ピンチをアドリブで乗り越える技 24/100(キャンセル・アンド・コンティニュー)

自問自答を繰り返しながら、
アドリブと演技の関係を
追求していってみようと思い立ちました。
100回(?!)連載にて、お送りします。


ピンチな状況はいくらでも起こります

前回、役者はピンチな状況によく陥るという話をしました。

絶句したり、何か舞台で技術的なトラブルが起きることも、しょっちゅうあります。

あと、原因はよくわからないけど、何かがどうしても上手くいかないみたいな時もあります。その相手が超メジャーな有名人だったりすると、血の気の引くような思いをします…

あと、世界共通で役者がよく見る夢として、「全然セリフを覚えていないのに舞台に立つ」というのがあります。これ、本当に恐怖で、心臓バクバク、全身の血管が縮こまったような状態で目が覚めます。

後は、やっぱり、セリフを間違えてしまう時ですよね。これもかなり痛手です。自分だけの問題で済むのならいいのですが、大体の場合、相手の役者にも迷惑をかけてしまいます。

そんな時、どうしたらいいか、私がイギリスの演劇学校で習ったことの1つに、

『キャンセル、アンドコンティニュー』

というのがあります。『忘れて、続けろ』ですね。

例えば能の中には狂言方の演じる、間語り(あいがたり)というパートがあります。7分から13分位の間、ただただ座って古文のような物語を、延々と語り続けるという役です。

これを一字一句間違わずに語り切るというのは非常に難しいです。
もちろん、間違えることゼロを目指すのですが、絶句するよりも、何か適当なことを言って繋げたほうがいいです。

中には、お客様には絶対に気が付かれない、非常に些細な間違い、例えば「てにをは」を誤る、みたいなミスをしてしまうこともあります。

そんな時

「あー、今の違ったなぁ」

という思いが、脳内に残ってしまうと、また数秒後に次の所でもミスをしがちです。

自分がミスをしてしまったという悔しさや後悔の思いが、煩悩となり、思考回路を鈍らせて、雪だるま式にミスを誘発するのです。

同じことがオーディションに落ちた時にもいえます。

役者はしょっちゅうオーディションをして、しょっちゅうそれに落ちます。

「自分が通らなかったオーディションは、自分の責任ではない」と思い、
また次へ進む、

まさに『キャンセル・アンド・コンティニュー』が非常に重要です。

拒否されたと考えてはいけません。

何故かというと、これはプロデューサー側になったときに実感したのですが、オーディションにおいて、配役をするときは、その役者の演技の出来はもちろん気にはしますが、それ以上に様々な要素が絡み合って決定されます。

演技の上手い下手で判断されているのではないのです。それを肝に銘じて、受からなかったオーディションの事は忘れる。そして前を向きます。

ピンチに陥っている時、なぜその状態になってしまったのかを考える事は、ほぼ無意味だと思ってもいいかもしれません。
それをしてしまうと、どうしてもマイナス思考になってしまい、気が散って、建設的な発想ができない危険性があります。

そして、もしそこから抜け出す糸口が見えた時は、そちらに集中するべきです。

過去を振り返っても、そこから生まれてくるものは、単なる疑心暗鬼と恐怖心でしかなく、せっかく掴んだチャンスすらも棒に振ってしまう恐れがあります。

今はもう、前を向くしかないのです。あなたが歩んできた過去は、背中から一直線にあなたを後へ引っ張っているかもしれません、でも前へ進むエネルギーに集中していないと、後からのエネルギーで後ろへ転げてしまいます。

今に足をつけ立っているためには、過去からのエネルギーと同等の次へ進むエネルギー、いや、それ以上のものがなければ、前へ進むことはできません。

実はこれって、能楽師が舞台上で静止してる状態と同じです。

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