州北部から日本海沿岸の山陰地域でも豊かです。氷河期、対馬海峡はかなり閉塞して、朝鮮半島と九州の間は、生物が行き来できた可能性が高いです。九州北部や山陰地域の種数ホットスポットは、朝鮮半島からの移入の効果も影響しているかもしれません。

日本の生物多様性の豊かさとホットスポットの分布には、過去の気候変動や古地理や地史など、現在の私たちが意識できないような、長い歴史的な理由があるのです。日本固有の生物多様性は、歴史的産物ということですね。

本記事の結果は、以下の論文が元になっています。

Lehtomäki J., Kusumoto B., Shiono T., Tanaka T., Kubota Y., Moilanen A. (2018) Spatial conservation prioritization for the East Asian islands: A balanced representation of multitaxon biogeography in a protected area network. Diversity and Distributions 25: 414-429.

海の生物の地図化記事もご覧ください。




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