『ブレンデッドウイスキー』を『味噌汁』に例えて説明したい件
この noteブログを始めてから、いつか書こう書こうと思っていてタイミングが見出せなかった死蔵ネタを、ひょんなことから思い出しました。
本題の前に、その『ひょんな』体験からお話しします。
残業して帰宅したある日、作り置きのオカズで物足りなかったので、『即席味噌汁』を引っ張り出してきました。
昨春まで10年に及ぶ単身赴任生活では、贅沢にも『フリーズドライ』の味噌汁を常時ストックしていたのですが、自宅にあったのは『スティックタイプ』の味噌汁。『しじみ云々』と書いてあって、ここ数日は飲酒していないのでことさら肝臓を労わる必要はないのですが、ま、健康に良さげなのでそれにしておきました。
いざ、お湯を注いでよく混ぜて『いただきます!』の段ですが、なんか微妙な味わい…
ただ、腹が減っていたので『ちょっと、お湯を入れ過ぎたかなぁ』程度で気にせずに。
ところが途中で何の気なしにパッケージを見たところ、袋の中に色の違うスティックが残っていて、そこには『調味みそ』と書いてある…?
お分かりでしょうか?
その即席味噌汁は、『顆粒状の出汁+具材』と『ペイスト状の味噌』の2本(2種)のスティックを御椀に入れてお湯を注ぐタイプだったのに、あろうことか『顆粒状の出汁+具材』の1本だけをお湯に溶かして飲んでいたと。
疲れていたとはいえ、それでも多少物足りないくらいで、けっして不味くはなかったわけですが…
かくして、3分の1ほど減った御椀に遅ればせながら味噌ペイストを投入してかき混ぜ、さらに数十秒レンチンして仕切り直した次第です。
ここまで読んで、タイトルの『ブレンデッドウイスキー』との関係に気付かれた方はそこそこのウイスキー通。
なんの関係が?
と思われる方も、興味ありましたらご一読ください。
『ブレンデッドウイスキー』とは、単純に言えば『モルト原酒』と『グレーン原酒』とをブレンドして作ったウイスキーの総称。
ここ20年ほど世界中が『モルトブーム』に沸いていますので、『ブレンデッド』があたかも格下のように扱われる嫌いがありますが、実際には世の中の『ウイスキー』の大半がこの『ブレンデッドウイスキー』であり、主流であります。
この『ブレンデッドウイスキー』を日本の『味噌汁』に例えて説明したのは、サントリーの稲富チーフブレンダーだったと記憶しています。
現代の一般家庭の味噌汁で、水と鰹節と煮干しから出汁を取って、そこに味噌を溶かし込んで作るという家庭が何割程度あるのか存じませんが、筆者が小学校時分の『家庭科』の授業でもそうした作り方は習っています。
ただ、一般的には『出汁の素』だったり『出汁パック』で済ませる家庭も多いでしょうし、なんなら味噌そのものに『出汁入り』と表記された商品もあるようです。
それでもやはり、手間ひまかけて丁寧に取られた出汁はそれだけで日本人の琴線に触れる『旨味』を持っており、味噌を溶かす前段階、単独でも充分に汁物としての完成度を誇ります。いわゆる『おすまし(澄まし汁)』ですね。
一方の味噌はといえば、原料(米麹・豆・麦…)や地域(信州・東海・九州…)により個性豊かで力強い味わいが特徴です。
出汁と合わせて味噌汁として楽しむほか、味噌単独でもいろんな味付けに使われます。
ここまでお話ししてお察しになったかと思いますが、『ブレンデッドウイスキーは味噌汁だ!』という説明に於いては、さながら出汁がグレーン原酒であり、味噌がモルト原酒ということになるわけです。
実際、ウイスキーの世界では、グレーン原酒のことを『Silent Whisky(もの静かな、穏やかな原酒)』と呼んでおり、一方のモルト原酒は『Loud Whisky(声高な、荒々しい原酒)』と呼ばれています。
その産地や製法により個性の違いをアピールしまくるのがモルト原酒で、グレーン原酒の方は重要ではあるけれどもそれほど主張は強くないということです。
ま、日本料理に於ける『出汁』も、強烈な塩っ気と個性的な味わいに満ちた『味噌』に較べれば、上品で大人しいとは言えます。
ということは、流行りの『モルトウイスキー』というのは、『グレーンと混ぜない純粋なモルトの個性』を楽しむ酒ですので、さながら『味噌をそのまま舐めてみた!』みたいな楽しみ方ですね。
というわけで、長々と『ブレンデッドウイスキーは味噌汁である!』という説を書いてみましたが、そもそもなんでブレンドするようになったのか?
そこは、ぶっちゃけ大量生産やコスト面での都合ということになりそうです。
そもそも『モルト原酒』と『グレーン原酒』の違いについてちゃんと説明していませんが、今回は一旦置いといて(苦笑)
モルト原酒は、大麦100%を単式蒸留釜でじっくり蒸留ししっかり寝かせますので、時間も掛かるしコストも掛かる。
グレーン原酒は、とうもろこし・ライ麦・小麦等の穀物を連続式蒸留器で蒸留しますので、モルト原酒と較べれば圧倒的に早く安く作れるという事情があるわけです。
なので、ブランド毎にモルト原酒を何割程度混和するかという比率は担保しつつ、グレーン原酒を混和させていくことになります。
(因みに1989年まで、ウイスキーはそのモルト原酒の混和率によって特級・1級・2級と分類され税率が区分されていました)
こう書いてくると、グレーンウイスキーが安物で、モルトウイスキーが高級品、ブレンデッドはその中間!みたいな誤解を生じがちですが、あながちそうとも言えず。
例えば、『The Scotch』と称される『Ballantine's17年』等がブレンデッドウイスキーの頂点の1つかと思いますが、同社のチーフブレンダーに言わせれば、ブレンデッドウイスキーを家づくりや油彩画に例えて語られます。
いわく、家づくりに於いて土台はグレーン原酒、上屋がモルト原酒。
油絵に於いては、下絵・下塗りがグレーン原酒でカラフルな上塗りがモルト原酒だと…
つまり、しっかりとした『グレーン』と個性際立つ『モルト』の双方なくして家屋も芸術も成立しない!という主張。
なるほど、味噌汁の話と合わせて聴くとなかなか説得力あるお話しかと思いますね。
さて、ブレンデッドウイスキーのお話しをしたくて、そのベースとなるグレーン原酒とモルト原酒の説明を割愛しました。
他にも、一般的な『モルトウイスキー(ヴァッティングモルト)』と『シングルモルト・ピュアモルト』の違い、もっと言えば『シングルカスク』のお話し。
あと、日本の『焼酎』のこともいつか語りたいですね。
今回お話しした『モルト』と『グレーン』と全く同じなんですよねぇ。
意外と知られていませんが、『ブレンデッド』もちゃんと存在します。
と、余韻を残しつつ、今回はこの辺で…
ありがとうございました。
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