【しんけい #13】“理解されない障害”でも働ける社会へ
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木林 真理さん
「慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎(ME/CFS)」という障害を初めて知った。長い期間(半年以上)にわたって強い疲労感が続き、全身の脱力などによって、日常生活を送るのが困難になる原因不明の病気である。
その当事者である木林さんは、この障害を端的にこう表現する。「人より何倍も早く疲れてダウンしてしまい、何倍も時間をかけないと疲れが取れない障害」。木林さんの場合、体感として「3倍早く疲労して、5倍遅く回復する」。この障害には最軽度の1から、“介護を受けなければ日常生活を送れない”9まで等級(Performance Status)もあり、木林さんの診断は”介護は必要ないが、一日に半日以上、臥床しなければならない“8だった。
「目に見えない障害」である上に、精神障害のように突発的な症状もなければ、内部疾患のように明らかな異常もない。「何を検査しても異常がないが、健康と言うには異常である、というのがこの障害の特徴なのかな」とも木林さんは教えてくれた。
具体的な症状としては、文字通り「慢性的な疲れ(易疲労性)」が最大の特徴だ。木林さんの場合、「1か月のうち3分の2は体調が悪い」。強い眩暈など、就業に支障が出ると判断した場合は休暇を取らざるを得ない。加えて「体温調整が出来ない」ことも最近注目されている。木林さんの場合、恒温性(体温を正常に保つ機能)が壊れているため、「小雨に数秒当たっても冷えたまま体温が上がらず、そのままでは風邪をひいてしまうので、帰宅後には入浴をして体温を手動で整えなければならない」。
実は、この病気が世界で報告されたのは1980年代、障害認定をされたのが1990年代と比較的古い。一方で、この障害は診断が極めて難しく、また発症例も稀であるため、あまり認知されていない。
木村さんが診断を受けたのも、最近のことだ。医師の見立てでは幼少期から患っていた可能性もあり、その兆候も幼少期からあったが、周りの人は「体が弱い子だから」といって疑問を抱かなかったため、「体が弱いから」のまま30代まで過ごした。ただ、「“体が弱いから”は社会に出て通用しない」ため、段々と弱っていく自分の身体の違和感にフィットするように、社会での働き方を考えなければならなかった。
一般的な就労は、「1日8時間勤務を5日間」かもしれないが、木林さんの場合は4時間を超えた労働で限界を感じ始めてしまう。過去にギリギリ6時間を乗り切った際は、その後2~3日寝込み、回復しないこともあった。その結果、「インフルエンザに罹った時のような怠い体を引きずりながらでも出勤する」ことになる。
日本の障害者雇用の制度上、重度身体障害者、重度知的障害者及び精神障害者である「特定短時間労働者」の労働時間について、雇用率の算定の対象になるには「10時間以上20時間未満」という定めがある。仮に木林さんが4時間働けても3日間は必ず出勤する必要がある。しかし、木林さんが見てきた企業の多くが最低ラインとして設けているのは、「1日4時間、週4日」だった。その溝は、木林さんにとって深く大きい。
就労することができた後も、木林さんは「自分の状態を理解してもらうこと」だけは諦めず訴えてきた。しかし、一度「そうなんですね、分かりました」と障害への理解を示してくれた人でも掌を返すように「怠けないで」「それくらいで」「普通は」と無理解に変わっていく。「そうではない」と懇切丁寧に応えても、相手は聞く耳を持ってくれない。「障害者本人が理解してもらおうとしても、聞く側がそれを取るに足らないと思っている限りは、いつまで経っても平行線」のままだ。
世間で言われる「健康管理は社会人として当然」なんて言葉に反論するわけではない。それでも自分の体調がコントロールできない悩みを抱えている「慢性疲労症候群」という、その正論を叶えられない人も数多くいるのだ。
例えば、「慢性疲労症候群」が感じる「倦怠感」はコロナ感染の後遺症としても知られ、コロナ罹患者にとっては周囲の理解を得やすくなった。しかし、原因不明で認知度も低い「慢性疲労症候群」は「詐病と言われたり、回復が遅いために寝込む時間を必要とすることを怠慢だと言われてきた」ままだ。
業務を疎かにしたくなくて回復のための休暇を取っても、「一々休まないで」と言われてしまう。人員が減れば業務が回らなくなり、別の誰かがそれを残業という形で補うことにもなることも、「休んだ本人が誰よりも分かっている」。言った方もちょっとした言葉かもしれない。でも、無理解な言葉を正論として投げつけられればなすすべがない。
木林さんは、「障害なのは仕方がない」とは思えても、現実の問題として「労働ができない」ことに頭を抱えて生きてきた。何度応募しても、どれだけ条件を相手に合わせても、見飽きるほどの「今回は見送らせて頂きます」を見てきた。現状の就労形態では、慢性疲労症候群の人は就職先が殆どないと言っても過言ではない。
そんな経験を経てきた木林さんは、自分の生い立ちから、自分を低く見ることなく、自身を「使える人材」だと尊厳も失っていない。とはいえ、すべての人がそうあり続けられない。
障害になったといっても、その人の人生はその先も続いていく。木林さんは、自身の経験や多く見聞きしてきた周りの悩みを踏まえて、例えば、業務をより細分化することで、できる人ができるタイミングで小さく就労し、それが基本的な生活の担保につながらないか。そういった形で、社会的弱者でも生きていける社会をどうにかつくれないかを考え続けている。「それが自分の目標です」と発した言葉には、確かに尊厳があった。
ここまで読んでくださった皆さまに‥
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