モノクロのとびきり遅い夏
今回の冬の思い出を尋ねられたら、僕は「花火」と答えるだろう。
昨今の状況もあって、毎年恒例だった花火大会は中止になったり、存在そのものが消えてしまったところも少なくない。
去年も花火と言ったら友人たちと河川敷で申し訳ない程度に楽しんだ線香花火がいいところだった。
花火を見にいく、そんな発想は完全に頭から消え失せてしまっていた時、友人が「熱海で花火大会やるらしい。行きたい。」と言い出した。
もう12月だぜ?と最初は耳を疑ったが、どうやら本当にやっているらしい。
そもそも花火大会自体、大学の頃付き合っていた彼女と迎えた初めての夏、お決まりのように近くの花火大会に繰り出して、出店に気を取られている間に打ち上がり始めたのをわんさかいる人の間から見たのが最後だったんじゃないだろうか。
正直、あんな苦労して見にいく意味なし、と思っていた僕にはあまりピンと来なかった。
しかし、ちょうどそんな時使用期限が迫っているフィルムが何本か冷蔵庫にあるのを思い出した。
確認してみると、モノクロである。
最近、モノクロは自分で現像するようになっていたし、あえて花火をモノクロで撮るのも悪くないのか?思い、ローライのモノクロフィルムを当日持っていくことにした。
熱海のビーチからは冷たい風が吹き付けてくる。
サラサラの砂に、波の音を聞いていると、冬に海に繰り出すサーファーとかに縁がない僕はちょっぴり変な気分になる。
どこかしら、夏みたいな冬。今年も迎えた感じがしなかった夏の延長戦をやっているみたいだった。
ビーチの一角に陣取って待つ。時間になり、大勢の歓声と共に聞こえてきたのは、皮膚を貫通して、心臓をビリビリとついてくるあの花火の音だった。
空一面に広がる花火に目を奪われた。
時間にすると20分足らずだったのだが、今まで花火大会で感じたことがない不思議な気持ちになった。
シャッターの時間を遅くして、花火に向ける。
この眩しすぎる光たちを、十分にフィルムに焼き付けることができるようにと。
帰って暗室で現像して、数枚実際に焼いてみた。
赤暗い暗室のライトを明るくすると、そこには夏の延長戦のような熱海の風景と、冷たい海風の上で輝く花火があった。
この花火大会は2021年の最後に心に残る瞬間になった。
僕たちは別にいつ夏してもよかったのである。
というか、花火は夏オンリーのイベントではなかったのだった。
浴衣に草履で見る花火と、ダッフルコートに大判のマフラー巻いて見る花火も素晴らしさは変わらない。
それを12月の熱海のビーチで発見した。
来年から、気になるアノ子は冬の花火に誘おう。
まばゆすぎる浴衣姿に目移りすることなく、澄み切った寒空の下の花火をめいいっぱい楽しむことができるのだから。
K
いただいたサポートはこれからのクリエイションに使用させていただきます。