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役に立たない安永の昔話

FROM 安永周平

※今日の話は役に立たないと思います

一昨日、トヨタの『マークX』が生産終了になるというニュースが目に飛び込んできました。僕は車にはあまり興味がないのですが…これはちょっと寂しく思いました。

というのも、もう10年前になるんでしょうか。僕は新卒でトヨタ自動車に技術職で入社して、車のボディーやバンパーの塗装品質を造り込む生産技術の部署に配属されました(ちなみにトヨタでは、ボディーのことを「ボデー」と言いますw)。そして、初めて本格的に生産準備を担当した車両がこのマークXだったんですよね。

初めて生産準備を担当した車種


で、普通は新入社員には5〜7年目の社員が「職場先輩」という形で就いて、その先輩に同行しながら仕事を覚えるのですが…僕の職場先輩になった人が別工場に出向中でほとんど職場にいなかったんです。そのため、1年目の新人研修を終えて2年目が始まる頃に、このマークXの車両切り替えプロジェクトに単独で放り込まれました。

あなたもご存知かもしれませんが、だいたい新車が世に出る時は6〜8色程度のボディーカラーのラインナップがあります。人気というか、よく売れるのはホワイトパール。それからシルバー系。それと黒ですかね。そして赤とか青とか黄色とか…そのあまり売れない「少量色」と呼ばれる色があります。

そして、このマークXにも「赤」が入っていたんですが…これが向上の生産ラインにおける試作時に火を吹いたんです(たとえですよ?)。塗装工場では、自動車のボディーに微粒化された塗料を吹き付けて色付けした後、デカい乾燥炉を通る工程があるのですが…この工程で塗膜から空気が抜けきらない”ワキ”という不具合が大量発生したんですね。

右も左も分からぬままクソ怒られる日々…


そんなわけで、現場の職長からクソ怒られる日々が始まりました。右も左も分からぬまま、この不具合を解消するために奔走したわけです。別の先輩や上司を捕まえて相談し、条件を変えてトライするも…NG。その不具合に対して部署で1番詳しい人に相談してトライするも…失敗。そんなことの繰り返しです。あれは辛かった、たぶん鬱状態でした(苦笑)

実験場で事前検証した時には出なかった不具合。単独行動の新人だった僕には、いきなりラスボスが出てきたようなもんです。この頃から、自動車塗装という技術は不確定要素が多すぎて、再現がとても難しいことを理解し始めました。しかも、ちょっと言い方は悪いですが「命」に関わる技術ではないため、社内的な立場は弱かったみたいですし。あと環境に悪い。

不具合が解消されて世に出たけど…


最終的には色々とトライを繰り返し、どうにかこうに不具合を解消して販売されたんですが、販売後は全く売れない色となりました(笑) 頑張っても報われるとは限らないことを学びました。しかも、売れない”少量色”は現場での塗料管理が大変で…別件で現場に行くと職長のオッチャンに「全然出ねぇぞあの色!」と文句を言われます。僕も笑うしかありませんw

トヨタでは全てのボディーカラーにコードが振られるのですが、この忌まわしき問題児のカラーコードは3R6。「ジンジャーレッドマイカメタリック」というらしいです。辛い思い出です、ジンジャーだけに。ちなみに、現在販売中のカラーにも赤が残っているのですが、先の赤は廃色になったようで、別の汎用性の高い赤に変わっていました。

僕が退職する時、グループのメンバーが、この問題児カラーを塗った鉄板にメッセージ書いてくれました。「この苦しみを乗り越えた経験を忘れるな」という、当時の上司からのメッセージでした。とても大変な立場にいながらも、最後には責任を取ってくれるカッコいい上司でした。

たまたま赤のマークXミニカーを見つけて…


で、写真は、たまたまこないだネットで見かけたこのマークXのミニカーです。懐かしくなって、つい赤を探して買ってしまったのです。それが一昨日に届いたと思ったら…このタイミングでマークX生産終了のニュースが。なんだか奇妙な偶然を感じつつ、寂しさ半分懐かしさ半分…まるでオモチャで喜ぶ子供みたいに写真を撮ってしまいました。

もうすぐ平成も終わります。僕だけじゃなく、あなたにも辛かった経験があると思います。でも、乗り越えた経験はきっと今、僕らにとっての「宝」となっているのではないでしょうか。最近は痛ましいニュースがたくさん流れてきますが…今こうして生きていることに感謝をしつつ、後悔のない生き方をしていきましょう。それが生きている人間の務めではないかと思うのです。

PS
ちなみに、当時現場で怒られまくっていた僕が、こうしたコミュニケーションを学んでいたら…もっと上手くやれたんじゃないかと思います。10年前の僕に教えてあげたい(笑)

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