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株式投資 第八章 なぜ私は富豪でないのか?

第八章 なぜ私は富豪でないのか?
株式投資に関していろいろと考えてきましたが、こんな書物を書いている私がなぜ富豪ではないのか? この疑問に答えてみたいと思います。

山田洋次監督の映画『幸せの黄色いハンカチ』というロードムービーを覚えておられる方も多いと思います。赤いレンタカーで北海道を走りながら高倉健、武田鉄矢、桃井かおりの三人が扮する人たちの人間模様を描いたこの映画ですが、もう一人の主演と言っても良いのが東洋工業(今は[7261]マツダ株式会社)のファミリア。
当時工学部の学生で機械工学を学んでいた私は、ご多分にもれず将来はカーメーカーで自動車開発の仕事をしたいと夢見る自動車青年でした。
この映画で映り続けた赤いファミリア、工学的には特にみるべき特徴が無いクルマでしたがこの映画で有名になり良く売れました。そして映画の二年後1979年にモデルチェンジした五代目のファミリアはゼロから設計し直し、ダンテ・ジアコーサ型 のエンジン横置き前輪駆動を採用し、カーマニアにも高く評価され、見事第一回日本カーオブザイヤーに選定されました。

その1979年は前年に起きたイラン革命に端を発した第二次石油ショックが到来し、原油価格が暴騰、カーメーカー各社の新人採用が軒並み中止・削減になった年です。私は工学部の学部長推薦を受けて就職試験に臨んだ富士重工(今は[7270]SUBARU)から、まさかの不採用通知を受けて失意のどん底にいましたが、クルマ好きだったので就職後の最初のボーナスで(私を不採用にした富士重工ではなく)東洋工業の株を買いました。まだ自分で証券口座を持っていなかったので親の口座があった証券会社に電話してもらって、東洋工業株を少々買ってもらいました。

このように人生の最初の株式投資は、投資先企業の財務分析など関係なく、クルマ好き青年が「先進的な設計のクルマを出したな、、、」と思って買った株でした。この時の東洋工業株は半年もしないうちにサラリーひと月分ぐらい値上がりして、喜んで売った記憶があります。

私の場合、株式投資の経験だけは40年以上になるわけですが、投資に戦略が無かった。
宝くじの様なギャンブルと同じで、気まぐれに株を買い、運よく少し値上がりすればすぐに売って、株式譲渡所得税を払って喜んでました。
この時の東洋工業(現在のマツダ)株式を今まで持っていたらどうなっていたか?
あるいは、私を不採用にした富士重工を恨むことなく、富士重工の株を買って、今まで持っていたらどうなっていたか?

もう一つ別のエピソードも紹介しましょう。
第一希望のカーメーカーに就職できなかった私は、大手電機メーカーの子会社に2年ほどお世話になり、そこでコンピューターのイロハを学んだ後に中堅のオーディオ機器メーカーに転職。社内のアプリケーション開発や情報化推進の仕事をしておりました。その会社ではIBMのメインフレームを中心に使っていましたが、図面入りの資料を作る部署にゼロックスのJ-Starという画像処理コンピューターを導入しました。当時のIBMはEBCDIC というローマ字主体のコード体系を拡張して何とかダブルバイト系の漢字・カナを扱っていましたが、J-Starは、オブジェクト指向 の設計思想で単語などの各オブジェクトにプロファイルと言う情報を持ち、拡大縮小も自由自在で各種フォントを使って美しい文書を作る事ができました。WYSIWYG という概念を知って、衝撃を受けた事をよく覚えています。
ゼロックスのパロアルト研究所との交流も深かったアップルコンピューター社は、J-Starと類似の機能をもったLISA というPCを発売し、一台2万ドルぐらいでしたが「個人でも買える」値段でグラフィック処理のコンピューターを販売したことは画期的でした。
その1~2年後だったでしょうか、アップルコンピューター社は本腰を入れてマッキントッシュ を発売し、2万ドルのLISAで実現していた機能を2500ドルで実現したとして、当時のIT業界(まだコンピューター業界と呼んでいたかも)に衝撃を与えました。

その翌年でしたか、夏のボーナスで、私は自宅用にマッキントッシュを一台購入しましたが、月給の3か月分ぐらいした記憶があります。

Macintosh (Wikipedia)

その時、自宅用のマッキントッシュではなく、同じ金額で買えるだけのアップル社の株を買っていたらどうなっていたか、、、、。

結局、私はアップルコンピューター株の最大1200倍への歴史的上昇のすぐ近くにいながら、そのチャンスを手にしなかったし、就職先の第一希望にするほど好きだったスバルを作っていた富士重工の株も買わずじまい。
また独身時代に乗っていたオートバイではYamahaのバイクが好きだったので、結婚を機にバイクから降りるときに、バイク処分代で[7272]ヤマハ発動機の株を買っても良かった。

つまり私が富豪でない第一の理由は、若い時に自分が好きな製品・サービスの会社に投資をしなかったという事。

もう一つ、私は、カネを借りるのが嫌いで、嫌いすぎて、住宅ローンを組むなどという無謀な事(笑)ができず、結果的に50歳になるまで家賃を払って賃貸住宅に住んでいました。50歳の時点で中古マンションを現金払いで購入したのですが、中古とはいえマンション一戸分の現金を、それまで銀行で遊ばせていた訳です。時々株を買っていましたが、儲かればすぐに売ってしまって、その利益は生活の一部として消えていきました。
冒頭でマンションのローン返済分を継続的に株式投資にしていたB氏のシミュレーションを観ましたが、私の場合も自己資金を100%株式投資に回し、おカネに働いてもらうべきでした。
名門の山一證券や長期信用銀行が倒産するほどのリスクに満ちた現実社会を生きてきたのですから、自分が一切借金をしない事や、自己資金をリスクゼロの銀行に寝かしておくことなど、あまり意味がないという事に早く気付くべきでした。

人生の後半、賃貸マンションから出た50歳以降は、家賃を払わなくなった分だけ余裕もできたので、株式投資を継続し、良い思いもしました。まず①好きなカーメーカーに就職し、②ボーナスでトヨタ自動車の株を買い、③トヨタ株の値上がりで自分用のBMWを買う、という若いカーマニアの三つの夢のうち、①以外の二つは実現できたのですから。

トヨタ自動車株以外にも、[7741]HOYA[4543]テルモの将来性を見出し、数年間の投資でサラリー1年分ほどの収益を上げるという大当たりも経験しました。しかし、これらの成功を分析し、パターン化し、繰り返し勝負に出るという継続的な努力をしなかった。

まあ、最大の言い訳として、現役のビジネスマン時代は仕事(それに夜の付き合い)に忙殺されていて、株式投資に時間を避けなかったと思います。思いたい。
しかし、これは本当に言い訳にすぎない。
現役のビジネスマン時代に毎週のようにゴルフに通う時間は取れたし、週に一度、自分のポートフォリオを見直して修正を掛けることができなかったはずはない。

さて、決定的に重要とは思わないですが、もう一つ反省点を上げるとすれば、長い事、私は税に無頓着だったこと。

私は長らくサラリーマンで勤め先の源泉徴収に任せてきて、自分で税の仕組みを勉強しなかった。株式投資で運よく利益を挙げた時にも、無邪気に株式譲渡所得税を払ってきました。今考えると納税時期を後ろ倒しにして含み益の金額も次年度の投資の原資として「稼ぎ続けて貰う」べきだったと反省しています。

分散投資でBuy&Keepに徹して、値上がりした株も短期間で売らずに長期間にわたる値上がりを100%自分のモノにしてきたら、今よりもずっと資産は増えていただろうと思います。

加えて、つなぎ売りのところで説明したように、持ち株の価値が下落する(と判断した)時には、損失一部回避を徹底し、資産の減少を最小化していたなら、、、と思うと、株式投資のメカニズムを熟知して居ると居ないとでは大きな差が出るなぁと実感することしきりです。

最後にダメ押しを一つ。
高校生の時にカール・マルクスの『賃労働と資本』 と題する本を読みました。
マルクスの主著『資本論』には手が出せませんでしたが、この本は岩波文庫でも一番薄いくらいの本だったので、何とか読み終えた記憶があります。高校生の自分でもよくわかる内容で『資本論』においても中心的なテーマの一つを先行して出版していたようです。
この本に書かれている事を要約すると「労働者が賃労働をすればするほど、労働者と資本家の経済格差が広がる」だったと記憶しています。
だったら、労働者は賃労働を辞めなくてはいけない。さもないとますます格差が広がる。
ここまで理解していながら大学を卒業し、就労したのが巨大資本(自営業とくらべれば)の会社のサラリーマン。私は学んだことを実践しなかった。

(Case Study-番外編)
日本最大の企業であるトヨタ自動車の時価総額は2023年11月時点で約45.7兆円。
トヨタ自動車の連結従業員数は375,000人。
会社の価値を従業員一人当たりに割り振ると、457,000億円÷375,000人=1.22億/人
トヨタ自動車で長年働く賃金労働者は一人あたり1.22億円の富を蓄積したか?

まあ、牽強付会のご指摘をいただくことを覚悟しておりますが、労働者をやるより、資本家をやる方が良いwww. 
ここまでわかっていて、日々企業の労働に勤しむばかりで、株式をちっとも購入しない多くの人々。
高校生の時に、哲学者で社会学者であるカール・マルクスの教えを『賃労働と資本』で学びながら、自分の人生に役立てることができなかった自分。
まあ、後悔先に立たず、ですけどね。

、、、、と言うことで私が未だ富豪でないのは、株式投資を継続しなかったことが原因の全てと言っても良いと思っております。

<第八章のまとめ>
○ 投資のビッグ・チャンスは誰の近くにもある。違いは実際に投資するかどうかだ。
○ 好きだったし、先が読めたのに、カーメーカーに投資しなかった。
○ 専門のIT分野でアップル製品の革新性を見抜きながらも、アップル社に投資しなかった。
○ 投資の成功も経験したが、勝因を分析し、パターン化して繰り返すことをしなかった。
○ 投資の時間が無い、などと怠け者の言い訳をしていた。

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