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岡本学著『アウア・エイジ(our age)』~読書記録

①イントロダクション

 読書記録を少しやってみようか、と思う。上手く書けるかどうか、わからないが。アウトプットして、誰かが、「面白そう!」とか、「読んでみたい!」とか、そんな風に思ってくれれば、嬉しい。実は、本をいつか誰かに紹介してみたい、と思っていた。でも、自分は、ものすごい口下手で、ツイキャス配信とか、YouTubeとか、やってみたいと思ったが、そんな才能の破片もなく、収録するスペースすらなく、プライベートの切り売りしているみたいで、なんか嫌だ、そこまでして、自分の恥部を晒したいのか、バカタレが!って思う節もあるのだが、文字や文章という形なら、少しずつ伝えられそうなきがするので、やってみる。ニュートラルな感じで。まあ、これも自分の一部となると、自分を晒しているのだが……。まあ、何かを伝えたい、って思っているので、その練習です。

 今日、紹介するのは、岡本学著『アウア・エイジ(our age)』です。
 第163回の芥川賞の候補作になりました。
 7年前に、著者の本『架空列車』を読みました。大学准教授が、群像新人文学賞を受賞し、少し話題になりました。読みましたが、漠然と思い出すと、面白かったなー、という印象です。自分の住む町を、こんな電車が通ったらいいなー、みたいな感じで、自分の世界を築き上げる感じがして良かったです。2作目の『再起動』は、まだ読んでないので、ノータッチで行きますが、『アウア・エイジ(our age)』も、これまた、記憶を辿るような感じで良かったです。大学の教授なので、少し専門的な学説も出てきて、難しく感じたところもありましたが、至って平坦で、読みやすかったです。
 あらすじに行きたいと思います。

②あらすじ

 私は、大学の教員をしており、ある一通の封筒が届いた。送り主は、映写技師からで、映写機の葬式をやるとのこと。かつて、私は、大学時代に映画館で、映写技師のアルバイトをしており、そこにいた出来事や一緒にいた女性のことを思い出した。気力を失い、味気ない生活を送っていた私に、活力を見出し、約20年前に記憶を辿りながら、歩き始める。

 こんな内容です。少し、齟齬があるかもしれませんが……。
 それでは、少しネタバレを入れたり、内容に触れたりしながら、感想を述べていきたいと思います。

③感想

 一言で言ってしまえば、面白かったです。
 記憶を辿ったり、思い出して、ピルグリム、つまり、様々な場所を巡礼するのは、不思議な感覚になりました。それぞれの記憶の断片が、少しずつ、共通点を見出して、繋がっていく感じが良かったです。一種の謎解きのような気がしました。

 私は、映画が大好きなのですが、映画について、専門的かつ緻密に、描かれていて、その点でも、「なるほどー」と、感嘆符を漏らしました。
 映画館も、神楽坂近くの場所だったので、「飯田橋ギンレイホール」のことかな?とか思いをめぐらしながら、考えていました。自分は、出身大学は近かったのですが、ギンレイホールは行ったことないのです、行ってみたかった……。今は、割とフィルムの映画は、あまりないのかな、と思います。
 時々、ユーロスペースなどで、入口のところに、フィルムがタワーの如く積まれている時がありますが、シネコンとかいっても、なかなかないような気がします。フィルムで映画を映すのは味があっていいような気がします。
 2本立ての上映で、創作かもしれないですが、支配人みたいな人が、こんな風に作品や時間を決めていたのかな、と思いました。

 フィルムは燃えやすい。フィルムは1秒に24コマ必要で、大きなリールだったら、20分しかもたない。2時間の映画だったら、フィルム束は、6本必要になる。1本の映画を、2台の映写機で映す。自分は、映画好きなのに、知らないことばかりで、驚いてしまった。その点で勉強になったり、こうなっているのか、と中身を覗いているようで、面白かったです。昔、映画で黒点みたいなのが、上映中に映っていて、気になっていたが、その正体もなんとなくわかりました。レンズの種類も、スタンダード、ビスタ、シネマスコープと3種類ほどあったのか、と思いました。

 登場人物も、あまり干渉せず、淡々とした雰囲気がありました。
 しかし、ミスミと呼ばれる、不思議な女性は、突き抜けて変な印象を与えてました。立ったまま映画を観る、いきなり話し掛けられ塔の写真を見せてくる、口癖が「知りたいなら教えてあげるけど、本当にそんなこと知りたい?」で、貞操観念が緩い。なんだか、奇妙だなと思いました。でも、主人公の私は、「塔」について、一緒に探す旅に出るのです。

 この小説を読んで、「カントール集合」という、実在しない数学上の抽象的集合体があるのを知りました。あまり言うとネタバレになるので、詳しくは書かないのですが、著者も大学教授なので、こういうことが書けるのではないか、と思いました。

 一番印象に残ったのは、62ページにあった、この文章です。

 一本の映画が作られ、それが誰かの人生に影響を与える。(中略)文化とは、リレーに違いない。
 人間が生きるということを突き詰めた先は、伝達なのだ。では何を伝達していくべきなのだろう。私は誰も見ていない映画を眺めながら寂しく殊勝に考えていくべきこと。でもその大半は、技術だとかノウハウだとか、理科系的なものな気がした。いや、もちろん他にある。教訓だとか、過ちだとか、後悔だとか、痛みだとか。(中略)伝えていくべきものは痛みだ。そう教わっていた。
――――岡本学『アウア・エイジ(our age)』

 やはり、人間が作った芸術や文化は残していくべきだな、と思いました。
 小説にせよ、映画にせよ、音楽にせよ、人間が作ったものは、醜くても、不完全でも、発展途上でも、美しいのかな、と思わせるものを感じました。
 いまは、割と「AIが人間の仕事を奪う」みたいな記事が出回り、つまらない、憂鬱な印象を味わいますが、でも、人間が丹精を込めて、作り上げたものこそ、面白いんじゃないか、と思います。
 将棋でも、人間対人間の勝負が面白いと思います。
 やはり、この世は、人間や生命を持つ生物がいてこその世界だと思います。AIや機械、ロボットに支配されたら、味気ない世界になってしまうんだろうなあ、と危惧しています。

 タイトルは、何故『アウア・エイジ』なのか、ずっと不思議に思っていましたが、最後の最後で、分かり、カタルシスが、ドバーっと、雪崩のように溢れ、凄いな、と思いました。
 少し芥川賞を受賞するには、物足りない部分がありましたが、面白かったですし、秀作であることは間違いないでしょう。

 これから、様々な小説を、少しずつ紹介できればと思います。
 読んでくれたら嬉しいです。
 是非よろしくお願いします。

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