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AIがきわどい業務を拾う世界観【クラウド連結会計こだわり仕様シリーズ】

こんにちは!「マネーフォワード クラウド連結会計(以降“クラウド連結会計”)」のプロダクトマネージャーをしている、HORI です。

こだわり仕様シリーズ第3回

クラウド連結会計を作り上げていく途中で、様々なことを背景から深く検討して仕様に落とし込んでいきましたが、プロダクトの営業資料やヘルプページの仕様説明には書ききれない背景がたくさんあったりします。

(かなり充実したヘルプページがありますが、それはあくまでもユーザー様が操作に迷わないためなので、仕様の背景までは書いてありません)
なので

  • 「なんでこういう仕様になっているんだろう?」

  • 「プロダクト制作側の考え方を知りたい」

と思うようなコアなユーザー様や連結会計の世界に興味がある方に向けて、「クラウド連結会計、こだわり仕様シリーズ」を綴っていきます(全何回とか週イチ更新とかは難しいので、不定期で追加していきます。体系とかナンバリングは増えてきてから整理します)


科目変換にAI導入しました

今回はシリーズ第3回。グループ会社の勘定科目から、連結の統一科目への変換にAIを導入した件を解説します。なお、このAI導入、流行りに乗ってる感は出てしまいますが、結構じっくり考えたものでして、構想、数年がかり、本格検討も1年以上前からやっていました(なので、特許申請とかも出していたりします)。

科目変換業務とは

連結決算に携わったことがある人なら、科目変換という言葉で「あ、あの業務だな」とわかるかもしれませんが、まったく連結業務を知らない人も読者にはいると考えて、どんな業務か先に説明しておきます。

連結会計業界においてはグループ各社の会計システムや勘定科目が違うことが多々あります。
国が違ったり、業種が違ったりするので、完全統一するほうがムズカシイ。(この辺の背景はこだわり仕様シリーズの第1回~第2回を見ていただけるとご理解いただけるかと思います)

でも連結決算という業務では全グループ会社の財務諸表データを統一の勘定科目にそろえた状態にしないといけません。なので、グループ各社の勘定科目を統一の連結科目にそろえる、という作業が必要になります。

これらすべて連結レベルでは「現金及び預金」という勘定科目でOKです

誰がやる業務?

この業務を誰がやるか?が実は意外とバラバラです。大まかなイメージは以下のような感じです。

  • 連結を始めたばかりの会社の場合

    • 子会社にそんなことお願いできないので、親会社の担当者が必死に全社の科目変換をやる

  • 親会社での業務量に限界を感じて、この業務を効率化しようとする場合

    • 選択肢は以下の3つ

      1. 勘定科目を全社統一

      2. 子会社にやってもらい、変換済みの財務諸表だけを貰う

      3. 子会社ができない場合は、子会社の会計事務所に頼む

この選択肢のうち、1が一番簡単そうに見えて、実は一番イバラの道です。全世界のグループ会社を相手に、新しい勘定科目が発生するたびに都度、正しい科目を選択するように指導していくのは並大抵の労力ではありません。

毎日、グループ会社から「こんな取引があるんだが、この科目を追加していいか」という問い合わせを受ける可能性があるわけなので、全世界の経理を仕訳レベルで完全に把握する気概がないとできません(規模次第ではありますが、それが必要なのかという問いに帰着すると思います。)

現場レベルの管理粒度と連結レベルでの管理粒度が違うのに、現場レベルの管理軸である各社の勘定科目を本社で統一管理することは、却って非効率な可能性が高いです。(逆に、国内のみ、各社の業種も同じようなグループでの連結なら統一もアリ)

そして、2、3は現実的な選択肢ではあるのですが、結局のところは「誰かが科目変換作業をしている」という状態になります。誰がやるのかは親会社の経理リソース、子会社の力量、会計事務所の単価 等で決まるので、かなり流動的です。

実態を把握しているのは子会社側、最終的に判断するのは親会社なので「どちらがやるべき」という話ではないからです。

そして、担当者が流動的になりがちな業務であるがゆえに、実はボールの押し付け合いが発生しやすい、という特性があります。システム導入等だと、特にそれが顕著に出ます。

筆者はシステムベンダーの立場で何度このボールを拾ったか数え切れません。誰も拾いたがらない。が、これやらないと前に進めないので、さっさと拾って実践してみせて、「誰がやってもできますよ。そんなに時間かかりません」を説得する感じで進めてました。そこまでやっても、お客様の中で誰がやるかは揉めます。

科目変換は難しい?

実は、国内の科目変換はそんなに難しくありません。名前を見たら9割以上はすぐに判断できると思います。悩ましい科目が出てくることはありますが、それは経理として考えなければいけないモノのなので、作業負担的な話ではないです。

大変なのは、海外の財務諸表の勘定科目を連結の科目に変換する時です。

私がやっていた手順ではGoogle翻訳等にかけて、いったん大まかな意味を把握しつつ、前後の科目や符号をみて、「この科目だろう」を判断していました。場合によってはお客様にも実態をヒアリング(海外子会社なので質問ルートも遠くなります)。一科目ずつ翻訳&判断していく必要があるので、初めての連結などでは鬼のように時間を食います。イメージとしてはほふく前進(笑)。
ただ、ほふく前進でも進まないと突破できない&少しづつでも前進し続ければ突破できるとわかっているので、「突破する」と決めた時は愚直にほふく前進していました。

人間じゃなくもいいかも

こういった背景で、全世界の勘定科目を統一科目に変換する作業をやり続けた結果、筆者は「何語の財務諸表でも何となく勘定科目がわかる」ようになってきました。会計は世界共通の学問なので、ある程度の法則性は同じなのです。

そして、その頃から思っていました。「これ、人間がやらなくても、AIでできるんじゃ?」と。

AIの使い方はあくまでもアシスタント

こういった背景から、クラウド連結会計では、科目変換にAIサジェスト機能を搭載することにしました。

とはいえ、AIによる科目変換に100%の精度を求めることは不可能です。AIはあくまでも「AIとしての意見」をくれるだけですし、責任は負ってくれません。AIは責任者じゃなく、アシスタントと考えて使う必要があります。

ですので、クラウド連結会計では、科目変換の判断が必要なタイミングで「可能性が高そうな3つの科目をサジェスト」という仕様にしています(2023/08現在。将来的には変わる可能性アリ)。

この図では、米国子会社の「Time deposit」という勘定科目に対して、
「定期預金」「現金預金」「預り保証金」の3つの連結科目をサジェストしています。

ただ、このアシスタントがいるだけで、ノーヒントでは全く見当がつかなかったであろう勘定科目のイメージがつかめます。

最終的には前後の科目や符号を見て、誰かが最終判断という部分は変わらないのですが、作業効率が圧倒的に変わります。誰でもできそうだけど、誰もやりたがらない業務をAIが手伝ってくれる、という感じになります。

AI×クラウドの世界観

このAIサジェスト機能により、科目変換業務が圧倒的に効率的になる(それ以外の工夫もあるのですが、そこはまた別の機会に解説します)ことに加え、クラウドシステムという利点を活用すると

  1. まずは親会社が科目変換業務を実施

  2. 早期の段階でグループ会社に作業を移管

という業務移管が自然にできるようになると想定しています。個人的にはクラウドとAIの相乗効果が発揮できる領域だと思っています。

連結会計業界としては初めてだらけの試みなので、まだ数年後の結果を予想するのは早いとは思いますが、この機能が普及していき、プロダクトビジョンの体現となっていくことを期待しています。

最後に

いかがでしたでしょうか?
私たちはこだわりを持ってプロダクトを作り、連結会計の世界を変えていくつもりで日々の開発に取り組んでいます。志を叶えるにはまだまだ遠い道のりですが、このこだわりに共感し、一緒に未来を作っていくメンバーを募集しています。共感された方、気になった方は、ぜひエントリーをお願いいたします。




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