見出し画像

谷根千のことを知りながら、物語も楽しめる一石二鳥な小説

小川糸さんの『蝶々喃々』。
少し前に、小川糸さんのエッセイで、
谷根千を舞台にした小説」と
言及されていたので、読んでみました。

不忍通りや言問通り、富士見坂など、
実際の地名はもちろんのこと、
実際にあるお店も登場し、
谷根千のことを知ることができ、

かつ、

主人公と、その家族、恋人、
友人たちが織りなす
複雑で葛藤の多い人間関係を
描いたストーリを楽しめる
1冊です。


ただ、
主人公の恋模様と季節の移ろいが
1ヶ月ごとに丁寧に書かれているのですが、
最後のオチは、好みが分かれると思います。

(ちなみに、過激派(笑)の私は、
おおおぉい!」と、
ツッコミ入れて終わりました。)


この記事では、
印象的だった言葉を少し
紹介したいと思います。



穏やかで優しい言葉、そして何より、食べ物の描写が食欲をそそる

「嫌なこととか苦しいことって、
人生の中では、俺、
闇の部分だと思うんだ」

「でも、
そういうのがなかったら、
いいことっていうか
うれしいこととか楽しいこととか
幸せなこととか、
光らないんじゃないのかなぁ。

ずーっと人生が真昼の明るさだったら、
星の存在にも気づけないんじゃないかって、
最近よく星見てて思うんだよ」

小川糸『蝶々喃々』より引用


それでも、
私はあるがままの
自分の姿を受け入れたいと思う。

心の内で
瓦礫のように無秩序に折り重なる
感情と感情の間から、
光を求めて地上に顔を出す花のように、
私も明るい方を目指して生きていきたい。

ひとりでは到底超えられない困難も、
晴一郎さんと手と手を取り合えば、
もしかしたら乗り越えられるかもしれない。

小川糸『蝶々喃々』より引用


数日かけて黒豆をふっくらと炊き上げ、
数の子も丁寧に塩抜きした。

田作りに使う片口鰯は、
築地まで出向いて他の材料と一緒に
良質ものものを買い揃えた。

黒豆は、真っ黒に日焼けするほど健康で、
まめまめしく働けますように。

数の子は、子宝に恵まれますように。

田作りは、田んぼの稲が豊かに実りますように。

私に直接関係のあることからないことまで、
とにかくきちんと意味を確かめながら、
願いを込めて調理する。


小川糸『蝶々喃々』より引用


かぐわしい香りを漂わせ、
桃はすいすいと口の中へ吸い込まれる。

甘い汁が、
手のひらから滴り落ちる。

私は、
晴一郎さんを食べているような
気持ちになった。

食べれば食べるほど、
甘美な気分に満たされていく。


小川糸『蝶々喃々』より引用


蜜柑ジュース、新米の炊き立てご飯、
あさりのお味噌汁、
ほうれん草とキノコの胡麻和え。
冷や奴、鯵の紐の、肉じゃが、
椎茸と牛肉の山椒煮、
かまぼこ、たらこ、ヨーグルト。

また少し、晴一郎さんと
私の体が同じもので作られていく。

小川糸『蝶々喃々』より引用


順番、ストーリーは関係なく、
印象に残った文章を抜粋しました。

どれも、小川糸さんらしい
優しくて、水平線のように穏やかで、
でも、どこか力強いような言葉でした。


また、小川糸さんといえば、
食べ物の描写」が素晴らしいです。

かぐわしい香りを漂わせ、
桃はすいすいと口の中へ吸い込まれる。

甘い汁が、
手のひらから滴り落ちる。

桃のみずみずしくて、
甘い様子がすぐに想像できますよね。

本文では、このほかにも
谷根千の名物や、
飲食店の食べ物の描写などなど・・・
数多く登場していました。

読むと、
何かを食べたり、
作ったりしたくなるような
不思議な本です。




おまけー実際に谷中へ行ってみたー

小説の中で描かれる谷根千
あまりに素敵な場所に感じたので、
実際に足を伸ばしました。

谷中銀座は、
新旧のお店が並び、
バランス良く街を作っていました。

また、
細い路地にもお店があり、
何度も何度も訪れたい場所でした。


そして、印象的だったのが、
富士見坂の景色

谷中銀座の景色の写真は
撮り忘れましたが、
富士見坂はちゃんと撮りました。

画像1

富士山は見えませんでしたが、
今でも天気が良ければ、
富士山を見ることができるのだそう。

この辺りは、江戸時代から
富士山を見れる場所として、
有名だったようです。

歌川広重さんの名所江戸百景にも、
『 日暮里諏訪の台』として、
作品が残されています。

スクリーンショット 2021-11-09 10.05.41


東京都立図書館のHPより引用



本で読んで、
実際に足を運んで、
谷根千の歴史の深さと、
素晴らしさ
肌で感じることができました。






この記事が参加している募集

サポート不要です!応援したい方がいればぜひその方を応援してください!「応援」という貢献があなたをポジティブにします