『出所後の悲劇』

背中に陽光を感じながら玄関の前でしばらく佇んでいた。ドアを開け中に入った。
「だれ?」ガールフレンドの声が聞こえてきた。
俺は何も答えず廊下を真っ直ぐ突き進んだ。出所したばかりの俺は皮と骨だけのバケモノのように弱っていて蒼白かった。
「ねえ、だれなのよ?」
「久しぶりだな。俺だよ」

彼女はいつものように黒のスポーツタイツを履きベッドに横になっていた。手に持っていたスマートフォンを放り出し彼女はベッドから飛び上がった。彼女は嬉しそうに俺に抱きつき力のあるキスをした。俺たちはベッドに飛び込んだ。キスをし愛撫しながら服を剥ぎ取っていった。久しぶりの彼女の中は以前と変わらず燃えるように熱かった。

昼寝の後、俺は聞いた。
「ところで車はどこにある?外にはなかったぞ」
「悪い知らせなんだけど、この前フロントをぶつけっちゃたの。本当はもっと前に修理したかったんだけど……。いま、近くの修理工場に預けてあるの」
「ただぶつけただけでちゃんと走るんだろ?」
「もちろん。でも、ちゃんと綺麗に直したかったの」
「すぐ戻ってくる」

修理工場は歩いて数分のところあった。敷地の中を歩いていると外国人の男が俺の車をなにやらいじくり回していた。
「何やってんだ、あんた?俺の車でレースにでも出ようってか?」
「ああ、あんたの車かこのポンコツ」
「5万だ」
「なに?」
「修理代だよ」
「いいかテメー、よく聞け。この車の修理に5万の価値はねえ。そもそも修理する必要なんてないんだ。どうせ頭のイカレた女が持ってきたんだろ。俺はその女の責任を取るつもりはねえ。俺はさっきムショから出てきたばかりで5万なんて金はもってねえ。いま手元にあるのは5千だけだ。それでなんとかしろ」

俺はちょっと強引な手段にでたが外国人の男から車を取り戻した。久しぶりに運転するのは気持ちがよく1時間かそこら街中をドライブした。そして人気のない路地裏に車を止めダッシュボードの奥に手を伸ばし隠していたものを取り出した。

数年ぶりの摂取だったのでとりあえず適量の3倍の量を思い切り鼻から吸い込んだ。天使が地上に舞い降りてきた。妄想なのか現実なのかはっきりしないが羽の生えたフルボディの美女も舞い降りてきて俺たちは数十回に渡って抱き合い共に果てた。

だがそこで誰かが窓を叩く音がした。窓に映る顔は俺がこの世の中でもっとも会いたくない顔だった。ポリスの持つライトが俺を照らす。俺は鼻と口からダラダラと液体を垂らしパンツを下げた状態で署に連行された。



                                    

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