見出し画像

なぜ日本を舞台にした「フットボールのある風景」を撮影するのか?〜2020年を迎えるにあたっての所感その弐

 2020年代という新しいディケイドを迎えるにあたり、前回は2010年、2000年、そして1990年における自分自身の「旅とフットボール」を振り返ってみた。それでは2020年の私は、どのような「旅とフットボール」の物語を紡いでいくのであろうか。今回はそのあたりの話をすることにしたい。その上で、どうしても触れておきたいのが、現在進めている出版企画についてである。

 これまで22年のキャリアで10冊の単著を上梓している私だが、今年は2つの出版企画を同時に進めている。そのうちのひとつが、写真集の企画。デビュー以来、一貫して写真と文章による書籍を発表してきたが、写真が主で文章が従というスタイルは皆無。「写真家・ノンフィクションライター」という肩書ゆえに、写真集の出版はかねてからの夢であった。とはいえ、もともと写真集は動きにくい商品であることに加え、出版不況がここまで深刻になると極めて難しいだろうという諦念も密かに抱えていた。

 そんな中、これまでお付き合いのなかった版元からお声がけをいただき、いくつか出した企画案の中に写真集を混ぜておいたら「これ、いいですね!」と好感触。ちなみに最初に出した企画は、これまでの海外取材で撮りためた「フットボールのある風景」というテイストであった。これを昨年12月に企画会議にかけてもらったところ、編集者から「これ、日本を舞台にできませんかね?」。さらに「そのほうが全国の書店さんに置いてくれるという判断です」と続けた。

画像1

 なるほど、やはり「売れること」から逆算しなければならないわけか。もちろん考え方としては正しいし、著者としても作品をなるべく多くの読者に届けたいという思いは同じだ。そこでこの年末年始は、日本を舞台にした「フットボールのある風景」というものを自分なりに思索する日々が続いた。やがて私の記憶の奥底から、明快なイメージが浮上する。それは昭和の時代に放映されていた『新日本紀行』という番組。今の40代以上であれば、冨田勲作曲のこちらのテーマ曲に覚えがあるはずだ。

 新日本紀行は1963年から82年にかけてNHK総合で放映された。ジャンルとしては旅番組なのだが、昨今のようにタレントが出演して、名勝を訪ねてご当地グルメを味わうといった内容ではない。その表現は、あくまでストレートでストイック。NHKアナウンサーが日本各地(観光地とは限らない)を訪れ、地元の人へのインタビューとナレーションだけで番組を構成している。派手な音効もなければ、画面を汚すテロップも出てこない。まさに「日本の原風景」を、最低限の加工を施して、詩情豊かにお茶の間に届けていた旅番組であった。

 新日本紀行の世界観に、全国のフットボールの風景をかけ合わせることはできないだろうか? ふと、そんなアイデアがひらめく。私が知る限り、あの番組で「サッカー」が登場することはまずなかった。ならば「日本の原風景✕フットボール」というスタイルでの写真集という企画は、十分に成立するのではないか。そう考えて再度、企画書を提出したところ、見事ゴーサインをいただくことと相成った。

画像2

 日本全国津々浦々のサッカーを訪ね歩く出版企画というものは、写真集以外では過去にもあった。最近でいえば『平畠啓史 Jリーグ54クラブ巡礼 〜ひらちゃん流Jリーグの楽しみ方〜』(平畠さんへの著者インタビューはこちら)。取材当時、54あったJクラブすべてのホームゲームを観戦するという、平畠さんのマニアックぶりには脱帽するしかない。だが私の場合、Jクラブにこだわる考えはない。むしろJクラブがない県にこそ、隠れたフットボールの絶景が広がっていると考えるからだ。

 今季のJクラブ数は56となっているが、複数のJクラブがある都府県がある一方で、Jクラブがない県も8つある(福井、三重、奈良、滋賀、和歌山、島根、高知、宮崎)。誤解しないでいただきたいのだが、私は何もJクラブがないことがよろしくないとは思っていないし、地域に根ざしながらJFLや地域リーグのフィールドで頑張っているクラブには強いシンパシーを覚える。ここ15年ほどは、そうしたクラブを継続的に取材してきて、昨年ようやく47都道府県での取材をコンプリートすることができた。

 Jクラブのホームタウンではなく、Jのある/なしに関係なく47都道府県という切り口で「日本の原風景✕フットボール」を一冊の写真集にまとめ上げる。これは、今までになかった試みであるといえよう。ただし、これまでの取材のストックだけで、すぐに写真集ができるとは考えていない。なぜなら全都道府県において、今回の企画主旨に沿った撮影をしているわけではないからだ。試合中の写真しか撮影していないケースもあり、これでは単なるマニアの写真集になってしまう。

画像3

 そんなわけで今年は、新たに撮影するための旅を計画しなければならない。具体的には、もう14年もご無沙汰している滋賀、天皇杯の取材で一度だけ訪れた島根、地域決勝では何度も訪れているものの「ご当地」らしい写真がない高知、そしてJ1クラブがある県でも意外と縁が薄い兵庫や広島の例もある(実はエディオンスタジアム広島は一度も訪れたことがない)。そうした日本地図の濃淡を整えながら、今年はさまざまな地方都市のフットボールの現場を訪れ、そのひとつひとつを記録に残したいと考えている。

ここから先は

873字
スポーツと旅を通じて人の繋がりが生まれ、人の繋がりによって、新たな旅が生まれていきます。旅を消費するのではなく旅によって価値を生み出していくことを目指したマガジンです。 毎月15〜20本の記事を更新しています。寄稿も随時受け付けています。

サポーターはあくまでも応援者であり、言ってしまえばサッカー界の脇役といえます。しかしながら、スポーツツーリズムという文脈においては、サポー…

よろしければ、サポートをよろしくお願いします。いただいたサポートは、今後の取材に活用させていただきます。