「いいね罪」の恐怖:杉田水脈議員に損害賠償命令(高裁)
ゆっくりしていってね!!!!
フリージャーナリストで#MeToo参加者でも知られる伊藤詩織さんが、杉田水脈議員に「名誉感情を侵害された」として提訴していたわ。
訴訟した理由は、杉田議員が伊藤さんを中傷しているツイート25件に「いいね」を押していた――というものよ。リツイートはしていないわ。また、杉田議員自身が行った伊藤さん批判のツイートもいくつかあるけれど、この訴訟の対象とはしていないわ(背景情報として参照はされるでしょうけど、本題にはならないという形)。
本論に入る前に少し注意喚起しておくと、名誉棄損罪(刑法)での起訴ではないわ。名誉感情の侵害(民法, 不法行為)での提訴よ。
ネット上では「杉田水脈議員が、名誉毀損罪に問われている」と間違えているケースも見受けられたわ。ちょっと気を付けてね!
さて。どうして伊藤さんたちは刑事ではなく民事で訴えたのか?
刑事の名誉毀損罪で訴える場合、最終的な裁判所への起訴は検察官が行うわ。彼らには限りなく勝率100%が求められるから、おそらく伊藤さん側も、「いいね」問題のような蓄積の薄い案件では、まず間違いなく検察の判断で不起訴処分になるだけと予想したのでしょう。
加えて、特にSNSにおける「いいね」問題については、地裁だけれど前例はあって、そこだと負けてる(「いいね」で名誉毀損罪は成立しなかった)のよね。
まあ検察としちゃ、こういうのはやりたくないと思われるのだわ。頑張ってやってもらえたとしても、負けそうだし。
という訳で民事訴訟を起こしたのだけど、まず、前提として、東京地裁では伊藤詩織さんの訴えは認められなかったわ。
その判決文そのものを入手することは出来なかったけど(裁判例検索で頑張ってみたけど無理で、たぶん紙を取り寄せるしかない)、判決文を読んだ人が要約を提供してくれていたわ。
そちらを引用させて頂くわね。
表現が萎縮してほしくないと考えている私としては歓迎したい判決だけど、いまいち確たる基準もないから、相当ふわっとしているなとは思うところ。「25件は"執拗"ではない」ということだけど、これが2倍の50件だったら"執拗"だったのかとかも気になるし。
これが東京高裁では逆転して、杉田議員に55万円の賠償命令が下されたわ。これも判決文全文は手に入らなかったから、各社の報道の中でも比較的判決のポイントがまとまっていた記事を引用させて頂くわね。
シンプルに、上記の地裁判決を丸ごと反転させた内容だったわ。
地裁と高裁の変化をまとめると、こんな感じ。
「いいね」では好意的・肯定的とは限らない→杉田議員は伊藤氏を自身のツイートで批判していた"背景"があるので、好意的・肯定的と受け取れる。
25件の「いいね」は執拗とまではいえない→25件は執拗といえる。
国会議員であることやフォロワー数の多さは関係がない→国会議員であること及びフォロワー数の多さは関係がある。
いや運のみかよ!! 裁判官さんの気分に依存しすぎるのだわ!?
25件が"執拗"かどうかなんて客観的かつ一意に定まるはずはなく、別にTwitterにおける「いいね」なんてワンクリック(ワンタップ)で済む操作だから、かけた日数次第では500件でも少ないという議論だって出来るでしょう。
「11万人というフォロワーが多い」という話も、人気の漫画家やイラストレーター、ゲーム実況者やVTuberに比べるとゴミみたいな数字だとも言えるわ。
参考までに言っておくと、『Hunter x Hunter』の連載再開が楽しみにされている冨樫義博さんのフォロワー数は300万、著名イラストレーターの米山舞さんは90万、ゲーム実況界の覇王ことキヨさんは190万、VTuberのTwitterフォロワーランキングでトップに君臨する白上フブキさんは140万と、「何をもってフォロワー数が多いとするか?」は謎めいているわ。
何なら、えーと……白上フブキさんのこと、私、知らなかったわ。
フォロワー数が多くたって、知らないものは知らないのよ。
こういう「考え方次第だよね」としか思えない「恣意的な基準」を、表現規制について「判断/判定/評論する」際の強い根拠として掲げるのは大変危険よ。
今回の高裁判決は、決してフォロワー数が11万よりも少なければ、公人でなければ、批判の文脈のツイートをしていなければ――「いいね」だけなら安全だと保証してくれているのではないわ。
私は現在、ありがたくも5,700人くらいの方からフォローを頂いているけれど、これを「少ない」と見るか「多い」と見るかなんて実際のところ分からない。
そのうえ、仮にフォロワー数が0であっても、「インターネット上で不特定多数がアクセス可能な状態で公開されている」点を重視して判断されたら、それは「公共の場で叫んだのと同じである」と言えるわ。
私に「いいね罪」は適用されるのか? その答えはまったく不明よ。
そうなると、必然的に安全係数を大きく見積もるしかない。私は高裁判決を見て、ただちにツールを使って自分の過去3,600件のいいねを削除したわ(Twitterの仕様上、ツールを使って一度に削除できるのは3,600件が限界)。
おそらく私は名誉毀損や侮辱にあたるようなツイートに「いいね」は押していないとは思うのだけど、そもそも「何をどこまで言っていれば"批判"としての受忍限度を超えた名誉毀損や侮辱等にあたるのか?」が判然としていないから、「いいねも自分の発言と同程度に訴訟問題になる可能性がある」と認識しておいた方が良いでしょう。
Twitter上では、「杉田議員の場合は〇〇だからダメだった。自分はそうではないから大丈夫」という論調が一部に見られるけれど、それはおそらく杉田議員も「過去の裁判例で、いいねだけでは名誉毀損罪が成立しなかったようだから、大丈夫」とか一応何らかの判断はあったと思うのよ。裁判例まで調査していたかは別としても。
加えて、地裁の段階では、本当に司法判断において「~という理由で、大丈夫」と言われていたものが、高裁では「~という理由で、大丈夫ではない」と言われてしまったわ。最高裁ではどうなるか分からないけどね。
実際、杉田議員が直接行ったツイートで伊藤さんに対する明らかな誹謗中傷があれば、伊藤さん側もそれを訴訟の対象にしたでしょうし、発言に気を付けてはいたと思うわ。「自分はそうではないから大丈夫」論と根本的な発想は同じよね。
この「何が急にアウトになるか分からない」「それなのに、自分は大丈夫なはずだと信じてしまっている(正常性バイアス)」の危険性については、以前にとつげき東北さんがnoteで次のように指摘しているわ。
そもそも、専門知識を有していて、過去の裁判例も参照しているはずの地裁の裁判官でさえ、高裁では「それは間違った判断だ」と指摘されてしまった形よね。
じゃあ、私たちを含め、「これは大丈夫」「これは過去の裁判例では云々」という話をしているけれど、それってこの現状を見るとどのくらい意味があるのかしら? 本件がもし最高裁まで行ったとして、「正しい判断」がどちらに転ぶか、私たちにはほとんど予測不可能よ。
だって、名誉感情の侵害の成立・不成立のどちらを支持していた人も、地裁または高裁の判決のどちらかには既に裏切られた訳だから。
加えて、ヒトシンカさんが私の本記事を引用して、次のようにコメントしてくださっているわ。
今回、高裁では、杉田議員の「いいね」が、伊藤詩織氏の名誉感情の侵害する目的・意図で行われた認定したけれど、ヒトシンカさんは「それは変ではないか?」との旨で疑問を投げかけているわ。
確かに「よっしゃ! あいつの精神にダメージを与えてやろう!」と思ったなら、「いいね」という手段は成功確率がものすごく低いわよね……。
さて。私にできることは、「いいね罪」が不成立になることを祈ることくらいかしら。
「表現の萎縮」を更に強くする結果にしかならないから、積極的に反対していきたいわね。
今回は以上!
よろしければ、noteのスキ&シェアをお願いしたいのだわ!
最後はお礼メッセージだけが出る有料エリアよ。もしもご支援くだされば、大変うれしいのだわ!
ここから先は
¥ 500
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?