人種差別について本気出して考えてみた22歳の冬

たまには真面目なこともつらつらと書いてみようと思う。テーマはずばり「人種差別」について。

大学時代、友人と三人でスペインへ旅行に行った。それぞれ日本の中でも京都、大阪、千葉に住んでいる三人だったのでスペイン現地集合、現地解散というなかなかに面白いかたちでの旅行だった。学生の身分ではなかなかお金もなく、宿はドミトリーで安く上げ朝食、昼食はそのドミトリーで出る食べ放題のパンを鞄に詰め込んでただただ腹を満たすというもの。それでも異国の地は魅力にあふれ、非常に楽しかった。もともとヨーロッパの街並みなんかに並々ならぬ憧れを持つ僕としては食よりもその空気感を味わえるだけで大満足だったわけだ。ちなみにこれが僕のヨーロッパ初体験でもあった。

さて、この友人のうちの一人、名前は「ケイ」としておこう。ケイとはアメリカ短期留学中に知り合った同い年の友達でもう一人の友人、「サトル」と共に短い在米期間を大いに楽しんだ仲であった。三人が日本へ帰国する日が近づいたある日、別の友人が暮らしていたアメリカのアパートでしこたまお酒を飲んでいたらケイが「実はおれ…」と妙に深刻な顔で語りだしたことがあった。どういう内容かと言うと、ケイの両親は韓国人でいわゆる在日二世だというカミングアウトであった。「なんだ、そんなことか」とその場にいた僕を含むサトルや他の友人たちは不思議に思ったのだが、ケイは高校生の時に仲のいい友人に在日韓国人であることをカミングアウトしたら次の日からその友人に無視されたという経験があったそう。大学の時にも同じように出自について告白したら友達が離れて行った、とも。
僕は大いに驚いたわけだ。噂では聞いていたが在日差別って本当にあるのか、と。僕の友人にも在日韓国人は何人もいるけどそんな風に「韓国人だから」と言う理由でイジメや差別をする人なんていなかったからだ。これに関してはサトルや他の友人も同じだった。
そんな僕たちの態度を見て深刻な顔で告白してきたケイは喜びの涙を浮かべていた。お酒も飲んでいたしね。その流れでなぜかその場にいた人達が自分の悩みなんかを打ち明ける場になって涙あり、笑いありの飲み会になったものだ。

話をスペイン旅行に戻そう。アメリカで仲良くなった友人と三人で訪れた欧州。お金はないけど楽しい、そんな素敵な旅。問題は三日目の晩のこと。その日も十人相部屋の安ドミトリーに宿泊予定でドミトリーに荷物を置いて近場のパブに飲みに行こう、とサトルが言ったので「おけおけ」と意気揚々荷物を置いて出かけようとしたのだが、そこでケイが「いや、でも同室の外国人に荷物盗まれるかもしれないから荷物を置いていくのはやめよう」と言い出した。もちろんパスポートや航空券など貴重品は持っていくし、荷物と言っても着替えくらいのものである。同室の外国人ともそれなりに和気藹々と話していたのだから大丈夫だろ、と楽天的な僕とサトル。確かに僕たち二人はあまりにも危機意識がなっていない節はある。ただ前日も同じように荷物を置いて街へ繰り出しているのになぜ今日はケイは荷物を置くことを拒むのだろう、と疑問であった。するとケイは続けてこう言った。
「ああいう人達はまじで荷物盗むよ」と。

どういうことか。実はその日同室に泊まるのがアフリカ系フランス人の三人組だったのだ。分かりやすく言い換えると黒人の旅行者。前日同室だったのはイギリス人、白人だった。
おいおいそれは違うんじゃなかろうか、とサトルと僕はケイに言う。「荷物を置いて離れるのが不安だと言うのなら分かるが黒人の前で荷物を置くのは不安と言うならそれは人種差別だろ」と。しかしケイは譲らない。「フランス南部から来ている黒人、残念ながら彼らは貧しくて平気で物を盗むんだ。生きていくために。かわいそうな人たちなんだ。だから荷物は置いていけない」。ケイには自分が今、人種差別をしている、という認識はないようだった。ただただ事実を述べているだけ、といった風に。ちなみに彼のアフリカ系フランス人は物を盗む、という情報は身を持って経験した話ではなくネットで仕入れた知識らしい。
僕は悲しくなった。(僕にとっては)大金を払って来ている海外旅行なのでそうは言ってもそこでしか出来ない体験を楽しんだし、サトルはもちろんケイとも表面上はそれまでと同じように冗談を言い合いながら仲良く過ごしていた。でも心にはなんとも言えないもやもやがこびりついて離れないわけである。

国籍や人種で差別するなんてナンセンスだ、とあの夜僕たちはみんなで涙を流したのではなかったのか?自分が喰らって悲しかった周りの人達からの攻撃、そんな攻撃を今度は自分が別の人にしている。まさに「弱い者達が夕暮れさらに弱い者をたたく」である。
思わずTHE BLUE HEARTSの名曲、TRAIN-TRAINの歌詞を想像してしまったぜ。

傷つけられたことがある人はそうでない人よりも人に優しくなれると思っていたけれども、世の中そんなに単純ではないらしい。さすがマーシー。

スペインから帰国した僕は韓国人の友人にさっそくこの話をした。彼は僕の友人の中でも一風変わった男である。彼いわく「あぁ、それは典型的な韓国人的思考。そういう人むちゃくちゃ多いで。自分は被害者だ!と言いつつ自分はむちゃくちゃ差別するやつ」らしい。
この彼の発言もまた十二分に人種差別的発言である。韓国人の彼が言っている分には問題ない(問題は大ありだが)がこの発言を日本人がしようもんならもう大炎上間違いなしである。

そんなこんなで人種差別について考えた22歳の冬。綺麗に沈む夕日を見ながら自分だけはさらに弱い者をたたくのをやめよう、と小さく胸に誓ったのであった。

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