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【世界杯紀行】ブブゼラの音が騒がしく、治安の悪さに怯えながらも、大いに楽しめた大会<2010年@南アフリカ>

「今年はワールドカップイヤーなのに」──。

 最近、このフレーズを目にする機会が多くはないだろうか? 先日のEAFF E-1では、日本代表戦の入場者数が同時期に行われたPSG(パリ・サンジェルマン)のジャパン・ツアーでのそれをはるかに下回った。確かに、両者を単純比較するのは、いささかナンセンスではある。が、ワールドカップイヤーなのに、この熱量の低さは、確かに気になるところではある。

 過去のワールドカップの旅を、このOWL magazineにて大会ごとに紹介するシリーズ「世界杯寄稿」。第2回となる今回は、2010年ワールドカップ・南アフリカ大会を取り上げる。

 実は12年前もまた、今と似たような状況であった。2月に行われた東アジア選手権(現E-1)は香港に勝利したものの、中国にはスコアレスドロー、韓国には1−3で敗戦。4月7日のセルビア戦から、直前のコートジボワール戦までは4連敗を喫していた。

 当時の岡田武史監督については、直前まで「解任」や「監督交代」の噂がつきまとい、書店には『0勝3敗 ワールドカップ南アフリカ大会で岡田ジャパンが惨敗する理由』なんてタイトルの書籍まで並んでいた。日本代表の期待度は今と比べて格段に低かったが、それでも今のように無関心ではなかったように感じる。

 しかし蓋を開けてみれば、日本はグループステージでカメルーンに1−0、オランダに0−1、デンマークに3−1。2勝1敗の2位でラウンド16に進出し、続くパラグアイ戦ではミラーゲームの末にPK戦で涙をのむ結果となった。自国開催の2002年大会を除けば、初めてのワールドカップ・ベスト16。大会前の低評価から一転、岡田武史率いる日本代表の戦いに国民は沸いた。

 そんな追い風もあって、大会期間中にスポーツナビで連載した「日々是世界杯2010」は、光文社新書で書籍化された。私にとっては初めての新書だったが、発売直後に東日本大震災が発生。その影響もあって、残念ながら本書はあまり売れなかった。久々に本書をめくりながら、南アフリカでの日々を振り返ることにする。

 ワールドカップといえば「夏」のイメージが強いが、2010年の南アフリカは1978年アルゼンチン以来となる、南半球で行われる「冬」の大会。そしてアフリカ大陸で行われる、初めての大会である。メイン会場のサッカーシティで行われたオープニングセレモニーでは、アフリカが人類発祥の地であることをさりげなくアピール。(6月11日@ヨハネスブルク)

 今大会で特筆すべきは、現場から即座に発信できるワールドカップだったこと。つまりiPhoneで撮影して、それをテキストを添えてTwitterにアップすることができる、最初の大会だった。当時のiPhoneは300万画素。現在の4分の1しかなく、あまり使い物にはならなかったが(こちらのエリス・パークでの写真は一眼レフで撮影)、それでも画期的なことであった。(6月12日@ヨハネスブルク)

 南アフリカの記憶は、けたたましいブブゼラの音とともに蘇る。もともとは教会の信者が祈りを捧げるために、レイヨウの角で作られたらしい。これが金属に置き換えられてサポーターの応援アイテムとなり、プラスティック製が主流となった1990年代に一気に広まっていった。ポーズを取ってくれたのは、1998年のフランス大会を一緒に旅した、フランス人のキャロライン。南アフリカで偶然、再会することができた。(6月13日@ブルームフォンテン)

 そして迎えたカメルーンとの初戦。日本の先制点が決まったのは39分であった。右サイドからの松井大輔のクロスに、大久保嘉人が2人のDFを引きつけ、逆サイドでフリーになった本田圭佑が左足でフィニッシュ。この1点を守りきった日本が、国外で行われたワールドカップで歴史的な初勝利を挙げることとなった。(6月14日@ブルームフォンテン)

 のんびりサッカーを楽しむ光景からは想像できないかもしれないが、取材者や最も危惧していたのが南アフリカの治安の悪さである。特に最悪なのがヨハネスブルクで「ショッピングセンターのトイレで首をしめられて現金を奪われた」とか「それなりのホテルに宿泊したのに盗難に遭った」とか、大会前からヤバい話に事欠かなかった。(6月15日@ヨハネスブルク)

 そんな難易度の高い大会でも、嬉々として現地に乗り込む、日本の愛すべきサッカー馬鹿たち(褒めてます)。オランダ戦が行われたダーバンで、刀をかざしてポージングしているのが、若き日のちょんまげ隊長ツンさんである。東日本大震災の前年だったので、この頃のツンさんは純粋にサッカー観戦を楽しんでいた。(6月19日@ダーバン)

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