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【のう #2】「誰かがいないと社会にでられない」を救う


山中 享さん


 『視空間認知』という言葉をご存じだろうか?人が、目から入った情報を脳内で処理し、空間の全体的なイメージに転換するための機能を指す。

 この力が弱いと、形や色を認識したり、形や方向に左右されずに同じモノであると認識したり、モノとモノ又はモノと自分との位置関係を把握したりすることが苦手になる。日常に置き換えれば、ぬり絵をすると枠からはみ出たり、図形が苦手だったり、投げられたボールをうまくつかめないといったところか。


 山中さんの息子さんが3歳の頃。積み木が苦手な息子さんを見て、「親としてはわからなかった」が、経験豊富な医師に「空間認知に課題をもっている」と指摘される。その後、大病院などにも足を運んだが、そう指摘されても、「何をどうしていいか、わからないし、何より子供が可愛かったので、悲観的にはならなかった」。


 しかし、息子さんが自宅から離れた中学校に通う頃、山中さんに危機感が芽生える。

 視空間認知に困難がある息子さんは、「道を覚えられなかった」のだ。毎日学校に通うのに、「道を覚えにくく、忘れやすい」。結果的に、「1年間ぐらい親が付き添いで通わないと覚えられず、このまま誰かがいることが当たり前と思っては、自立できない」と感じ始める。

 最終的に、息子さんは学校への道を覚えて一人で通えるようになったが、それから先を考えれば、「何か解決できる技術がないかと考え始めた」。



 山中さんが、スタートアップ企業での経験を積んだ後、視空間認知故に「誰かと一緒でなければ社会にでられない」課題の解決に挑戦しようと立ち上げたのが、LOOVIC株式会社だ。

 まずは息子さんと同じ困難を抱えるユーザーを探すがなかなか見つからず、息子さん本人の課題を突き詰めることから始める。プロダクトとしては、視覚を確保しながらも音声(聴覚)や振動(触覚)で空間情報をサポートする首掛け型のデバイス開発に取り組んだ。

 しかし、当然だが、ハードウェア開発やその事業化には多額のお金がかかる。そして、何より、「親はいいと思っても、本人が使いたがらなかった」。息子さんは自分だけが「何か特別にやっていることに抵抗感があった」のだ。


 多くの試行錯誤を経て、山中さんが手掛けるプロダクトは現在、ハードウェアからソフトウェアへ、スマートフォンさえあれば使えるナビガイドに変わった。

 変わったのは、形だけではない。以前は精緻に移動支援することを心がけていたが、「過度な支援は自立を阻害する」ことに気付く。誰しも、常にガイドされれば、自分の頭で考えず、その通りに動くだけになってしまう。できるだけ「持ち得る能力を活かした」支援方法を模索してきた。

 さらに、プロダクトのターゲットの考え方も変えた。「研究開発の軸足は当事者だが、マーケットとしては一般の人が誰でも使えるもの」。ふと、前述した息子さんがくれたヒントが思い出される。当事者が特別に使うものではなく、誰もが使うものであり、その中には当然当事者も含まれることが大切なのだ。決していい暮らしができているとは言えない方々も多く存在するため、何かを特別に買わなければならない仕組みも変えたかったのだ。



 「プロダクトは概ね仕上がっている」と話す山中さんに残された課題は、あとは、このプロダクトを「マッチする人にいかに広げるか」だ。

 「視空間認知」と言うと、マイナーに聞こえる人も多いかもしれない。しかし、山中さんの息子さんのように「誰かと一緒でなければ社会にでかけられない」人と捉えれば、「視覚障害、身体障害、高齢者、軽度認知症の方」など数多くのユーザーが見えてくる。さらに、視空間認知障害自体も、日本人の4人に1人が経験すると言われる脳卒中などから負う高次脳機能障害の症状として知られている。そもそも、障害以前に、道を覚えるのが苦手なんて人は、ざらにいる。無理して覚えなくたってもいいが、自然とだれでも外に出ていく楽しみを作れる技術であるため、そんな気軽さであれば、誰にでも提供できるサービスである。


 山中さんは、愛する息子さんから始まったニッチなニーズを深掘りし、その上で、苦労しながらプロダクト形態を変え、そして誰もが使える普遍的なプロダクトに仕上げた。

 このInclusive Hubの取り組みは、ニッチな身体の不自由から発想して、誰もの便利につながるものを生み出すことを支援することを目指している。その意味で、山中さんの挑戦は、理想的だ。故に、応援しないわけにはいかない。できるだけ多くのマッチする人に届くように。





▷ LOOVIC株式会社




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