見出し画像

【アナキストのための映画批評】#02『ナイト ミュージアム/エジプト王の秘密』

『ナイトミュージアム』と言えば、コメディの名優ベン・スティラー主演で人気を博した娯楽作。わたしも第1作を見た記憶があるが、本作はその第3弾だ。

正直言って第1作の内容はほとんど覚えていないが、まあ娯楽作だ。博物館の展示物が動き回る、それ以上の意味もないしそれ以下の意味もない。この手の映画は設定ありきだし、その設定で終わっている。

時代考証がどうとか重箱の隅をつつくような指摘をすると、こういうジャンルの作品はダメなんだろうと思う。

真面目に批評するなら、物語の畳み方はすごく雑だ。あんだけ引っ張った癖に、金色の石板を普通に返してくれるあたり、脚本家の投げやり感が伺える。

わたしはたまたま吹き替えで見たのだが、吹き替えにお笑い芸人を起用している点もあまり評価できない。彼らはコメディアンであるかもしれないが、声優ではない。声優と共に仕事をすると、正直聴き劣りする。

コメディなので勿論全編通して笑えるシーンややりとりがちりばめられているのだが、ここからなにか読み取ろうと思わなくていいと正直思っていた。そんな期待はしていなかった。

ところが、ひとつだけ心に残る名台詞があったので紹介しておく。それも本作が遺作となったロビン・ウィリアムズ演じる初代アメリカ大統領セオドア・ルーズヴェルトの口から出た台詞だ。なにか心に引っかかるものがあった。

それは終盤、もう映画も幕引きに近づき、主役の警備員を演じるベン・スティラーが退職を決意し、本来蝋人形であるルーズヴェルトと別れを交わすシーンだ。

ベン・スティラーが尋ねて、ロビン・ウィリアムズが応える。

「明日からなにをすればいい?」
心を踊らせろ

この映画から「アナキズム」的なものを見いだすなら、本来動く筈のない展示物が生き生きと動き、そういった本来存在を許されないものはアナキストの暗喩だと捉えられるし、その側に立たされるベン・スティラーも間違いなくアナキストという立ち位置になる。

そのアナキストたちが、これまでの生活に終焉を告げ、新たな局面に対峙した時に、途方に暮れるのではなく「心を躍らせろ」というメッセージはとても痛快で意義深いものだ。

この後、実生活ではすべてを手に入れた筈のロビン・ウィリアムズは自分で自分の命を絶つことになる。ロビンの気持ちはわからないけれど、富も名誉も名声も彼の命を救うことはなかった。それだけは、胸にとどめておきたい。

それにしても、様々な映画でロビン・ウィリアムズには感動と喜びと楽しみを与えてもらった。R.I.P 名優ロビン・ウィリアムズ。あなたの魂は、わたしたち映画好きの中に恒久的に受け継がれるだろう。

追記:奇しくも『ボヘミアン・ラプソディ』の主演ラミ・マレックがエジプトの王の役で出演している。あの人、エジプト系の人だったのだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?