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【しんぞう #3】障害のある子を、支える奥さんを守る起業

関 勇貴さん


 関さんに初めてお会いしたのは、高知県。「Web制作のサブスクサービスの会社を立ち上げたんですよ。障害のある方やお世話する親御さんなど、通常の働き方が難しくても収入を得られるように」。

 その時、後段が気になったが、まさか関さんご自身のご家族も念頭に置かれているとは思いもよらなかった。


 奥さんが、東京から実家の高知県に戻っての、里帰り出産。

 生まれてきた次男は心音が弱く、調べると、『動脈管開存症』と診断された。赤ちゃんはお母さんのお腹にいるときは肺で呼吸をしないため、肺動脈から肺へ血液を送る必要がなく、その肺をバイパスして大動脈に血液を送ることになる。逆に生まれた後はそれが不要になるため、通常そこを繋いでいた「動脈管」を閉じるのだが、それが開いたままだった。「そのままでは、1年で死んでしまう」。生後3か月で手術を受けた。

 さらに、心臓の上方に存在する左右の部屋(心房)を隔てる壁(心房中隔)に穴が存在する『心房中隔欠損症』も見つかる。小さい頃には無症状であることも多いが、大人になると不整脈や心臓弁膜症につながるケースもある。手術を受けるにも「体重が15kgに達する5歳を超えないと手術できず」、一方で手術できる年頃でも「予約ができず、突然声がかかり、離れた病院に付き添わなければいけない」。


 心臓周りだけではなかった。関さんのお子さんは、1歳まで「全く発話しなかった」。

 言葉を正しく発するには、鼻腔と口腔は分離されている必要があり、『軟口蓋(口の中の天井部分で骨のない柔らかい部分)』がその役割を担う。しかし、お子さんの場合、見た目にはわからないが、それらがつながってしまっている『軟口蓋裂』だった。さらに、両耳にも鼓膜奇形が見つかり、「音が鼓膜に届いておらず、鼓膜に穴も開いていた」。

 これらに手術などの措置をして「2歳から急に話し始めた」が、先天性故なのか言語・聴覚障害故なのか、お子さんには「グレーゾーンの知能の遅れがみられた」。


 こうして関さんと奥さんは共に「成長過程で必要な能力の補填を連続的にやってきた」一方で、お二人の間には少しずつ溝ができていった。これは、関さんご夫妻に限らず、障害のあるお子さんをもったご夫婦間でよく聞かれる話だ。

 当初関さんは、「楽観的に、“うちの子に限って”、“何とかなるだろう”と思っていた」。一方で、奥さんは「先生の話を全て聞いて、ネットで調べて、インスタの非公開アカウントで周囲や病院で知り合ったお母さんとの意見交換を積極的に始めた」。病院の先生との話一つでも、Aの話をされて「奥さんはA´で返し、自分は俯瞰してBで返す」ようなギャップに、「奥さんがノイローゼっぽくなっていった」。

 もともと、仕事をしながら家事と長男の子育てをこなしてきた奥さんに、次男の病気が重ねっていく。精神的に「このままでは、奥さんがダメになる」と感じ、関さん自身も会社を辞めて高知県に完全移住し、フリーランスになった。

 家事や子育てを一緒にやることも大事だったが、それ以上に、奥さんの本音は「次男の病気が今後どうなり、それが長男にどういう影響があり、そして家庭がどう回っていくのか一緒に把握してほしい」というものだった。

 女性は、保育園とか小学校とか目先の現実を何とかしようとする。男性は、その先にどうやって生きていくのかを俯瞰しようとする。「どっちが悪いじゃなく、夫婦間でお互い何が気になるかを確認するすり合わせが必要。」と関さんは振り返る。そして、そこが理解でできなかった頃の夫婦関係は「めっちゃきつかった」が、今は「それができるようになった」と苦笑いした。


 関さんの次男は、「いま年長で、来年には就学」だ。

 息子さんは、生活には全く支障がなく、癇癪があるわけでもない。「人より覚えるのは遅くても、勉強し始めたらずっとやるし、生活習慣も身についている」。でも、「グレーゾーン」なのだ。

 現時点では、普通校の支援学級を選択する予定だが、その意思決定までには「アイデンティティの整理に必要な期間があった」と教えてくれた。正直に、「自分の子が知恵遅れと言われるのが嫌で、世間の目も気にした」。

 でも、それは、子供と向き合う中で、「子供にとっては関係ない。助けてくれる環境を頂けるなら、いくらでも頂いたらいい。男性はプライドを捨てることから始めないと」と切り替わっていった。


 「誰かのことを考えないと、自分が変われるきっかけは絶対にない」という関さんの言葉が、印象に残る。変われたのは、病気のあるお子さんや、奥さんのおかげだった。


 女性が気にかける目先の生活は、「ほぼ奥さんのおかげ」と深く感謝し、男性が気にかける将来について、「最低限、次男の生活費が出せる会社を作っておこうと思って。家族経営にしたいわけじゃないけど、長男に会社も継がせたいぐらい。」と話してくれた。

 これが、冒頭の起業の一つの背景。当事者の家族として、家族を守る起業も、大きな選択肢になる。そして、関さんのストーリーは何より、家族を守る“夫婦のあり方”の大きな参考になる。





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