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意味が無いものに意味を生み出す / 対談 with 西田二郎 # 3

平良 真人( @TylerMasato ) の対談シリーズ。
今回のお相手も読売テレビ放送チーフプロデューサーである西田二郎さん。

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西田二郎(にしだじろう)
1965年生まれ。大阪私立大学経済学部卒。読売テレビ放送株式会社入社。「11pm」「EXテレビ」を経て「ダウンタウンDX」を演出。
タレントに頼らないバラエティ「 西田二郎の無添加ですよ!」では民放連盟賞優秀賞。2015年より営業企画開発部長、編成企画部長を経て編成局チーフプロデューサー。
NJ名義にて日本クラウンにも所属し、音楽家としてFM OH!にて自身のラジオも持つ。会社員の枠に囚われずパラレルに活動を繰り広げる演出家。
一般社団法人 未来のテレビを考える会 理事代表幹事。
NPO法人 京都フィルハーモニー室内合奏団 副理事長。

これまでに2回に亘って(# 1 , # 2 )、読売テレビに入るきっかけから、西田さん流のアイデアの生み出し方を伺ってきました。今回は長年バラエティーを作る中で大切にしてきた価値観を教えていただきました。

イノベーションが起きる環境

平良真人(以下、平良):
IT業界でよく使われる言葉に ”イノベーション” と言う言葉があって、これはズラすに近い感覚だと思うのですが、この言葉を濱口秀司さんが 3 つの要素からできていると提示してくれています。1 つ目は今までに聞いたことがない。2つ目は実現可能性がある。3 つ目は反対する人がいる。
ダウンタウンさんの話はまさにそれですよね。

西田二郎氏(以下、西田氏):もう大反対でしたからね。

平良:反対が無いと言うのは踏襲している可能性が高くて、結局 1 つ目も 2 つ目も満たせていないことになりやすい。

西田氏:
そのお話で言うと、僕は 3 つ目が圧倒的に少ない場所を選んでいた気がしますね。要は 2 つでイノベーションができる環境が読売テレビだった。

平良:とても許容量が大きい環境ですよね。

西田氏:
恐らく僕は反対されていたら折れてしまっていたと思います。そんなに強くない。
反対されても推し進めるだけのエネルギーを持っている人もいる中で、僕はそうじゃないからこそ、出来るだけ受け止めてくれる所を無意識的に探していたのかもしれないですね。

平良:だとすると、その環境を守ってくれる会社はずっと文化を維持しないといけないですよね。

西田氏:
本当にそうですね。
テレビ業界の素晴らしさは、最初コンフリクトが起こっても 1 度認めると許容される。何言っているかわからないことが反対する理由にならない状況が生まれやすい。だから、1 度許容されればイノベーションを起こしやすくなる環境ではあると思います。

平良:反対にマンネリ化するパターンもありますよね。

西田氏:いつも似たようなアイデアだなと思われることは確実にありますね。

平良:増改築がシビアな世界でそれが数字に表れるから、常にズラし続けることをやらないと数字にも跳ね返って来ないわけですね。

西田氏:本当に少しだけ裏切っていくんです。

平良:少しだけなんですね。

西田氏:そうです。大幅に裏切った時に裏切られた人の快感は大きいですけど、その快感を来週も求められたら流石にそれは無理なんです。

平良:なるほど!20 年続けることの意味は少しずつズラすことが必要なわけですね。

西田氏:
だから、僕自身の特性は続けることに合っていたんだと思います。続けたいと思う以上に向いていた。なぜなら僕は思いっきりは裏切ることのできない人なんですよ。
基本的にテレビマンのほとんどは思いっきり裏切ることのできる人で、先輩たちは思い切りスイングして球を飛ばすような人ばかり。僕はそれが真似できなくて、フワッフワとちょっとずつ飛ばしてそれが風に乗ってうまいこと飛んで行ったようなイメージなんです。

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視聴者の感覚を忘れない

平良:
西田さんのズラす視点には必ず視聴者意識があるんですよね。
なんでもズラせば良いと言うわけでは決してなくて、間違った方向にズレて面白くなくなることもあると思うんですよね。

西田氏:
プロの自分じゃなくて素人の視聴者としての自分がどう見るかを考えます。
どうしてもプロ化が進むと他の人の番組でもアラが目立ったりするんですけど、出来るだけアラ探しをしたりプロ目線では見ないようにしますね。

平良:それは意識的に殺せるんですか?

西田氏:
番組を純粋に楽しむ心を持っておくことが大事だと思っています。プロになるとライバルの商品を見定めるみたいにどうしてもなってしまう所があって、楽しめなくなってしまうんですよ。
でも、いち視聴者としてどんな時に笑って、何をつまらないと思うのかその感覚をちゃんと刻み続けないと独りよがりになって数字だけじゃなく関わってくれている人の気持ちもグリップできなくなってしまう。

平良:
よく聞く話でファンの期待に寄り過ぎると自分達の作りたいモノが作れなくなって、自分達の作りたいモノを作るとなかなか売れない。その葛藤を常に抱えているみたいな話があるのですが、そういう気持ちってあるんですか?

西田氏:
僕は視聴者である僕が楽しんでいることが楽しいと思っていて、クリエイターとしての気持ちよりも、視聴者である自分が喜んでいることの方が嬉しいですね。

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意味が無いものをどう見せるかがバラエティー

平良:意識して視聴者の感覚を保っているんですか?

西田氏:
そうですね。テレビを楽しんでくれている人が大勢いる場所はどこかと考えて、スーパーの前でただ座って観察していたりします。その時に、考えてはダメで理屈はいらないからただとにかく見るだけ。

平良:何も考えず入ってくるものだけを吸収する。

西田氏:
何を見ているのかなってすぐ考えたくなるんですけど、とにかく見とけと。そうすると必要な時に、自分の頭に入れた映像を必要な分だけフォーカスして取り出すことができるんです。人が情報を見る時って基本的には寄った情報を頭に入れるんですけど、寄った情報はもうそこに目線が入っているから、出来るだけ引きの映像でただただ見ることをしています。

平良:考えて見た時点で寄りの映像になって客観性がなくなるんですね。

西田氏:
そうすると使えないんです。その目線でしか使えない。引いておけばその都度編集可能ですよね。だからよく成増や高島平とかで意味もなくぼーっとしていました。
若者のことが知りたければ渋谷とかにも行って、ただただぼーっと。

平良:客観と主観みたいな言葉で言うのかもしれないですけど、理由は後でつけていくってことですよね。

西田氏:
入社直後にジャーナリストにはなれませんって言っていたことに繋がると思うんですけど、ニュースには必ず意味があって「続いては意味のないニュースです」なんてことは起きない。
でもバラエティーは意味は無いけど存在としてある状態なんです。意味の無いものを”面白い”とか”ハッピー”みたいな軸で表現する。もともと意味のあるものを見つけると言うよりは、意味がないものをあるように見せることがバラエティの本髄かなと思っています。

平良:長年ずっとバラエティを作られてきて、これからやりたいことってありますか?

西田氏:
テレビを作る人と言う枠を超えて色んなことにチャレンジしたいと思っていますね。NJ として活動している音楽もそうですし、ラジオでドラマもやっていたりするのですが、最近はミュージカルをやってみたいと突然思い立ってミュージカルをやろうと決めました。

平良:
従来のものからどんな風にズラしたミュージカルになるのか楽しみですね。
西田さんの物事のズラし方がとても面白いですし、弛緩と緊張の作り上げ方も含めてアイデアを出すってそういうことなんだろうなと勉強になりました。

西田氏:
上手くは言えないですけど、結局は信じるものが無ければダメだと思います。自分の直感も含めて信じていないとクリエイティブって成立しない。最後は自分を信じる力なんじゃ無いかなと思いますね。


< 過去の記事 >
アイデアが生まれる瞬間を紐解く 西田二郎氏 対談 # 1
視点をズラすことで見える世界  西田二郎氏 対談 # 2


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