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開始仕訳のパターンはいくつある?【クラウド連結会計こだわり仕様シリーズ】

こんにちは!「マネーフォワード クラウド連結会計(以降“クラウド連結会計”)」のプロダクトマネージャーをしている、HORI です。

こだわり仕様シリーズ第9回

クラウド連結会計のこだわりシリーズの第9回です。第8回では「開始仕訳がなぜ必要か」や「開始仕訳の意味」を解説しましたが、第9回では開始仕訳の作り方に焦点を当てて解説します。


一般的に開始仕訳は何パターンある?

開始仕訳の作成パターンを連結仕訳のパターンごとに考えていこうとすると、まずは連結仕訳のパターンを洗い出すことになるかと思います。日商簿記検定2級で出てくるレベルのものだけを洗い出してみても以下のように多数のパターンがあります。

  • 投資と資本の相殺消去

  • のれんの償却

  • 純利益の非支配株主分への振り替え

  • 配当金の相殺消去

  • 損益取引の消去

  • 債権債務の消去

  • 貸倒引当金の調整

  • 未実現取引の消去(棚卸資産)

  • 未実現取引の消去(固定資産)

  • 個別財務諸表の修正

上記はあくまでも例示列挙のレベルであり、実務ではもっと多種多様な連結調整があります。中にはいくつもの仕訳が積み重なって取引実態を示しているような複雑な連結仕訳が存在したりします。(監査法人時代、いくつもの仕訳が織りなすファンタジー、ということでファンタジー仕訳という名前をつけていました。笑)
連結仕訳のパターンがこれだけあると、開始仕訳もこのパターンと同じだけあるのか?と思ってしまう方もいるかもしれませんが、現実的にこれらの仕訳ごとに開始仕訳のパターンを覚えないといけないわけではありません。

開始仕訳のパターン分けの一般的な手法

開始仕訳をパターン分けする手法としては以下の方法が一般的です。

  • パターン1:繰越がないモノは開始仕訳不要
    繰越の有無で判断。短期債権債務消去や通常売買取引高の相殺消去は当期で完結するので、繰越がない仕訳は翌期の開始仕訳は不要です。一般的には消去と言われる開始仕訳パターンです。開始仕訳不要。

  • パターン2:繰越があるモノは翌期に実現するものかどうか判断
    棚卸資産の未実現取引は翌期に棚卸資産が繰り越されて翌期の損益に影響を及ぼします。しかし、翌期の期中に売買で実現することがほとんどのはずですので、翌期に棚卸資産影響額が売上原価として実現するという前提に立ち、期首利益剰余金への影響額が当期のPLに実現するという開始仕訳パターン。一般的には、実現や洗い替えといわれる開始仕訳パターン。期首利益剰余金と当期のPL科目で開始仕訳を起こします。

  • パターン3:繰越するが実現は翌期にあるとは限らないケース
    資本連結や固定資産未実現、長期貸付金/借入金の相殺消去は翌期以降に繰り越されるので、毎期同じ金額の連結仕訳を開始仕訳として起こすパターンです。一般的には繰越や蓄積といわれる開始仕訳パターン。BS影響額を毎期継続しつつ、損益として過年度に実現した部分を利益剰余金期首残高に置き換えていくような形で開始仕訳を起こします。

実務や今までに登場している連結会計システムは基本的にはこの3パターンで分けて考えています。(システムとしての都合上と会計的な難しさゆえに、開始仕訳の出し方はかなりの独自性がでることが多く、表現方法や出し方はバラつきがありますが、おおむね上記の3つの考え方で答えは同じになるようにできています)

マネーフォワード クラウド連結会計が導き出した結論

ここから先で結論に至った論拠を記載していきますが、マネーフォワード クラウド連結会計では開始仕訳は 繰越 と 消去 の2パターンだけになっています。判断基準は「翌々期以降に引き継ぎたいものか」、「当期か翌期になくなるモノか」の2つだけ判断します。基本的には以下のイメージです。

  • 長期→繰越

  • 短期→消去

ユーザーが連結仕訳のパターンを作成する際の検討事項は上記のどちらになるのか?の判断だけになります。

開始仕訳の作成区分はシンプルに2択

実現・洗替という概念を選択式にしなかった理由

いわゆる短期の債権債務や一般取引売買の仕訳は「消去仕訳」という形で、「開始仕訳は不要」という整理になると解説しましたが、実はシステムのロジックを考える上ではもう一歩踏み込む必要があります。

例えば、「債権債務の相殺消去だが、一部のPL金額の修正を含めて連結仕訳を切った」というようなケースをどう考えるべきでしょうか。
この連結仕訳を「消去仕訳」と分類して翌期に開始仕訳を起こさない選択をするとどうなるでしょうか?

答えとしては、翌期の期首の利益剰余金がズレてしまうため、前期に入れた損益影響部分を、当期の損益として実現させる修正仕訳が必要となってしまいます。
この修正仕訳と開始仕訳を合わせた形は、何かに似ていると思いませんか?
そう、上記のパターン2の実現とか洗い替えとか言われる開始仕訳パターンと同じなのです。

結局、「消去」を選択したとしても、翌期の期首利益剰余金に影響がある場合は期首利益剰余金の影響額と翌期におけるPL影響額を開始仕訳として起こさないといけないことを考え、「消去仕訳であっても期首利益剰余金に影響がある場合は実現仕訳を自動で追加する」という仕様にした場合、実現や洗い替えといわれるパターンをあえて作る意味がなくなるのです。

繰越と消去の違い

ここまでくると、「では、繰越は消去と何が違うのか」という話が気になるかと思います。
しかし、この2つは「BS科目を翌期以降も承継したいか」という部分で明確に異なります。売掛金と買掛金の相殺消去は翌期には開始仕訳不要ですが、長期貸付金と長期借入金の相殺消去は翌期以降の開始仕訳に引き継いでいく必要があります。
この違いが連結実態の何に起因しているか?を考えると「連結相殺消去の対象となる資産/負債が長期に渡って残り続けるものかどうか」の差異であるという結論に至ります。
そのため、「消去と繰越は連結相殺消去の短期性、長期性に基づいての判断して頂く」という唯一の分岐点は残す必要がある。という結論になっています。

「繰越」の開始仕訳の本当の悩み

「繰越」パターンの開始仕訳を、単に「引き継げばいいでしょ」と考えて作られた連結システムは、ユーザーに以下のペインをもたらします。

それは、「永遠に行数が増え続ける開始仕訳」という現象です。
(レガシーな連結システムでもこの考慮漏れは多いです。「あえてやっています」というベンダー説明もあり得ますが、長期の利用の際には「サマリーが必要になる」ということを考慮できなかった、ただの考慮漏れ説?)

典型例は資本連結仕訳ののれんの償却を加味した開始仕訳です。
毎期、のれんの償却を追加していくため、連結仕訳を足していくことになるのですが、その仕訳一つ一つを引き継いでいくような開始仕訳を作ってしまうと、開始仕訳の行数を永遠に減らすことができないため、「仕訳の行数が増え続ける」という事態になります。

また、子会社の売却などで、繰越対象となる実態がなくなった場合でも、過年度に起こした資本連結と資本連結の解消仕訳が開始仕訳で全部起票されてくることになります。(プラスマイナスして影響ゼロの膨大な仕訳の塊が毎期の開始仕訳として計上されてしまいます)

マネーフォワード クラウド連結会計での繰越への対処

行数が永遠に増え続けるのは、ユーザーにとって検証負担になりますし、システムとしても無駄です。そのため、開始仕訳の作成タイミングでサマリーするような仕組みが必要となります。
ただ、上記のようなのれんの消去仕訳の引継ぎ方一つにしても「まとめて引き継ぎたい」というユーザーと、「投資と資本の相殺消去とのれんの償却仕訳は分けておきたい」というユーザーのどちらもいる可能性があります。
そこで、クラウド連結会計は「仕訳キー」という概念を持つことにより、「仕訳キーが同じ仕訳は開始仕訳作成時にサマリー処理を行う」という工夫をしています。これにより、

  • 分割して管理したいユーザー → 仕訳キーを分ける

  • 分割しないでまとめたいユーザー → 同じ仕訳キーで登録してもらう

という方法で、開始仕訳作成時にサマリーしたい/サマリーしたくないをユーザー側で制御できるようになっています。

なお、PL科目は全て期首利益剰余金として引き継いでからサマリーするため、すべての連結影響額が実現した状態になると、
期首利益剰余金/期首利益剰余金 の状態になり、繰越の仕訳でも翌期の開始仕訳は不要になるため、意味のない開始仕訳が引き継がれ続けるような事態も避けることができるようになっています。

仕訳キーが同じものは期首と当期でサマリーされたうえで引き継がれます

まとめ

開始仕訳のパターンとしての繰越、消去の違いをまとめると以下のようになります。

  • 繰越

    • BS科目/BS科目 → そのまま引き継ぎ(同じ仕訳キーでサマリー)

    • BS科目/PL科目 → BS科目はそのまま。PL科目を期首利益剰余金に

    • PL科目/PL科目 → 期首利益剰余金動詞になるので相殺消去して消えます。翌期の開始仕訳はなし

  • 消去

    • BS科目/BS科目 → 開始仕訳なし

    • PL科目/PL科目 → 開始仕訳なし

    • BS科目/PL科目 → 繰越仕訳+実現仕訳(期首利益剰余金とPL科目)

最後に

いかがでしたでしょうか?
私たちはこだわりを持ってプロダクトを作り、連結会計の世界を変えていくつもりで日々の開発に取り組んでいます。志を叶えるにはまだまだ遠い道のりですが、このこだわりに共感し、一緒に未来を作っていくメンバーを募集しています。共感された方、気になった方は、ぜひエントリーをお願いいたします。



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