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ぼくは分かっているよ



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ペンギンくんは転校生でした。
「今日から、新しく入ってきた子だよ。」
「ぼくはペンギンです。好きなことはピアノを弾くことです。よろしくお願いします。」


休み時間になり、ペンギンはカタツムリから声をかけられました。

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「ペンギンくん、ぼくはカタツムリ。よろしくね。よかったら、学校を案内するよ。」
二人は校内をめぐりながら、おしゃべりをしました。
「ペンギンくんはピアノが好きなんだよね?ぼくも好きで弾くよ!」
「え!そうなの?ぼくはドビュッシーの『月の光』が好き!」
「本当?ぼくも好き!」
二人は意気投合し、友だちになりました。


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帰りぎわに、ペンギンはクラスの子たちに囲まれ、おしゃべりをしました。
「ペンギンくんはどこに住んでたの?」
「ペンギンくん、ピアノ弾けるのすごいね。今度聞かせてね!」
「今日一緒に帰ろうよ!いっぱいおしゃべりしたいから!」


ペンギンは言いました。
「じゃあ、カタツムリくんも誘おうよ。」
すると、クラスの子たちは静まり返りました。


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そして誰かが言いました。
「いや、カタツムリくんは、さそわない方がいいよ。」
「そうそう。あの子はちょっと苦手だな。」
「明るい時もあれば、すっごく暗くなっちゃう時もあって、つかれちゃうよね。」
「この前、一緒に遊んだ時、楽しかったのに、次の日会ったら、暗くて、別人みたいになってて、しらけちゃったよ。」
ペンギンはびっくりしました。

次の日、ペンギンはカタツムリにあいさつをしに行きました。
「おはよう!カタツムリくん!」

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「…おはよう。」
カタツムリはボソッと言いました。まるで、昨日の楽しかった時間が、なかったことになっているようでした。

しかし、様子をみて、帰りに話してみようと思いました。

「やあ、カタツムリくん。」
「…なんだい。」
「よかったら、学校の文化祭で、一緒にピアノでアンサンブルをしないかい。」

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「…え! する! しようよ!」


突然、カタツムリが元気になり、びっくりしたペンギンでしたが、話にのってくれたので、うれしくなりました。


そして、二人は文化祭に向けて練習にはげみました。


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一生けん命に練習したので、本番はとてもうまくいきました。


ペンギンは、カタツムリと演奏している時間がずっと続けば良いのに、と思うほどでした。
カタツムリも、同じ気持ちでした。
それだけでなく、二人の調和したメロディーは、聞いている人たちにも同じ気持ちにさせました。

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演奏が終わったあと、ペンギンとカタツムリはその日ずっと、達成感の中、語り合い、楽しい時を過ごしました。

次の日、ペンギンはカタツムリに話しかけました。
「おはよう!カタツムリくん!昨日はすごく楽しかった!演奏してくれてありがとう!」
しかし、カタツムリはうつむいたまま、ボソボソ返事をしただけでした。

まるで、また、楽しかった時がなかったことになっているようでした。


しかし、今度はペンギンはびっくりしませんでした。


ペンギンはカタツムリが双極性障害という病気を抱えていることを、カタツムリから聞いていたからです。双極性障害とは、気分が高まっている時と、気分が下がっている時の差が激しくなってしまう病気です。そのため、カタツムリは、気分が高まっているときは、窓から飛び降りて、ケガをしてしまうこともあったそうです。また、気分が下がっている時は、学校を休んでしまうこともあるのでした。

ペンギンは、昨日の音の調和を思い出しながら、カタツムリに「また、いっしょに演奏しようね」と明るく言いました。

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解説:

双極性障害とは深刻な精神障害であり極端な鬱と躁を引き起こします。双極性障害は、双極Ⅰ型障害、双極II型障害、気分循環性障害という3つの分類があります。双極Ⅰ型障害では、鬱に加えて社会生活に支障をきたすほどの激しい躁が特徴です。たとえば、夜も眠らずに動き回る、話が止まらない、大きな声で話し遮られると怒る、などの突飛な行動が起こります。双極II型障害では鬱と双極Ⅰ型障害ほど激しくはない程度の躁が伴います。本人よりも先に周囲が症状に気づくことが多いです。気分循環性障害は双極Ⅰ、Ⅱ型ほどではない鬱と躁が症状として現れます。原因は複数あり、遺伝的なものから麻薬やアルコール、過度なストレス、睡眠不足が挙げられます。妊娠中の人は特に起こりやすいです。治療には薬と心理的セラピーの組み合わせが一般的ですが、効果が見込めない時は、脳に電気ショックを与える方法も考えられます。また、患者さんだけでなく、周囲の人の理解も治療に重要な役割を果たします。

参考



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