見出し画像

川からはじまる。ウェルビーイングな地域の未来づくり~参画型ワークショップ~【開催レポート】

こんにちは、たがやすの反中(たんなか)です。

今年度も始まって早1週間を過ぎましたね。
たがやすの拠点のひとつである富山では、桜が散って梨の白い花が一面に広がっています。

さて今回は、富山にて2022年度に実施した神通川流域治水プロジェクトのワークショップのレポートをお届けします。

本プロジェクトは流域を通して街のことを市民一人ひとりが自分ごととして考えていくために、科学者が起点となってはじまりました。科学的な知見を社会に実装していくための科学コミュニケーションが土台となっています。

科学者、行政、市民、あらゆる立場の視点を一緒に持ち寄って進めていくあたらしいつながり・まちづくりの探索です。

科学コミュニケーションについては、こちらをご参照ください。


流域治水って?

ところで、「流域治水」という言葉、耳なじみありますか?

わたしはこのプロジェクトを通して初めて聞いた言葉です。日常的に、行政の取り組みにアンテナを立てたり、自主防災に参加されている方にとっては知っていて当たり前なのかも。社会人としてお恥ずかしい限りです。ですが、わたしと同じように初耳の人が大多数というのが現状のように感じています。

一方で、「例年以上」「過去〇年で最高」という異常気象を伝える天気予報、毎年のように聞きませんか?すっかり聞きなれるまでに、気象状況は毎年変化し続けている。

加えて、土地の利活用方法も住まう人の年齢層も年々変化しています。社会の経済状況の変化に合わせた対応も、持続可能な対策には欠かせません。

従来の河川管理者が主体となって行う治水対策だけでは水害を抑制することが容易ではない現状に対し、河川流域全体のあらゆる関係者が協働し、流域全体で水害を軽減させるために、令和3年に国交省が発表した治水対策が「流域治水」というものです。

わたしの場合、専門家の方がいるとついつい頼りたくなる気持ちが芽生えて受動的になりがちです。でも、自分の暮らしの中で気づけることは、わたしにしか話せないこと。それは、話さなければ伝わらないもの。

熟考できているわけでもないから大したことは話せないし、それが正しいかなんてわからないと思っちゃうけれど、きっとどんな声もすべては正しいのだと思います。ただし、部分的に。

専門家がすべてのステークホルダーの暮らしを十分に理解し、選択と決断をすることは困難です。絶対的な正解がない内容だからこそ、地域のあらゆるひとが自分の話せる部分を声に出し、一緒に考えを重ね合わせ、合意をとりながら選択していくことが地域の暮らしを守ることになる。

多様な方がともに取り組むことは簡単ではないですが、いつ水害が発生するかわからないなかで、速やかな対応も念頭に置かなければならない。

そのためには、一人ひとりが主体的に声を出し、その声を聴きあいながら、専門家や科学者の方が提示くださる制約と技術のなかで、共通する創りたい未来にむかって何ができるのか考えることが必要なのだと思います。

そんな取り組みは、水害にとどまらず、コミュニティの器となって、持続可能な街での暮らしをともに考えていくことにもつながっていくのだと思います。


神通川流域治水プロジェクト


本プロジェクトは、岐阜県~富山県に流れる神通川流域での流域治水を推進するプロジェクトです。

文科省直轄組織 日本科学技術振興機構JSTの採択事業として、東大、岐阜大、中央大の科学者が発起人となって始まりました。はじめて知った時、県外にいらっしゃる複数の科学者の方が、富山の街を一緒に考えてくださっていることにびっくりしました。

科学者の視点があるからこそできることは、住民の思いに対して科学的な根拠や最新の検証を組み合わせながら対策を考えられること。

また、科学者やたがやすのような地域に深く根差していないひとたちが、同じ目線で地域の声に耳を傾けることによって、表に出てきていなかった思いに気づき合える機会が生まれます。

昨年度までは、多様なセクターの思いを対面で交流する機会としてワークショップを開催してきました。そこで聞こえてきた声を集めた結果、必要だと考えたものが「ぷらっとフォーム」です。

それは、流域に関して初めて知る方から深ぼりしたい方まで日常的に情報に触れられ、交流とつながりが生まれる場。そして、有事のときだけでなく、平時のときからぷらっと水害についてともに考えられる場。

そのはじめの一歩として、流域治水との距離感を縮めるためのワークショップを2022年12月,1月,2023年3月に開催しました。


川からはじまる。ウェルビーイングな地域の未来づくり

ワークショップ内容は、どんな機会や体験があると神通川が身近に感じられるのか企画していくこと。科学者、行政、学生、市民、県外からの参加者も一緒に対話をしながら、企画を練り上げます。

本ワークショップの意図は、「いかに上手な企画をするか」ではなく、企画という体験を通じて、「流域治水の意識・認識にどのような変化が起こり得るか」というものです。

毎回、初めて参加される方も安心してご参加いただけるように設計し、専門的な知識も地域の情報理解もばらばらの多様な立場の方が対話しやすいよう、ビジュアルプラクティショナーによるグラフィックレコーディングで伴走しました。

第3回は3月18日に実施し、初参加の方も迎えて約35名の参加者が4つのプロジェクトの企画をまとめました。

対話の様子
対話の様子
企画から生まれたプロジェクト内容

当日のはじまりとおわりには、自身と神通川・流域治水との距離感を数値化し現在地を握ると同時に、企画を通じて抱いた一人ひとりのビジョンも言語化し交流しました。

神通川との距離感を立ち位置で表現する様子
一人ひとりのビジョン

ビジョンを言葉にすることで、ご自身がどのような接点や意図を持ってぷらっとフォームを活用したいのか握るきっかけとなると同時に、見える化することによって、視点のちがいや重なりからも気づきが生まれるのではないでしょうか。

言うは易く行うは難し。一人ではとても難しいことだからこそ、仲間とつながり、自分もやってみたいと思える場所として、活動や意識を「広めること」と立場や利害を越えて持続可能な流域治水を共創する知恵と関係を「深めること」が可能なぷらっとフォームの展開を進めてまいります。


今年度は、広める・深める

広めると深めるを行うために、今年度は主に以下の4つの取り組みを計画しています。

・昨年度に企画したプロジェクトの実行
・発表・交流・実験の場 シンポジウムの開催(7月)
・ワークショップの実施(12月予定)
・オンライン上でのぷらっとフォーム開設

これまでご参加されていた方、流域周辺の方、環境に関して学ばれている学生の方はもちろん、流域治水ってはじめて知ったよ、県外在住だけど関心があるよ、という方の声もとても大切です。

多様な立場のみなさんが安心してご参加いただける聴き合える場をつくっていきますので、ぜひ今後の発信をチェック・ご参加いただけるとうれしいです!

個人的には、科学者という熱量を持って専門性を探究し続けていらっしゃる方と同じ目線で対話し、取り組める機会は、とても貴重でおもしろいのではないかと思っています。

ぜひ、ご一緒できることを楽しみにしております!


本ワークショップは、下記研究事業の一環で実施するものです。
JST RISTEX SOLVE for SDGsソリューション創出フェーズ(2022年度採択)「流域治水に資する動的運用ルールの共創手法の構築と展開 」(代表: 沖大幹 東京大学)

主催: 東京大学,中央大学,岐阜大学
企画運営: 株式会社たがやす/ PECとやま