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かゆみ学#10 ~女性はかゆみに敏感であります~

女性ホルモンが変動する時期、特に妊娠中においては強く不快なかゆみを経験される方はたくさんいらっしゃると思います。

その割合は約20%にも上ると言われており、これに伴いアトピー性皮膚炎の有病率が増加することも知られております。


しかし、なぜかゆみに敏感になるのか、そのメカニズムは深く研究されてはきませんでした。

その理由は個人的には大きく二つあって、一つは僕が今までの記事の中でも毎度言っていますが、かゆみ研究自体がマイナーな分野であるため他分野に比べて研究が進んでいないこと。

そしてもう一つが、雌を使った動物実験がこれまで避けられてきたことです。

なぜかというと、マウスにももちろん性周期が存在しており、時期によって実験結果にバラツキがでてしまい扱いにくいからです。

ですが近年の研究で、性差のある疾患や感覚が次々に明らかとなり、論文でも性差について述べるような実験を入れないと通らないことが多くなってきており、性差は無視できない存在になりつつあります。


そんな中、妊娠中のかゆみについてそのメカニズムの一端を解明した論文が出ました!

スクリーンショット (133)

通称"PNAS"と呼ばれる、歴史あるアメリカのジャーナルで、かゆみの論文がPNASに掲載されるのは結構すごいことなんですよ…!(先ほども言った通りマイナーなんで)

著者はしかもなんと日本人で、国立遺伝学研究所高浪先生であります。

僕もお世話になっている先生で優しくてしかも美人です!(どうでもいい)


チラッと内容を紹介しようと思います。

妊娠期では、2種類の女性ホルモン、エストロゲンプロゲステロンが血中で増加することが知られているため、これらがかゆみの感受性に影響をもたらすかどうか、まず検討が始まりました。

通常、ラットにヒスタミンを投与すると掻き動作が誘発されるのですが、
OVX処置モデルと呼ばれる卵巣を切除したラットを作製し、ヒスタミンを投与するとその掻き動作は減少しました。

よっておそらく、女性ホルモンがかゆみの感受性に関与していることが推測されますが、この結果はエストロゲンによるものなのか、プロゲステロンによるものなのか、検討していきました。

OVXラットにエストロゲンを補充したOVX+E群、またはプロゲステロンを補充したOVX+P群それぞれにヒスタミンを投与したところ、OVX+E群で掻き動作の誘発が起こりました。

また、OVX+P群では掻き動作はほぼ見られることはなく、驚くべきことにOVX+E+P群を作製し同様の検討を行うと、掻き動作はほぼ見られませんでした。

つまり、かゆみの増加にはプロゲステロンではなくエストロゲンが関与している可能性があります。


続いて、かゆみに敏感になっているメカニズムを解析していきました。

脊髄にはかゆみを特異的に伝達しているGRP受容体(GRPR)陽性神経が存在しています。

そこで、オスラットまたはメスラットの脊髄におけるエストロゲン受容体とGRPRの発現の局在を調べました。するとエストロゲン受容体とGRPRの局在は、メス優位的に局在が一致していました。

つまり、エストロゲンだけでなく、エストロゲン受容体もまたかゆみに関して性差があることが明らかとなりました。


紹介した実験はこの論文のほんの一部ですが、総合して、女性ホルモン、特にエストロゲンが女性がかゆみに敏感である理由の一つとしてあることが神経科学的に明らかになりました。

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また、論文の最後で高浪先生はこう述べています。

Taken together, we hope that our research will serve as the basis for the treatment of pruritus in women and a bridge to gender medicine.

なんてかっこいいことでしょうか。。。


いずれにせよ、女性がかゆみに敏感な理由少しは理解していただけたでしょうか?

とは言え、まだまだ未解明な部分はありますが、先生もおっしゃっている通り、これを機にかゆみだけではなく、性差医療の益々の発展を祈りたいところです。

僕の研究を応援して頂ければ幸いです!