見出し画像

「瓶ビールと缶ビールってどっちがいいの」問題に答えを出しました

ビールが好きな方であれば、一度は疑問に思ったことがあるであろう、問いのひとつ。

「瓶ビールと缶ビールって結局どっちがいいの?」


今日は、この問いに対する(2021年時点における)答えを書いていこうと思います。根拠は以下の4点です。

1. 先輩ブルワー(醸造家)の知識と経験
2. 化学的事実
3. 根拠として信頼できそうなリサーチ
4. 海外のクラフトビール市場の動き

「4. 海外のクラフトビール市場の動き」と比較するために、↑こちらのサイトに掲載されている、日本国内(たぶん)すべてのクラフトビールブルワリー(醸造所)が瓶と缶のどちらを使っているのかを調べてみました。

記事の最後に、リサーチした情報をまとめたスプレッドシートも貼っています。ビール関係のお仕事をしてらっしゃる方、これから醸造所を立ち上げる予定のある方で、興味のある方は、ぜひご覧&ご参照ください。


今回も自己紹介からはじめます

毎回のように自己紹介をさせていただいていますが、僕のnoteの記事を読むのは今回がはじめてという方もいらっしゃると思うので、今日も自己紹介からさせてください。毎度毎度丁寧に入ります。

髙羽 開(たかば かい)と言います。岡山県倉敷市出身の27歳。貿易大手と倉敷のローカルベンチャーを経て、2020年12月に高知県日高村に移住し、今はクラフトビールのブランドとブルワリーの立ち上げを目指し、高知県内で醸造の修行をしています。

ブルワリーを立ち上げるときに、決めなければいけない大きなトピックのひとつに、「ビールをどういった形で販売するか」があります。

画像1

主な選択肢としては、以下のような感じかと思います。

・缶
・瓶
・樽
・ペットボトル
・グラウラー(※)
・容器なし(樽に詰めて、飲食店でグラスに注いで提供)

※「グラウラー」は、ビールを入れる水筒のことです。

これらの容器の中でも現時点で圧倒的にメジャーなのは、缶と瓶ですね。
ブルワリー/メーカー側が容器を選択するときに鑑みる要素は主に以下のようなものがあげれらます。

・ビールの品質に与える影響
・お客さんの利便性
・目指すブランド像
・瓶詰機、缶詰機への設備投資
・各容器のロット(容器メーカーに注文するときの最小単位)
・空間コスト
・輸送コスト
・環境負荷(リサイクル率、製造中・輸送中に発生するCO2など)
・ビール容器に対する消費者の固定概念
(ほかにも考えた方がいい要素があったら教えて下さい!)

画像2

上にあげた要素の中から、今日は「つくる側に関係する項目」「お客さんに関係する項目」「地球に関係する項目」に分けて、その結果から「果たしてどっちがいいのか」を決めてみたいと思います!


つくる側の「始めやすさ」でいうと「瓶」が勝ち

まずは、「つくる側に関係する項目」についてです。お客さんには直接関係しないこともありますが、僕と同じく醸造所の立ち上げを目指している人は、めちゃくちゃ関係することです。

ちなみに、ここであげた情報のソースは、これまでにお会いしたおよそ20名の先輩ブルワーのみなさんです。

・目指すブランド像
これは人それぞれですね。正解はありません。

・瓶詰機、缶詰機への設備投資

瓶詰機と缶詰機を比べると、缶詰機の方がだいぶ高いです。

・各容器のロット(生産・出荷の最小単位)

缶よりも瓶の方が少ないロットで注文できます。缶にプリントした状態で納品したい場合の最低ロットは万単位で、瓶と比べると桁が違います。要するに一度の注文でたくさんお金がいるのは、缶です。(缶にプリントしない状態で納品するのであれば、3,000個くらいから注文できます)

・空間コスト
瓶詰機、缶詰機の大きさについてはモノによりけりなので一概には言えませんが、ロットのところで書いたように、缶は最低ロットが瓶と比べて桁違いに多いので、その分保管スペースが必要になります。

・輸送コスト
瓶の方が圧倒的に重いので、その分輸送するときのコストは缶より瓶の方が高くなります。

画像3

一長一短ありますが、ビールを作る側として導入しやすいのは、瓶の方で間違いありません。実際、これまでに訪問したブルワリーの中で、瓶のみを使っている理由を伺ったところ、設備投資・ロット・空間コストのどれかでした。

ここであげたようなコストは多少なりビールの価格に影響するので、「お客さんには直接関係しない」という書き方にしています。まわりまわって間接的に関係はしています。


ビールの品質にとってより良いのは「缶」

見出しには文の主旨を書くスタイルなので、すでに結論を書いてしまってますが、次に「お客さんに関係する項目」を見ていきます。最初は、なによりも大事な「品質」についてです。

ここでの情報ソースは、化学的事実、根拠として信頼できるネット上のリサーチ、あと先輩ブルワーのみなさんです。

画像4

まず大前提として、ビールは紫外線にとても弱いです。

日光・蛍光灯・水銀灯などの紫外線がビールに照射されることで、「日光臭」と呼ばれるオフフレーバー(※)がビールから発生してしまいます。(くわしくはこちらの論文をどうぞ)

※「オフフレーバー」は、ビールに本来あってはいけない異味・異臭のことです。

ビール瓶として多く採用されている茶色や緑色の瓶は、他と比べると紫外線を通しにくい色ではありますが、それでも100%遮断することはできません。一方缶は、紫外線を完全に遮断します。また、瓶よりも缶の方が密封性が高く、紫外線と同じくビールの大敵で品質劣化の原因になる酸化リスクを極力抑えることができます。

このような理由から、缶の方がビールの品質にとっては良く、醸造所でできたビールにより近い味わいを自宅でも楽しむことができるというわけです。(温度もきちんと管理されてなきゃいけないですが)

画像5

「いやいや、缶のビールはアルミの味がする」
「瓶の方が絶対おいしい」
「瓶の方が何となく高級な感じがしていい」
そう思われる方もいるかもしれません。僕も気持ちはわかります。お店で瓶は出てきてもいいけど、缶だと何だか安っぽく感じちゃいますし、あと瓶ビールは何かエモくて好きです。

ここからは「ビールの品質に与える影響」に加えて、「ビール容器に対する消費者の固定観念」についても見ていきたいと思います。

この、ビール容器と味に対する人々の認識について、2016年にイギリスとノルウェーの方々が行った実験「Bottled vs. Canned Beer: Do They Really Taste Different?(瓶 対 缶:本当に味って違うの?)」で面白い結果が出ています。

まず、瓶と缶のどちらから注がれたか見える状態でビールを飲んでもらい「どっちが美味しかったか」を聞いたところ、「缶」と答えた人が10%ちょっとだったのに対し、60%以上の人が「瓶の方が美味しい」と答えました。
そのあと、目隠しをして容器が見えないようにして飲んでもらったところ、このパーセンテージがほとんど一緒になったそうです。

瓶の方が美味しいだろうという何となくの固定観念が人の判断にどれだけ影響を及ぼしているかがわかります。

画像6

あと、僕にとって何よりも信頼のおける情報ソースである先輩ブルワーのみなさんも、「品質のことを考えるとやっぱり缶の方がいい」という方ばかりでした。


ユーザビリティも「缶」の勝利です

次に、ユーザビリティ(お客さんにとっての利便性)についてです。

これに関しては、みなさんもこれまでの経験上わかるかと思いますが、やっぱり缶の方がなにかと便利です。

瓶と比べて缶の方が圧倒的に軽いですし、割れる心配もほとんどありません。気軽に持ち運びができるという点においては、缶の勝ちです。
それに形の点でも、円柱形の缶の方が冷蔵庫などで保管するときも収納しやすく、かさばりません。

画像7


地球にとってより良いのは、"現在の日本では"缶です

最後は、これからの時代特に大事な「環境負荷」についてです。

結論から言うと、"現在の日本のクラフトビール産業においては"、缶の方が環境負荷が小さいです

この結論は、「ガラスびん3R促進協議会」さんの調査結果と、同協議会の担当者の方との電話MTGでの回答を根拠にしています。

まず、LCA手法(※)を使って相対的に比較された、各容器の環境負荷を表した表をご覧ください。

※「LCA」=ライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment)とは、ある製品・サービスのライフサイクル全体(資源採取―原料生産―製品生産―流通・消費―廃棄・リサイクル)又はその特定段階における環境負荷を定量的に評価する手法のこと(「国立環境研究所」の環境技術解説より抜粋)

画像8

表の内容にうつる前に、赤字で書かれているリターナブル(びん)とワンウェイびんの違いを書きます。

「リターナブルびん」は、国内大手ビールメーカー5社(キリン・アサヒ・サッポロ・サントリー・オリオンビール)が採用しているもので、ビールが入れられて販売・流通・消費されたあと、回収業者や酒屋さん、一部の自治体によって回収→専用の業者によって洗浄→ビールメーカーに戻り、再度ビール瓶として使われる瓶のことです。
大手5社のうち、キリンさんは独自のリターナブルびんを使い、他の4社は共通のリターナブル瓶を使っているそうです。

一方、国内のほぼすべてのクラフトブルワリーのビール瓶は「ワンウェイびん」にあたり、一度ビール瓶として使われたあとに、回収・洗浄してからビール瓶として再利用はされたりはせず、粉砕・再加工して別のガラス製品にリサイクルされるか、もしくは廃棄されます。

ただ、国内のクラフトブルワリーの中でもひとつ例外があります(もし他にもあったら教えて下さい!)。「ゼロ・ウェイスト(廃棄)」に町全体で取り組む徳島県上勝町の『RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store』さんは、リターナブルボトルを前提としたボトルデザインをされていて、(上勝町内で消費されたものに関しては)ボトルを回収し、洗浄・再利用されています。

大手5社が回収〜再利用のスキームを確立しているのに対し、ほぼすべてのクラフトブルワリー(というか日本のクラフトビール産業全体)では、そのスキームを確立できておらず、基本的にビール瓶として作られた瓶は1度しか使われていないのが現状です。

画像9

その前提で改めてこの表の「リターナブル(びん)」「ワンウェイびん」「アルミ缶」を見てみると、環境負荷は小さい順に...

地球温暖化(CO2排出量):リターナブル<アルミ缶<ワンウェイびん
大気汚染(硫黄酸化物):リターナブル<アルミ缶<ワンウェイびん
大気汚染(窒素酸化物):リターナブル<アルミ缶<ワンウェイびん
水資源::リターナブル<ワンウェイびん<アルミ缶
エネルギー消費:リターナブル<アルミ缶<ワンウェイびん
固形廃棄物:リターナブル≦アルミ缶<ワンウェイびん

となります。

水の使用量に関してはアルミ缶が劣るものの、ほかの項目においては、いずれもアルミ缶よりもワンウェイびんの方が環境負荷は大きいようです。

なお、リターナブルびんの環境負荷は「回収率」「再利用回数」「輸送距離」によっても左右されます。すごく簡潔に言うと、回収率が低くなったり、再利用回数が減ったり、輸送距離が伸びれば、その分環境負荷は大きくなります。(ガラスびん3R促進協議会さんの調査結果により詳しい内容が載っているので、興味がある方はぜひご覧ください)

ということで、結論を改めて書くと、回収〜洗浄〜再利用のスキームが整っていない現在のクラフトビール業界においては、瓶よりも缶の方が地球に優しいというのが現状です。

海外(アメリカ)と日本を比較してみましょう

「お客さんにとって、地球にとって、ビールは缶の方がいい」という認識は、日本と比べてクラフトビール市場が圧倒的に大きいアメリカでは、つくる側・飲む側ともに日本よりも進んでいるみたいです。
また、アメリカでは、缶詰作業のみを代行する業者もあるようで、日本と比べて缶を採用するハードルが低いという環境もあるようです。

2017年1月の「Brewers Association」の記事↑によると、クラフトビールの生産重量比での缶の割合は、2013年には5.6%だったのが、2016年には17.2%になっています。

翌年の同時期に書かれた記事↑では、醸造所の生産規模によって差はあれど、2016〜2017年の1年間だけで缶の割合が3.4%〜12.3%増加しています

2018年以降の容器のトレンドに関する記事もありましたが、「Brewers Association」の有料会員のみが見れるようになっていたので、詳細はわかりません。ですが、同様の伸び率で2018〜2020年と推移していたとすると、2021年時点で缶の割合が相当大きくなっていることが予想されます。

画像10

一方日本は、です。
ここでやっと、僕がこつこつ頑張ったリサーチ結果の登場です。全国495のブルワリーのホームページやSNSから、各ブルワリーがビールの容器として何を使ってるのかをまとめました。

※注意事項です。
今回は缶と瓶の比較を目的としているので、容器としては「缶」「瓶」「両方」「その他」の4つのみに分けています。「その他」の中に「ペットボトル」「グラウラーで量り売り」「瓶詰めして飲食店でグラスに注いで提供」など複数項目が含まれていますので、ご注意ください。
また、引用元のサイトでは495ヵ所と書いていましたが、同じブランドが複数のブルワリーや飲食店を運営していたり、すでに閉店している醸造所もあったりで、結果調べたのは466ヵ所です。
それと1番大事なのが、今回はネット上の情報のみをソースにしています。各ブルワリーに確認を取ったわけではないので、100%正確とは言えません。たぶん間違ってるので先に謝っておきます、すみません!

全体の割合は以下のとおりでした。

・缶:4.1%(19ヵ所)
・瓶:74.7%(348ヵ所)
・両方:6.7%(31ヵ所)
・その他:14.6%(68ヵ所)

「缶」と「両方」をあわせても10%ちょっとです。これはアメリカの2014年6月ごろの数値とほぼ変わりません。日本のクラフトビールシーンではいかに瓶が主流かが見て取れます

(脱線しますが、地域ごとの割合の違いなど、いろんな角度から考察してみるのも楽しいです)

結論をいうと...

画像11

すべてのブルワリーは立ち上げの際に、「お金」「お客さん」「市場」「環境」などいろーんな要素を検討した結果、「缶にするか、瓶にするか」を決めています(環境のことをどれだけのブルワリーが考えているのかはとても疑問ですが)。缶で作りたいけど、今の日本で作るなら、缶ではなく瓶を採用せざるを得ないという判断をしたケースもあると聞きました。

そういった状況であることは重々承知の上で言いますが、結論、瓶ビールよりも缶ビールの方が、良いです。

今の日本の現状が変わっていくためには、作り手だけでなく、ビールを買う側の知識や、それをサポートする業界・関連企業も引っくるめて変わっていく必要があります。

でも僕は、今日あげたような缶の優位性がこれから日本でもどんどん理解されて、瓶でなく缶を採用するブルワリーが増えるという流れが来ると思っていますし、来てほしいと願っています。少なくとも、僕は絶対缶にしたいと思います(資金調達がんばります...)。

だってそうなれば、世の中により良いビールがもっと増えます。
そして、自分の子供や孫やもっと先の世代が、地球で美味しいビールを末永く飲むことができる確率がほんの少しだけですがあがります。

次回の記事では、今日ちょろっと書いた環境負荷とも関係しているんですが、ただビールをつくるだけではなく、ビールづくりと並行して社会課題を解決しようと努めている世界のブルワリーについて書いてみようと思います。

最後に

画像12

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

そして、読んだということで「スキ」「ハート」をポチっていただけると嬉しいです。noteのアカウントをお持ちでない方も、匿名でポチれます。
押すと毎回、「ビールにまつわる素敵な言葉」や「ビールの豆知識」が出てきます。(新しい記事を書くごとに更新しています)

Twitterもやってますので、こちらもぜひ。

それでは、またお会いしましょう!
Cheers!!

──他にもこんな記事書いてます──


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?