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おいしいね
田城さんの知り合いに子供用フォークを愛用する男性がいる。
何でも上野の骨董市に行った際に、衝動的に購入したそうだ。
物は試しと使ってみたところ、非常に使い勝手がよく、手に馴染む。
5歳ぐらいの子供が使うような小さいフォークは、ガタイのいい、この男性を虜にした。
田城さんが食事に誘った時も、必ずこのフォークを持参している。
丸みを帯びた形状の金属。持ち手はこっくりとした飴色の木。
中年男性には非常に不似合いだった。
「ごめんな。こんなの使って」
「なかなか面白いから構わないよ」
「このフォークで食べると何でもうまいんだよ。俺って好き嫌い多かっただろ。でもこれなら食える」
驚くほどの食いっぷりであった。
小さいフォークを使っているからといって食事スピードが下がることなく、むしろあがっているようだった。
体格も、もともとのガタイの良さを考慮しても、いささか増量しているように見える。
「お前さ。少し太った?」
「わかるか? メシがうまいからさ。好き嫌いしちゃいけないって母さんにも言われるし」
これが田城さんと彼の最後の食事になった。
男性はゆるやかに体調を崩していったらしい。
過食症というには嘔吐することもなく、彼の体はボロボロになっていたそうだ。
田城さんは何回か、フォークを手放すようにすすめた。
しかし頑なに拒否された。
「お前だって母親に好き嫌い直してほしいって言われたことあるだろ。これはさ、親孝行の始まりなんだよ」
泣きながら握りしめられていたフォーク。
これは誰の子供の持ち物だったのだろうか。
田城さんの記憶では、彼の母親は彼を産んだ時に亡くなったと聞いていたそうだ。
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