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【コラム】お寺の運営を考えるのは本質じゃない。今こそ、寺院、僧侶の役割を考えるべき論。

今回は、主には寺院関係者向けに、「お寺の運営を考えるのは本質じゃない。今こそ、寺院、僧侶の役割を考えるべき論」というテーマでお話をさせていただきます。

これは、これからの寺院、僧侶・寺族のあり方について書いているものなので、寺院関係者以外の方にも読んでいただき、どう思われるか是非伺ってみたいです。


▷お寺の運営を考えるのは本質じゃない

檀家制、葬儀、納骨の形態やニーズが変化しています。核家族が多くなり、家にお仏壇もなく、生活者にとってのお寺との接点が減少し、檀家という意識は薄くなっています。また、葬儀の小規模化や、永代供養ニーズの増加など、葬儀や納骨の形態やニーズもどんどんと変化しています。

良い悪いではなく、こうした変化によって、これまでのお寺の運営モデルも揺らいできています。いよいよ、僧侶・寺族の危機感も高まり、真剣にお寺の現状と未来について考える寺院関係者が増えてきたように思います。

何百年と受け継いできたお寺をどう維持し、次世代に継承していくか。これも、大切なことだと思いますが、しかし、寺院関係者の多くが、そこが本質ではないと直感的に思っているのではないかと感じています。


▷寺院、僧侶の役割

結論をいうと、お寺が目指すべき方向は、「皆がより良く生きる」という方向であり、それを実現していこうとすることが僧侶・寺族の役割だと考えます。

そもそも、仏教が大切にしているのは、自他の抜苦与楽です。苦を抜き(苦悩が和らぎ、癒やされ)、楽を与える(より良く生きていく)ことを、自らと他者と共に、実現していこうとするものです。

そして、大切にしている姿勢は、自利利他です。他者のためになすことが、自らのためともなり、自らのためにおこなうことが、他者のためともなるような姿勢が重要だと言われます。

仏教の究極的な到達点はさとりであり、さとりを求める菩提心を重視します。さとりに向かっていく行法は、宗派によって違いますが、「皆がより良く生きる」ことを実現していこうとする方向性は同じです。

教義的解釈などで、補足や反論もできますが、あまり難しく考えても実践につながりません。教えも大事ですが、行為も同じく大事です。

悩んだり、迷う時は、非常にシンプルに、根本や本質は何かと考えるのが良いと思います。


・仏教が目指しているところはさとりであり、自他の抜苦与楽や自利利他の姿勢をとても大切にしている。

・方向性としては、「皆がより良く生きる」という方向性であり、それを実現していくための道場がお寺であり、仲間がサンガ(仏法を大切にする仲間)である。

・であるから、お寺の役割は、「皆がより良く生きる」ことを実現していこうとすることである。

・実現のための行為やアプローチは、宗派によって違いや特徴はあるが、「皆がより良く生きる」と言う方向性は共通である。


シンプルに考えるとこれらのことが言えないでしょうか。

結論は、お寺が目指すべき方向は、「皆がより良く生きる」という方向だと定め、それを実現していくのが僧侶・寺族の役割だと位置づけ、お寺の取り組みや活動を、それを実現していくためにおこなっていくことが良いと考えます。

そうすることで、今を生きる方々にとって、お寺という場所が、「自分がより良く生きていくための重要な場所」となり、互いの存在が、「共により良く生きていくための大切な存在」となるのではないでしょうか。

檀家制をどうするか、葬儀や遺骨関連をどうするか、それも大きなテーマではありますが、「皆がより良く生きる」という方向を明確にし、舵を切っていくこと、それこそが本質的なことであり、今求められていることのように思うのです。

そうすることで、ご葬儀やご法事、お墓、法要、坐禅会、法話会など、既存のお寺の取り組みも、意義と役割が明確になり、本来の力を取り戻していくのだとも思います。


▷本当の「開かれたお寺」化と、「飛び出す坊主」化

こうした流れに敏感な一部の僧侶・寺族は、すでに活動を展開しています。

一時代前は、信徒向けにしか開いていなかった(開いていなかったわけではないのですが、外からはそう見えていた)門を開いていこうとする、「開かれたお寺」化がお寺の流れとしてありました。

今は、「開かれたお寺」化の質が少し変わってきているように思います。つまり、お寺の護持のために、お寺との縁をつくっていこうとする姿勢ではなく、「皆がより良く生きる」ために、お寺を活用してもらおうとする姿勢に変わってきているように思います。

具体的な例は、お寺での朝活習慣「Temple morning」や、地域や社会課題にアプローチする「Social Temple」、仏様へのお供えものを寄付する「おてらおやつクラブ」、健康習慣をお寺から発信する「ヘルシーテンプル」などです。

「Temple morning」は、全国的の賛同寺院でおこなわれている取り組みですが、先日、僧侶の松本紹圭さんが主催する東京の光明寺でおこなわれた会に参加してきました。参加される皆さんが、お寺での場や時間の特別性や貴重性を感じつつも、「より良く生きる」ことを習慣化していこうとしているところが素晴らしい取り組みだと思いました。


「Social Temple」は、代表の僧侶 近藤玄純さんと何度かお会いし、その思いも伺わせていただきましたが、お寺のためのお寺ではなく、社会課題や地域課題にアプローチしていくんだという思いを強く感じました。そして、寺GO飯という共食や、ゆくすえサポートという高齢者向けのゆくすえ相談などの具体的な活動をされているところも素晴らしいと思います。


「おてらおやつクラブ」は、貧困問題に取り組む社会福祉活動で、仏様へのお供え物を、各種団体などを通じて、おさがりとして、方親世帯の子どもなどに提供する取り組みです。2020年3月現在で、1,429寺院が参加し、455の団体、約13,000人の子どもへ寄付されています。これも素晴らしい取り組みで、私も加入し提供をさせていただいております。


「ヘルシーテンプル」は、人生100年時代に、健康が重要なテーマとなる中、お寺で心身の健康習慣をつくっていこうとする取り組みです。もともと、お寺には年配者が多く集まることや、落ち着く場所であるという要素を活かしつつ、医師などの専門家の方々とも協力して、健康づくりを習慣化していこうという時代に適った取り組みだと思います。私も、今週、講師養成講座を受講してきます。


これらの全ての取り組みは、「皆がより良く生きる」という方向性での取り組みであり、お寺や僧侶・寺族の特徴を活かした取り組みであると思います。そして、一寺院単体の取り組みではなく、お寺同士や、場合によっては専門家や協力者の方々と共働しておこなっているところが素晴らしい点だと思います。

もはや、お寺の護持や檀家になってほしいといった方向性でのお寺の取り組みには、人は嫌がって集まりません。しかし、「自分がより良く生きる」ことが目的の場であれば、人は皆、自分ごとであり、そこに何か答えがあるのではないかと関心を持って人が集まってきます。

世の中に必要とされるものは残っていきますし、たとえ価値があっても、必要とされないものは淘汰されていくのは世の常です。変わらないといけないという強烈な思いが、本来のあり方や役割を考えさせ、それを実践させていこうとしている、そういう流れにお寺はあるのだと思います。

「皆でより良く生きる」という方向性をもった、本当の「開かれたお寺」化が、今始まっています。

そして、お寺を開くだけでなく、お寺の外へお坊さんが積極的に飛び出していく、言うならば「飛び出す坊主」化の流れも活発化しています。

出版や講演、企業研修、坊主喫茶、臨床宗教師など、こうした取り組みが一部のお坊さんだけでなく、活発化してきています。これらも、「皆がより良く生きる」方向性の取り組みです。


今回は、「お寺の運営を考えるのは本質じゃない。今こそ、寺院、僧侶の役割を考えるべき論」というテーマでお話をさせていただきました。

またの機会に、僧侶・寺族が、「皆でより良く生きる」ことを実践する方法やヒントなどについて、具体的に見ていきたいと思います。


最後まで、お読みいただき、ありがとうございます。

合掌


浄土真宗本願寺派 教證山信行寺

神崎修生

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