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【けつえき #1】脳卒中のサポートネットワークをつくる!

グラント愛さん


 日本で毎年、約27万人が新規または再発で発症し、約12万人が発症後に死亡している病気は何か?『脳卒中』である。日本でも世界でも死亡の重要な原因であり、生存しても長期障害に悩まされると言われる。

 グラント愛さんは『脳卒中サバイバー』。脳卒中の中でも、くも膜下出血。死亡率が高く、生存しても後遺症が残る確率も高いことで知られる。


 自宅で寝ながらスマホをチェックしている時だった。「後頭部から線香花火の火花がシュッと鳴った感じで爆発して、魂が抜かれていくような感じ」で倒れていき、その場で痙攣し嘔吐した。

 10分以内に救急隊員が駆けつけてくれ、10分で病院に到着して、すぐに手術。「地域の中心部で大病院が近かったからよかったけど、郊外や一人暮らしではそううまくいかなかった」と振り返る。

 入院中に不思議なことが起こる。目をつぶると「黒じゃなく、いろんな色が出たり。動物のサイが足の裏から3Dで幾何学的な線で見え、自分でも酔うほどに立体的だったり」。発達障害のお子さんでもすべてがドットで見えるなんて似たような話もあると教えてくれた。

 さらに「真っ白で静かな病院」から現実世界に戻ると、「とにかく光が眩しく、台所でお皿を洗うだけの音がうるさい、頭はずっと徹夜明けのような感覚」が続き、1週間後には「突発性難聴も発症。視力も低下し、血圧も不安定になり、失禁までした」。周囲に打ち明けると、みな悪気なく「そんな不安にならなくていいよ、と言うけれど、感覚としてはだいぶ違う」。事前にそういった症状を知らず、「退院=100%復活」という感じで「“後遺症がない”と言われてサポートもない」。生活は、仕事は、グラント愛さんの不安や恐怖が高まっていった。


 同じ境遇の当事者を探しても見つからない中で最初に頼ったのは、脳卒中関連の団体のHP。でも、更新が何年も前だったり、準備中になっていたり。聞けば脳外科医の有名な先生の研究費内でやりくりされていた。「何も情報がない“砂漠”だった」。

 そんな中で頼りになったのは国内ではなく、旦那様の出身地である米国や、その友人で脳梗塞患者の出身地であるオーストラリア。その友人に教えてもらったサポートネットワーク『genyus network』は、グラント愛さんと同じ「脳卒中(くも膜下出血)サバイバー」である元ミュージカルスターが、退院後に自身の症状から孤立感を覚えて同じ患者に出会うために立ち上げた。今やチャットで24時間相談を受け付ける機能まで備え、寄付も多額に上る。グラント愛さんは、そこからリハビリの方法を学び、自律神経が整うと知れば散歩や絵を描いたり、油など食生活に気を付けるなど何でも実践した。その結果、未だ脳が疲れやすいといった症状は残るものの、少しずつ回復していった。


 国内でも同じ症状を持った当事者4人とやっとつながり、アンケートを取った。後遺症の影響から同じ職場でも閑職になっている人や仕事を辞めざるを得なくなった人、原因や解決法が見つからずに病院を渡り歩いた人など。グラント愛さんと同様にサポートが受けられなかった全員から共通して出た言葉は「死にたかった」だった。

 オーストラリアでは発症後10年以内に自殺する人が多く、そうした社会背景の中で前述のサポートネットワークは育っていった。日本はどうか。周囲の人は悪気なく「“生きているだけでいいじゃない”と声をかけてくれる。でも、それが傷つくかも。それ以上何も言えなくなっちゃうから」。


 だからこそ「日本にも、脳卒中のサポートネットワークをつくりたい!」と、グラント愛さんはいま、多くの機会で自身の経験を発信し続けている。もともと人前に積極的に出ていくタイプではなかったが、「病気が自分を変えた。命に限りがあることを悟り、人にどう思われるなんて考える暇もなくなって、ありのままを出せるようになった。病気になった後の方が楽かも。」と笑われた。

 noteへの発信が大手新聞社の目に留まり、記事が掲載された。記事を見た読者から「(同じ病気だった)父親はこんな風に苦しんでいたんだと気付いた」と嬉しい声が届いた。地元の病院も動かした。地元高知に『脳卒中認定看護師』と言われる専門職は県内全体で5人しかいない。そんな地元の病院が『脳卒中サロン』の開設を企画中だ。実現すれば県内初になる。


 治療を終えた、でも障害とも思われない。そんな狭間があることをグラント愛さんから学んだ。「弱音を吐けるところや、社会の理解もまだまだない。日本は未開発。すごいビジネスチャンスだよ。」という言葉に、君も一緒にやるよね?と言われた気がした。一緒にやりたいと思った方はすぐにご連絡を。


▷ 愛さんのnote



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