キミに伝うきっかけの、爪先。-2nd Act.Ver.1.2.0

=2nd Act.Ver.1.2.0========================
 
 朝が来て、目覚ましの音に気づかなくて、自然と目を覚ましたら6時半だった。
 一瞬やばい!と思って飛び起きるけれど、隣でまだ浬が寝息を立てている。
そんなに焦る時間でもなかったけど、こうなると二度寝は危険だ。どうしても習慣で飛び起きてしまうけど、今日はそうでなくてもよかったのだった。
 なんせ家から1分で学校だ。普段なら8時前には必ず出なきゃいけないけど。なんなら8時25分でも間に合う。
 すっかり忘れていた。ここは結可の家だった。
 ガバッと起きてしまったせいで浬のことを冷やしてしまったと思い掛け布団をかけなおしつつベッドを抜け出す。床の敷布団で寝ていた結可の姿はもうなく、布団は畳まれている。
 早起きしたのかな?と思う。
 ゆっくりと階下に降りると、リビングから微かに音がする。キッチンだろうか。
「おはようございまーす……」
 と私は、ひっそりとその扉を開けた。すると、PCを構えて作業している結可がいた。
「ん?ああ、秋海。おはよう。ゆっくりしてていいのに。まだ6時半だよ?」
「あ、でもいつもの癖で、時間にびっくりして飛び起きちゃって。でもこれから二度寝は危険だなぁと」
「確かに。なんか飲む?」
「……甘えていい?」
「ん?」
「甘めのカフェオレ」
「OK。ってかそれ甘えなの?」
「なんとなく」
「面白いのぅ」
 そう言って結可は作業を中断してキッチンへ向かう。
「昨日の電話の内容、書き起こしておいたから、PCの見てみて」
「あ、ありがとう。この開いてあるやつ?」
「そう」
 確認してから、先程まで結可が座っていたダイニングテーブルの席について、画面に視線を落とす。
半分ほど読んだところで思わず声が出た。
「……めっちゃちゃんとまとまってる。取り留めのない話かと思ってたのに」
「そんなことないよ。全然具体的だったし。順番とかは行ったり来たりしちゃったけど、それはまあ、別に問題じゃないし」
「それは、まあ、整理すればそっか」
「電話しながらPCでログとっておいた効果が出たわい」
「これいつから動く?」
 そこで結可がカフェオレを持ってきてくれた。
「今日から。まず吹部から行こう。あたしのクラスメイトにいるし、休み時間に聞いてみるから」
「まじか。まあ人数多いからね。うちのクラスにもいるけど?」
「こっち先に聞いてみて、紹介してくれそうならそれでOK!無理そうなら頼むね」
「無理ってことはないと思うけどね」
「あ、でも話しちゃってもいいかも。味方は多いほうがいい」
「軽音はもう真っ正面から行くしかないよね」
 もう一つのプランに関係する軽音部には知り合いがいない。
「なーんかいた気がするんだよなぁ。P組に。去年の文化祭でベースやってた気がするんだけど……」
「マジ!?」
「うん」
「浬のクラスだよね?」
「そうなるね。起きてきたら聞いてみよう」
 と、その時。
「おはよー。朝から盛り上がってますねお2人」
 空衣君が起きてきた。寝癖すげぇ。
「まーた遅くまでやってたんでしょ。あったまぼっさんぼっさん。シャワーでも浴びてきたら?」
「今日はシャワーまではいいや。」
「あ、なら秋海、シャワー使うなら使っていいよ」
「……じゃあ、気合い入れたい日だし、ちょっとお借りしよー」
「うん。いっておいでー」
 そう言われてカフェオレを飲み終えて、結可の部屋から昨夜使ったタオルを取りに行くと、ゆっくりと浬が起き上がった。挨拶してシャワーに向かいつつ思う。なんだか結可のテンションが高いと言うかゆるいと言うか。そんなふうに感じる。昨日の浬の告白もそうだけど。まだ出会って1週間程度。結可は最初はもっと厳密で固いタイプだと思っていたけど、あの方が自然なのかな。無理してなくて、自然と砕けてきてるんなら嬉しいけど。空衣君の合流も効果があるのかもしれない。浬もそうだ。あの子の場合は結構明確に開いてくれている気がする。こんなに高速で、人との距離感が詰まったような感覚は初めてだ。生きていれば色々あるものだなぁと思う。
 頭から温かいシャワーを浴びて、簡単にシャンプーをしていると、浬が乱入してきた。
「ちょ、ちょっと!」
「いいじゃーん!女同士いっしょに朝風呂しようぜーいん!」
「別にいいけど、一言くらいなんか言いなさいよ!」
「ぼくの企みじゃありませんー結可さんですー」
 あの野郎。出たらタダじゃおかねぇ。
「ちくしょう。やったな結可め」
「ねえ、秋海さん」
「ん?」
「どうやったら、その、友達のこと、呼び捨てにできます?憧れなんですけど」
「憧れ?」
 2人で頭を洗っていたらそんな話が飛び出した。
「えーでも……もう私たちの間だったら普通じゃない?無理になんて言わないけどさ。日常会話が敬語の方が楽って人もいるじゃん。こっちは勝手に距離感感じちゃうかもだけどさ。でも本人にとってそれがいいならそれでいいし。浬はどっちなの?」
「んー。このモードでいる時は敬語っていうか、ですますのほうが自然なんですよね。意識しないとこうなっちゃうって感じです」
「じゃあ向こうは作ってるんだ」
「あっちはあっちで結構自然なんですよ。時と場合によるというか」
「ああー。なるほどね」
 抱えているものは人それぞれ違うもんね。そういうこともあるだろう。
 それから私たち2人はシャワーを終えて、寝癖直し中の空衣君を若干びっくりさせたあと、身支度を整えて、結可お手製の朝食を有り難く頬張り、4人で学校へ登校する。
 いくつかのメッセージの着信を無視している私は、とりあえずおいておく。

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基本的に物語を作ることしか考えていないしがないアマチュアの文章書きです。(自分で小説書きとか作家とか言えません怖くて)どう届けたいという気持ちはもちろんありますけど、皆さんの受け取りたい形にフィットしてればいいなと。yogiboみたいにw