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うるさい人ほど身近に


難癖をつけてくる人、口うるさい人。できれば近寄りたくないですよね?何かを検討しているとき、そして自分の考えが明確なとき、できれば賛同、同意してくれる人に側にいてほしい。ところがこの姿勢はリスクを高め、成功の確率を下げる可能性があるとしたらどうでしょうか?

日本は相対的に「声を上げることに抵抗を覚える」度合いが強いことは、ホフステードという社会心理学者が数値化して明らかにしています。そして同時に、イノベーションを起こす人の特徴として「年齢が若い」か「その領域に入って日が浅い」という点を挙げていて、組織内で弱い立場にある人がイノベーションを起こしやすいことを示唆しています。

最近はかつてほど上下関係が厳しくない感じもします。学生なんかは、先輩を「くん」づけで呼んだり。ですが現代社会において、若手が積極的に意見を表明できるほど、日本の権力格差は低くなっていない気もします。無言の圧力とでもいいましょうか、弱い立場にある人の声は圧殺されやすい

イギリスの政治哲学者、ジョン・スチュアート・ミルは「自由論」で「反論の自由」の大切さを説いています。

たくさんの反論に対して理路整然と回答し、受け入れられたアイデアと、そもそも反論を許さない雰囲気の上に採用されたアイデアのあいだには、きわめて大きな隔たりがある。

ソクラテスやキリストは処刑されましたが、現在ではたくさんに人々にその信条や思想が受け入れられています。ある時代の「悪」は、時を経て「善」になりうる。アイデアの是非は、その時代の優秀な人たちの意見や考えによって決まるのではなく、長い年月をかけて、多くの人の多面的な考察を経て判断されるべきです。

某銀行が新卒社員に1000万円の報酬を用意することがニュースになっていました。紋切り型の報酬体系を踏襲する日系企業を飛び越えて、外資に優秀な人材が流れている現状を危惧した対応かと思われます。心理学者のアービング・ジャニスは、ウォーターゲート事件やヴェトナム戦争の研究をとおして次のような結論を導きだしました。

どんなに知的水準の高い人でも「似たような意見や志向」をもった人たちが集まると知的生産のクオリティは低下する。

ここで求められるのは「難癖をつける人」です。きわめて重大な局面で、この口うるさい人の存在が有効に働いた例はたくさんあります。キューバ危機の回避はまさにそれ。詳述は割愛しますが、より積極的に反対意見をいえる雰囲気を、リーダーや組織はむしろ探してでも求めるという態度が必要なのではないでしょうか?

エリートをたくさん集めても、本質的な雰囲気が変わらなければ同調圧力によってアイデアの質が低下する。それはサッカーの世界でも強く意識されているようで、現時点で最高の監督と目される方の著書にはこんな文章が書かれていました。

彼は、自分に意見することを怖れない人間を周りに置く。最終的には彼次第、ということになるが、まずはじめに周りからのインプットを求めるのが彼のやり方だ。

数多くの試合を経験し、負け試合を経験し、修羅場を乗り越えて、そして誰よりもタイトル獲得を実現してきた。そしていまなお、わきあがる知的好奇心を抑えきれず、不断の努力を惜しまない。そんな人が「他者の意見に傾聴する」という謙虚さはなかなかマネできるものではないでしょう。

ですが科学的な見地からも明らかなように、分野を問わず、最高峰に位置する人はすべからく、自分以外の人間の考えを参考にする謙虚さを持ち合わせているようです。いまだ何もなしえていないような私のような凡人はとりあえず、中途半端な知識や経験を忘れて、周囲の声に耳を傾けることが大事だと思いました。

久保大輔




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