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「苦痛」と「回復」は進化の両輪


休む」ことに対するネガティブな印象は、かつてほどではないにしてもいまだ日本には根強く残っている気がします。マネジメントをしている、とあるプロサッカー選手もそんな傾向がサッカー界にも存在すると話していました。「ポジションを奪われる」「監督に使われなくなる」だから多少の痛みだったら休まない、がまんするというロジック。

ビジネスパーソンもけっこうな割合で「有休をとらない」ケースがあるのかもしれません。休む権利を行使しない人の割合は世界的に見ても高いという調査結果もあります。「休みにくい雰囲気」や「やる気がないと思われる」といった周囲の目が気になってしまう。休む=ネガティブという公式は、なかなか崩れそうにありません。

「偉大な天才は働いていないときに成果をあげる」

そう語ったのはレオナルド・ダ・ヴィンチ。休憩の大事さを認識しているのは、世界クラスのパフォーマーに共通しているというデータもあります。「いかに休むべきか?」「自分はしっかり休めているか?」といった問いに敏感で、実際に休んでいるという”時間感覚”は、一般的なパフォーマーに比べてかなり正確です。弊社所属アスリートも、長い間活躍している人ほど「休むべきタイミングできちんと休む」と断言していました。

「筋トレ」で考えてみると、休みなく毎日ジムに行く人は少ない気がします。人の筋肉は、トレーニングの最中には発達せず、ゆっくりと体を休めているあいだにしか増えていかないことがわかっているからでしょう。筋トレで刺激や苦痛を与えて成長システムが起動し、休憩することで成長システムが実行されるわけですね。刺激と回復。このワンセットがパフォーマンスを向上させるということでしょう。

「幸福な人ほど長生きする」
楽観的で人生に前向きな人ほど若々しい見た目を保ち続け、病気にもかかりにくく、健康なまま長生きできる。アンチエイジング科学の世界で昔から語られている格言です。幸福感が高いと活動的になり、無意識のうちに運動量があがったり、不幸なことが起きてもすぐ立ち直れたり、免疫システムが改善されたり。ハーバード大学が7万人の健康データを分析した研究によって明らかになりました。

「休む=ネガティブ」
周囲や上の人の反応を気にしすぎて、休むことなくがんばる風潮は、不幸になるとまではいいませんが、幸福になるとも言いきれません。なかには「仕事とプライベートの境界線があいまい」と表現して、休みを必要としない人もいますが、おそらく例外中の例外。楽観思考で適切な休息を軸にした適切なライフスタイルによって日々のストレスが癒され、生物学的な機能によい影響がでる。たとえ根拠がなくても、前向きにポジティブに未来を志向できる人のほうが、人生のストレスが減り、それだけで肉体のダメージも減ります。

米国シークレットサービスの訓練は、次のステップで進みます。

1.身体機能を高めるために「苦痛」を与える
2.「苦痛」に対する反応を観察、記録する
3.ストレス反応を把握し「苦痛」レベルを高める
4.ストレスレベルを知り「苦痛」を調節する
5.ダメージを受けた心身を「回復」させる
6.①~⑤をくり返し、「苦痛」レベルを上げる

つまり、「苦痛」と「回復」の往復をただしく実践することで人体のポテンシャルを引き出しているわけですね。苦痛、つまりトレーニングだけを過度に信頼するのではなく、回復=休むこととセットで考える。「苦痛」と「回復」は進化の両輪です。スポーツにおいても、ひょっとしたらビジネスパーソンも、このセットの重要性をより理解している人ほど、成果を得られるのかもしれません。

久保大輔




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