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綺譚 現代の浪人と、見えない彼女

この国では、大きく2つの宗教が普及している。

1つは大陸伝来の仏教。ただ、外から来たものがそのまま定着したわけではない。この土地にかねて存在する宗教である神道と混ざり合い、結果としてどこの国にも見られない、この国ならではの独自宗教と化した。

もう1つは、先にも触れた神道である。こちらはまさに、この国の文化と一体となっている。だが先にも触れた仏教の影響を受け、仏教で語られる様々な光の存在たちを、神道の信仰対象にも取り込んできた。いわゆる習合である。

こうしてこの国の宗教は時代を経て変化をしてきたが、いずれの宗教も、大きなくくりで言えば、もっともっと古い自然信仰に由来する。

海に囲まれ、山があり、川が流れ、豊かな四季が彩るこの国。
ここで生きて死ぬ人々は、人間の力では到底あらがえない大自然の動きの裏に、人知を超えた「意思と理(ことわり)」を見いだした。

太古から残る祭場は、かつてこの国を歩いていた人々が、人知を超えた「意思と理」に敬意を示すために使われたものだろう。
こうした祭場――いわば聖地の後に、神社仏閣を建てている場合も珍しくない。

技術の発展が著しい現代でも、「意思と理」への祈りを人生の核に据えて生きようとする者は少なくない。

ある男は会社を辞め、この国の聖地を巡礼する旅に出た。

製造企業で、材料工学の研究者として働いていた。
しかし、30代も半ばでやる気を完全に失ってしまった。
研究者として大成する見込みが消えたこともあるが、社内の出世競争にも全く関心がなかった。
養うべき家族もいない。

他方、彼にはひとつ“研究成果”があった。
材料の性質を突き詰めるその先に、人知を超えた「意思と理(ことわり)」を感じたのだ。
「この世界は、何か偉大なる意思によって、設計されているのではないか。なんとなく自然にこうなった、とは、とてもじゃないが考えられない」

ある日、上司の態度にかっときた男は吹っ切れた。
当てもなく、いきなり会社を辞めた。
悔いはなかった。

ひたすら気ままに生活するスタイルが始まって数日後のことである。
そこから夜な夜な、こんな夢を見るようになった。

美しい女性が現れる。
人間のようにも見えるが、腕が複数伸びている。
異形の姿でありながらも、全身から発せられる光には暖かさと柔らかさが感じられる。
そのため、恐怖はそれほど感じない。
何かを切に訴えている。
気になって、気になって、仕方がない。
しかし、彼女が何を言いたいのかは、どうしても分からない。

そんなある日の昼間、公園を歩いていたら、何気なくすれ違った初老の女性が「もし」と語りかけてきた。

「あなた、奇麗な神様がそばにいて、あなたのことを呼んでるよ」
「はあ!?」
「天女さんだねきっと」

絶句した男だったが、どうやらこの女性は、自分には見えない何かが、わかるらしい。
そのまま女性の話を聞くことにした。

「最近、たびたび夢に女性が出てくるんですが」
「そりゃあ、呼ばれてるね。どこか天女がいるとこ、お参りに行ってみるといいさ」

不思議な出会いであった。
信じてみるしかない。

半信半疑のまま、女性の神仏を奉る神社仏閣を、片っ端から訪問する旅の日々が始まった。

日銭を稼ぐアルバイトをし、そして合間に旅をする。
そんな暮らしを続けるうちに、男には何となく見えてきたものがあった。

この国を形作っている、何か「大きな意思」があるということ。
その「大きな意思」の下で、神仏と呼ばれる無数の存在たちが、七転八倒しながら何かを成し遂げようとしていること。
この国では大小、さまざまな事象が起きているが、その裏にはじつは、神仏たちの織りなすせめぎ合いがあること。
人間たちが目にする表面の事象は、それら神仏たちのせめぎ合いが反映された一部でしかないということ――。

どうやら天女は、この国で何かを成したいらしい。
そして男はどうやら、この天女に見初められてしまったらしい。

不思議な縁を感じながら、巡礼の旅を続ける。
中年の独身男につきっきりの“彼女”は、目には見えない天女なのだ。

男はしばらく定職に就いていない。
しかし奇妙なことに、たまに舞い込むアルバイト案件をこなしていることで、なんとか生活ができている。
これも天女の計らいなのだろうか。

いまだ明かされぬ自分の使命。
一般的な世間の目からみれば、あまりにも不安定で奇妙な“浪人”の男。

しかし、男の心は、これまでの人生で感じたことのない、安堵の気持ちとやる気に満ちあふれている。

誰にも認められることのない仕事。
しかし本当のやりがいとは、こういうものなのかもしれない――男はふと思った。

天女の計らいは、パズルのピースのように思う。
一つずつ男の前に示されるが、いまだにどんな絵柄が浮かび上がってくるのか、皆目見当がつかない。

なるようになるか。
男は、自らの直観と言われるものと、「見えない彼女」を信じることにし、彼女と縁があるとおぼしき聖地へと足を向けた。

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■おまけ:トップ画像について

ある海沿いの神社の近くで、美しい海を撮りました。「見えないものを見る」人は意外に多いもので、自らの心身の問題を克服するためにトレーニングを積んできた筆者も、びっくりするほどです。






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