海外生活は創造性アップに貢献する
とあるアスリートから連絡があったのは昨日夜遅く。スペインはお昼過ぎでした。Jリーグを退団。単身でスペインに乗り込み、4部リーグながら契約を勝ち取った選手がいます。前職(吉本興業)では彼を一時期マネジメント。タイミングが合わず断念しましたが、大学院への進学を視野に入れて一緒に動いていた時期もありました。現役アスリートながら社会貢献、子どもの夢を後押ししたいというビジョンあり。渡西は、将来をみすえた彼なりの決意の表れでもあります。
J1チームに所属し、報酬も十分にあり、元日本代表ということもあって、これからも日本で活動を続ける方が圧倒的にラクなはず。家族がありますのでなおさら、チャレンジすることなく普通に生活していくことが、一般的に予想される選択です。ですが彼はそうしませんでした。選択肢にすら上がらなかった未知の世界に飛び込む決意は簡単ではなかったはず。そして現地では数多くの困難に遭遇して悩むこともあったようですが、昨日聞こえてきたのは「弾むような声」でした。日本にいるときよりも声のトーンが高い。今までにない「充実感」が伝わってきました。
マインドワンダリング
つまり「心ここにあらず」の状態に入ると人は、脳の前頭前野が活性化して、創造性と集中力に関わる脳のネットワークがスムースにつながると言われています。海外生活を始めた当初、何もかもが新鮮で刺激が多くて、脳の処理が追いつかなかった経験があります。まさに「心ここに在らず」状態に。刺激があるにもかかわらず脳がぼんやりした状態に陥って、リラックスモードになって「拡散思考」の発生率を高めてくれます。
「拡散思考」とは、ひとつの問題に対して複数の回答を思いつく能力のこと。この思考ができる人ほどいいアイデアを思いつきやすくなります。逆に「収束思考」は、複数の問題からひとつの回答を導き出す能力。難しい問題を理論的に解き明かしていくような思考法を意味します。ですがクリエイティビティを発揮させるためには「拡散思考」が有効。脳を適度に浮遊させる必要があります。
サイコディスタンス
こちらは心理的距離のこと。遠距離のイメージを持った人ほど問題解決がうまくなって、実際にいいアイデアを思いつきやすくなることが多くの研究で明らかになっています。天井が低い部屋よりも、高い部屋で考えた方が良いアイデアが出たり、とにかく広々としたイメージを思い浮かべてみるのが大事。遠い国に出かけてみる、遠い国の写真を見るだけでもOK。異文化の人とコミュニケーションをとる。このように自分とはかけ離れたものへ意識を向けて「遠くて広いイメージ」に接していくことでより発想が柔軟に、自由になっていきます。
海外へのチャレンジ。困難極まりない決断で精神的に消耗してしまうイメージがありますが、これらの心理効果を知っているだけでもメンタルの維持、改善に役立ちそうです。そして事実、昨日話したアスリートの声から察した通り、困難どころかほとばしる充実感。練習場、更衣室、衣食住、おそらくどれをとっても日本より劣る環境に身を投じています。そしてその現状を相対化することなく、この環境をいかに楽しめるか、創造力が発揮されて存分に充実感を味わえているのでしょう。
チャレンジ、環境を変えることの重要性についてあらためて気づかせてくれたアスリートの感謝です。
久保大輔
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?